偽善の果てに
男は人一倍正義感の強い人物だった。
何処かで病いに伏せる人がいれば、努力の末に得た治癒の力で治し。
悪が跋扈する世界に一人で戦いを挑み、恐ろしいほどの怪力で、それを握りつぶした。
苦悩する人間がいれば、自分なりの考えを伝え道しるべを残す。
しかし、その末に得たものは何もなく。逆に失うものが大半で。正義を行使する為に必要だった力も何者かに奪われた。
彼はそんな世界に絶望しながらも、自分の意思を貫いた。力がないのであれば、大きな事はせず、小さな事でも人の役に立てるならどんなことも厭わなくなった。本当にどんなことでも。
他人から見ればそれがどれほど愚かに見えるのだろう。
人に尽くし、人の為に身を削り、人の為に人生を費やす。
愚かで罪深きその信念。
偽善と言わればそれに尽きる。たが、男は己が信念を突き通した。
そして、最後の最後に得た物は後悔と地獄の風景。彼はもう指一つ動かす事が出来ない。手を差し伸べようにも出来ないもどかしさに、自らを嫌悪した。
「あぁ……もう俺の仕事は終わったのか」
男の眼に涙がたまる。
動かせば、今まで救った人たちの笑顔が走馬灯のように流れた。
何もない平原で、誰に看取られることもなく彼は命を天に返した。