第4話~過去と奇跡~
毎回読んで下さって有難う御座います!
「にゃっ! お姉様の洋服でしたか、黙って借りてしまって申し訳ないにゃん」
「ううん、構わないよ。……だって、お姉ちゃんがその服を着る事はもうないんだ」
「にゃにゃっ? どういうことにゃん? ……そう言えば、昨日からご家族の姿を見ていないにゃん。子供のご主人様が1人で住んで居るのはおかしいにゃん」
昨日まで子猫だったミュウに子供扱いされてしまいました。立場が入れ替わったみたいで何だか不思議。
「……まあ、確かにミュウにちゃんと説明をする必要があるよね」
僕は勉強机の上に置いてあった写真立てを持って来てミュウに見せました。
「紹介するね。後ろの二人が僕の両親で、僕の隣に居るのが美優お姉ちゃんだよ」
「本当にゃん! ミュウと同じ服を着ているにゃん!」
……あっ、ミュウの瞳は猫のままです。驚いた時に縦長の瞳孔が確認出来ました。
「それで、ご家族は今何処に居るにゃん♪」
「……え〜とね、天国……かな?」
「にゃっ!?」
(……あ〜あ、驚かせちゃった……この話をすると気まずくなっちゃうから嫌なんだよね〜)
先程まで元気良く振られていた尻尾はだらんと垂れて、耳もぺたんと伏せてしまいました。
「あ〜、3ヶ月前の事だから……あまり気にしないで良いよ?」
「何を言っているにゃん! 3ヶ月じゃ、まだ最近の話にゃん!」
興奮したミュウに抱き締められてしまいました。……この柔らかい感触……懐かしくて心地良く……ないです! 胸に圧迫されて息が出来ません!
「……むぐぐっ!」
「にゃっ? ご主人様、どうしたにゃん?」
ミュウの力が緩んだ瞬間を狙って何とか脱出しました。
「……はぁ〜」
「にゃん?」
僕が深呼吸をしているとミュウが不思議そうに首を傾げていました。……胸に挟まれて窒息しそうになったなんて、恥ずかしいので黙っている事にします。
「……詳しく話すからこっちに来て」
「はいにゃん」
僕はミュウを連れて一緒にベッドに座り、家族の事を話始めました……
「あのね、3ヶ月前の日曜日に僕を除く三人は車で出掛けたんだ。……お姉ちゃんは高校三年生で、何処の大学を受験するか色々探していたみたい。僕は詳しい事は分からないけど、三人でよく話をしているのを見ていたから」
僕は写真の中で笑っているお姉ちゃんをちらっと見てから話を続けます。
「その日も大学の見学のために外出したんだけどね、対向車がこちらの車線にはみ出して来て正面衝突しちゃったんだ……相手の人は怪我で済んだみたいなんだけど、お酒を飲んでいたから凄い重い罪なるって聞いてる」
「……ふみゅう」
ミュウの手が震えていたので優しく握りしめてあげました。
「それでね、今裁判をやっているんだけど、凄い高額のお金が家に入って来るみたい。お父さんの親友に弁護士の人が居て、その人が手続きをしてくれてるからそっちはお願いしているんだ」
僕は一旦話しを止めて深呼吸をしました。……慣れたつもりだったけど、やっぱり思い出すのは辛いですね。
「……ご主人様」
ミュウが僕の手を握り返してくれました。……優しい心遣いに気持ちが安らぎます。
「でもね、本当に大変だったのはその後だったんだ。……僕の親権を巡って親戚が大喧嘩。僕を養子にすれば一杯お金が手に入るからね、会ったこともない人からも誘われたよ。……僕はそんなお金目当ての人と暮らすのは嫌だったし、この家を離れるのも嫌だった……だってここは、死んじゃったお姉ちゃん達と僕の思い出が沢山つまっている場所だから……」
楽しかった事を思い出していたら胸が一杯になって来たので空を眺めてみました。……ゆっくりと流れてゆく雲を見ていると心か落ち着きます……その間、ミュウは黙って僕の手を握ってくれていました。
「……ふぅ、続けるね。……弁護士さんに相談してみたら、誰かお世話をしてくれる人を探したらどうかって言われたんだ。家事を手伝ってくれる人……例えば家政婦さんみたいな人だね。ただ、信用出来る人じゃないと危ないからって、注意もされたよ。だから、まだ誰も雇ってなくて僕1人でこの家を守っているのさ」
話を終えて僕はため息を吐きました。この話をするのは久し振りですが、何だか胸の支えが下りた気がします。
「はぁ〜、すっきりしたよ〜♪ ミュウ、話を聞いくれてありが……うわぁ!?」
「ご主人様! ご主人様! 1人で大変だったのにゃん。……でも、これからはミュウがずっと一緒に居るから大丈夫にゃん♪」
ミュウは僕の手をぎゅ〜っと握り締めながら上下に振り回しました。……揺さぶられて僕の頭はくらくらです。
「神様にお願いして良かったにゃん。これでご主人様に恩返しが出来るにゃん♪ ……にゃにゃ?」
「……はぅ〜」
何かに気が付いたのか、急に手が止まりました。僕は目を回しかけていたので助かりました。
「ミュウ、ご主人様の事何も知らないにゃん。名前も、年齢も、教えてほしいにゃん」
「ああ〜、そう言えばそうだね〜」
僕はまだふらふらする頭を押さえながら、自分の説明をしていない事に気が付きました。
「自己紹介するね、僕の名前は一ノ瀬優斗。小学4年生で、10歳だよ」
「にゃっ! それじゃあ早く用意しないと学校に遅れるにゃん!」
「ううん、今日は学校に行かなくて良いんだよ」
「どうしてにゃん?」
「さっき説明した様に、僕の周りはどたばたしてて学校どころじゃなかったんだ。そして、家族を失った僕に先生達が気を使ってくれて、余裕がある時だけ学校に来ればいいって言ってくれたんだよ。……昨日は近況の報告も兼ねてたまたま学校に行ったんだけど、帰りにミュウに出会ったのは幸運だったね」
……もしもあの時にミュウに会っていなかったら……恐らくミュウは凍え死んでいたでしょう。
「……なるほど……納得したにゃん! きっとミュウとご主人様は運命の糸で結ばれているにゃん♪ ミュウ、とっても嬉しいにゃん♪」
(……運命か)
僕は小躍りしているミュウを見て微笑ましい気持ちになりました。……家族は死んでしまいましたが、今はミュウが側に居てくれています。運命に感謝するべきですね……
「ねぇ、ミュウ。今度は僕から質問なんだけど、ミュウって女の子だったんだね?」
……思わずメスって言おうとしてしまいました……
「はいにゃ。ミュウは子猫の時から女の子にゃん♪ 見てみるにゃん?」
「うわぁ!? いっ、いいよ! 見た目で分かるから!」
服を脱ごうとしたミュウを慌てて制止しました。びっくりして心臓が止まるかと思いました。
「……ふぅ、もう1つ質問。ミュウとお話してて思ったんだけど、ミュウって人間社会を完全に理解しているよね? 誰にも教えてもらってないのに。やっぱり神様のおかげとかなの?」
「ふにゅう〜……ミュウにもよく分からないにゃ。神様にお願いして、人間の姿になった時には何故か理解していたにゃ。自然にお姉様の部屋に入って、当たり前の様に下着をつけて服を着たにゃん」
ふむ……そもそも猫が人間になる事自体があり得ない訳で……神様が一人ぼっちになった僕に奇跡を起こしてミュウを与えてくれた……そう思う事にしましょう。
「……ふにゅ……ご主人様……ちょっと言いづらい事があるにゃん……」
「……んっ、なんだいミュウ? あっ! それは……」
済まなそうに差し出した手の上には、引き千切られてぼろぼろになった首輪が乗っていました。……間違いなく昨日僕がミュウにつけてあげたものです。
「ご主人様、ご免なさいにゃん。人間になった時に切れちゃったにゃん……」
「い、いや……それよりもミュウが無事で良かったよ」
しょぼくれてしまったミュウの頭を撫でてあげながら、僕はほっとしていました。
(むしろ切れてくれてありがとうだよ。……もし、もっと頑丈な素材で出来ていたら……)
僕は頭を振って嫌な想像を振り払いました。
「新しいのを買ってあげるよ。……命と違って取り返しがつくんだからさ」
「みゃ~い♪ ご主人様優しいにゃん♪」
またしても小躍りするミュウ。でも、僕は新たな問題に気が付きました。
「ミュウ、そのネコミミと尻尾は隠せないのかな?」
「この耳と尻尾かにゃん?」
「ミュウも理解していると思うけど、一般的な常識としてネコミミと尻尾が生えてる人間は居ないんだよね。幽霊とか非現実的なものはこの際省くけど」
「確かにそうにゃん! 他人にばれたらミュウ、何処かの研究所でモルモットにされるにゃん!」
尻尾を逆立てて興奮するミュウ。……発想が飛び過ぎていると思いますが、案外的を射った発言かも知れませんね。
「それでどうなの? 一時的にでも消す事は出来ないの?」
「……多分無理にゃん。ミュウは自分の意思でこの姿になった訳じゃないにゃん。コントロールの仕方なんて分からないにゃん……」
ミュウは残念そうにネコミミを伏せてしまいました。……神様の力で人間になった訳だから、自分ではどうしようもないのは当然でしょう。
(ならばどうするか? 帽子を被ればネコミミは隠せるし、ロングスカートなら尻尾を隠せるかも……あっ、あああ!)
ネコミミと尻尾さえ隠せれば、ミュウは普通の人間として生活出来る……そう考えていた僕は、外見なんかよりも遥かに大きな問題がある事に気付いていませんでした。
(……ミュウの存在をどうやって説明すればいいんだ!)
僕は心の中で叫びました。……家には弁護士さんや学校の先生は勿論、近所の優しい人達がご飯を持って来てくれたりします。
みんなにミュウの事を疑われないで紹介する方法を考えなければなりません。
(どうしよう? 国籍とか住所とか僕との関係とか喋り方とかいつから僕の家に居るとか……うきゃぁ〜! もう、一杯あり過ぎてどうしたら良いのか分かんないよ〜!)
「……ご、ご主人様? 大丈夫かにゃん?」
突然しゃがみ込んで、床を転げ回り出した僕にミュウが声を掛けてくれましたが、僕には答える余裕はありません。
(何か、何かないのか? 全ての問題を解決してくれる方法……あっ!)
その時、僕の頭の中にに1つの方法が浮かびあがりました。歯車がかちっと噛み合った様な、不思議な感覚です。
(いける! この方法なら間違いない!)
僕は床を転がるのを止めて立ち上がりました。そして、ミュウの手をぎゅっと握りました。
「ふにゃん? ご主人様、どうしたにゃん?」
「……ミュウがみんなに怪しまれない方法……見つけたよ」
最後まで読んで下さって有難う御座いました。
話を進めて行くと、疑問や納得のいかないところも出てくると思います。
気になる点がありましたら遠慮なくご指摘下さいね。
それでは、執筆頑張ります!




