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犬用シャンプーが宙を舞う。
予想できたよね。
正面はまさに鉄壁。それ以外は紙装甲も良いところ、はっきり言えば何もない。
赤一色に染まる世界の中で正面にのみ展開された透明なフィールド。人一人分の大きさのそれは僕をピッチリと守るように上方から迫る火炎を掻き分ける。
オブジェクトの後方へと回り込む様な流体力学的な何かさえも無視する破壊不能なバキュラでした。
勿論都市伝説である256回分のダメージを受けても隣の破壊フラグは立たなかった。
そう、火炎は上方から放射されている。
更にもう一つ判ったのは、燃え盛る火炎の次に襲ってくるのは倒壊した建物か何かではなくて、自動する黒い何か。とんでもなく大質量の何かだった。
白、黄、橙、赤、そして黒(new)。
この度新色が追加されました。モノカラーばかりですけど。
我が鉄壁の友、バキュラ君はその新色の大質量の何かさえ凌いで見せた。その重みも感じさせないという憎い奴だ。
では、何故大重量と言ったのかと言えば……
バキュラ君を傘にして押さえつけられた状態の僕に伝わる地響き。その縦揺れは今まで経験したことが無い振幅の大きさだった。
幸い上からの押さえつけが有ったので両足が地面から離れることも、動くことも無かったので安心したのだが、油断もしていた。
突然目の前の黒い何かが消えたと思ったら、遠くでとぐろを巻き絡み合うような黒い雲。
異世界の普段の空模様は知らないけれども、知ってる物理法則なんてきっと役に立たないのだろうと思える景色を一瞬観ることができた。
ただ、それもホンの一瞬で再び黒一色に包まれる。
目の前に展開されたバキュラ君に押し付けられる僕。
ブチュブチュブチュって生々しい音とゴシャゴシヤって固い何かが混ぜ合わされる音。感じた痛みは一瞬だった。
――――
――
白い部屋。
(中略)
そしてまた、【完全防壁】を選択する。
秘策を思い付いたのだ。
伝説の45分の再現。
最近その理不尽な裏ルールが明らかになった、伝説の異種格闘技戦を。
スキルを選択して間もなく、火炎の中へと転送される。
その転送と同時にスキルを発動し、腰を下ろす。膝を立てるようにして上半身を横たえる。
仰向けの状態で叫び気合いを自らに注入する。
「かかってこいや!」
やってやんよ!
あ、ビミョーに違う人が混じった。