第1話~猫を拾っちゃいました~
この度、「冬の童話祭2016」に参加させて頂く事になりました。
皆様の心の片隅に残る様な小説を描きたいと思っています。
「あっ、雨が降って来ちゃった……」
僕は直ぐに鞄の中から折り畳み傘を出して広げました。天気予報では降水確率20%と言っていましたが、外れた様ですね。
「用意周到な僕の勝ち〜♪」
調子に乗って傘を振り回していたら、服が濡れて来たので大人しく普通に差す事にします。
しばらく、水溜まりを避けたり、車が跳ね飛ばしてくる雨を傘で防ぎながら歩いていると、道端にダンボールを発見しました。
「む〜、もしかして〜」
気になって箱の中身を覗いてみると、子猫が丸くなっていました。僕が首に巻いていたマフラーで身体を包んであげると「みゅ〜♪」と鳴いて、箱に前足を掛けてきました。
「おっ!? 意外に元気そうだね〜。よしよし♪」
頭を撫でてあげると僕の手にじゃれついて来ました。健康状態は良好みたいです。
「……やっぱり捨て猫だろうなぁ〜」
猫が濡れない様に傘を差してあげながら、しゃがんでダンボールの中を確認すると1枚の紙きれが入っていました。
《家庭の事情で飼えなくなりました。誰か引きとって下さい》
「……嘘つけ……ば〜か……」
僕は顔も知らない飼い主に悪態をつきました。
「……家庭の事情で子猫を捨てるって……どんな事情なのさ……」
……確かにやむにやまれぬ事情で動物を手放さなければならない事もあるかも知れませんが……子猫が居るなら当然親猫も居る訳で、普通ならば親子で捨てるはずです。
でも、この子は一匹だけでこのダンボールの中に居ます。……僕の憶測ですが、飼い主が去勢等の処置をせずに放置していた為、ある日突然子供を沢山産んで処理に困って……という事だと思います。
……更に言えば12月の寒い日に、毛布を掛けてあげる事もせず、傘の一本も置いてありません。僕には飼い主の性格を表している様に見えました……
「……家庭の事情じゃなくて自分勝手な都合でしょ……」
差し出した指をぺろぺろと舐めている子猫を見ていたら、何だか悲しくなって来ました。……でも保健所に連れて行かれなくて良かった……こうして僕と出会ったのも運命かも知れません。
「……よし! 今から僕がお前の新しい飼い主になってあげる!」
「みゅ〜♪」
僕が抱き抱えてあげると嬉しそうに鳴き声を上げました。
「……お前、人懐っこいね〜。あははっ♪ 擽ったいから舐めないでよ〜……寒かったでしょ? 早くお家に帰って暖まろうね♪」
「みゅ〜♪」
僕が話し掛ける度に鳴いて答えてくれて、会話しているみたいで凄く楽しいです♪
……嬉しくってスキップしながら僕達は家路に就きました……
…………
「とうちゃ〜く! ここが僕の家だよ〜」
「みゅ〜♪」
僕が住んでいるのは二階建ての普通の一軒家です。いつも通りに玄関の鍵を開けて中に入りました。
「僕の家にようこそ♪ 歓迎するよ〜」
「みゅ〜♪」
子猫を招き入れた僕は直ぐに玄関の鍵を掛け、靴を脱いで脱衣場に向かいました。
「お腹空いてると思うけど、少し待っててね。先に身体を洗ってあげるから」
「みゅ〜♪」
「……お前本当にみゅ〜しか言わないね……猫だったらにゃ〜って鳴くんじゃないの?」
「みゅ〜♪」
……う〜ん、変わった猫です。本当に僕の言葉を理解してたりして……そんな訳ないですよね。
「あっ、そうだ! 名前付けてあげないと……」
「みゅ〜♪」
(だから、いちいち返事しなくていいって……あははっ♪ 閃いちゃった)
「みゅ〜みゅ〜言ってるから、今からお前の名前は《ミュウ》だ」
「みゅ〜う♪」
おおっ! 何だかとても嬉しそうです。
「ミュウって名前気に入った?」
「みゅ〜みゅ〜♪」
僕の身体に顔を擦り付けて喜びを表現してくれました。どうやら気に入ったくれた様です。
「ミュウはあまえんぼさんだね〜これから沢山可愛いがってあげるからね〜」
「みゅっ、みゅみゅっ、みゅ〜♪」
「ぷっ! なんだいその鳴き方は笑っちゃうでしょ〜」
「みゅ〜!」
……例え言葉は理解出来なくても心は通じている、何だかそんな気がして来ました……
…………
脱衣場に入った僕は一旦ミュウを降ろして、着ていた服を脱いで洗濯機に放り込みました。そして、洗剤を入れて全自動のスイッチを押しました。
……その間ミュウは僕を見つめて大人しくしていました。
「……ミュウは賢くて良い子だね〜よしよし」
「みゅ〜う♪」
僕はミュウを抱っこして浴室に入りました。そして、シャワーの温度をぬるめに設定して、熱くないか確認してからミュウにかけてあげました。
「ミュウ、熱くない?」
「みゅ〜みゅ〜♪」
ミュウは気持ち良さそうにシャワーを浴びています。……犬とか猫って水を嫌がると思っていましたが、ミュウは違う様です。
「次は身体を洗ってあげないと……石鹸とか使って大丈夫かな〜。……ボディシャンプーは絶対に駄目だろうな〜」
「……みゅう?」
僕が考え込んでいると、ミュウが不思議そうに覗き込んで来ました。
「……ああ、待たせちゃってごめんね。今度猫用のシャンプーを買って来てあげるから、今日は何も使わないで洗ってあげるね」
「みゅ〜う♪」
僕はスポンジでミュウの身体をあげました。シャワーで流しながら優しく丁寧に擦ってあげると、僕に身を寄せて来ました。リラックスしているみたいです。
「……それにしてもミュウの毛並みは綺麗だね。何かの血統書付きなのかな」
「みゅうみゅう♪」
何だか誇らしげなミュウ……褒められれば誰だって嬉しいですよね♪
……ちなみに、ミュウの毛は真っ白で瞳は青色です。猫の事は全然知りませんが、綺麗だな〜と思いました。
「……あまり洗いすぎるのも良くないし……こんなもんかな?」
「みゅう♪」
スポンジで洗うのを止めると、ミュウはぴょんと飛んで僕から離れて浴室の隅に行ってしまいました。
「ミュウ、どうしたの?」
「みゅっ!」
僕が近付こうとしたら、少し強めに鳴きました。……こっちに来るなって言われてるみたいです。
ミュウは僕が来ない事を確認すると、身体をぶるぶる振って水を飛ばし初めました。
「ミュウ、もしかして僕に水が飛ばない様に離れてくれたの?」
「みゅうみゅう♪」
……驚きました、まさか猫に気を使ってもらうとは思いもしませんでした……
「みゅっ、みゅっ、みゅっ!」
僕が唖然としていると、前足で身体を擦る仕草を見せました。……何でしょうか?
「ミュウ、何やってるの? ……ああ、自分の身体を洗えって言ってるんだね?」
「みゅ〜う♪」
その通りと言わんばかりの鳴き方、やっぱりミュウは凄い! 僕の言葉を理解してる!
「直ぐに洗っちゃうから待っててね〜」
「みゅう♪」
……僕が身体を洗っている間、ミュウは大人しく待っていました……
…………
「ミュウ、熱くないかい?」
「みゅうみゅう♪」
「あはっ♪ 良い湯加減だって? それは良かった〜」
ミュウを抱っこして湯船に浸かりました。温かくて良い気持ちです。ミュウもリラックスしているのか足がだらんとしています。
「ぷっ! ミュウ、だらしない格好になってるよ」
「みゅっ!? みゅう! みゅう!」
「あははっ、怒らないでよ〜……ほら、撫でてあげるからさ」
「……ふみゅう〜♪」
……いつの間にか僕はミュウと自然に意思の疎通が出来る様になっていました。
……ミュウは僕の言葉を理解していて、僕もミュウの鳴き方から何となくですが、言いたい事が分かる様になりました……不思議ですが本当です。
「……みゅう?」
「うん? ……もう十分に温まったから出たいの?」
「みゅうみゅう♪」
僕が湯船から上がる、ミュウはぴょんと僕の腕から飛び降りて離れた場所でぶるぶるしています。
「そんなに気を使わなくても良いんだよ?」
「みゅっ!」
そうは行かないと言っています。僕は苦笑いをしながら身体をタオルで拭きました。
「ほら、ミュウの身体も拭いてあげるからこっちにおいで」
「みゅう♪」
僕はミュウの身体を拭いてあげて浴室を出ました。
「次は乾かすから大人しくしてるんだよ〜」
「みゅう♪」
腰にバスタオルを巻いて、ドライヤーでミュウの身体を乾かしてあげる事にします。
「んみゅっ! みゅ〜……」
ブオ〜という音と共に温かい風がドライヤーから吹き出て来ました。さすがのミュウもこれには驚いたのか、目を瞑って四本の足で踏ん張っています。……よく見たら尻尾が逆立っています。結構緊張してるみたいですね。
「ミュウ、もうちょっと我慢してね〜。直ぐに終わるから〜」
「……みゅっ、みゅう!」
「分かった、頑張るって? よしよし、偉い子だね」
……そしてミュウの身体が乾いたのを確認して、僕はドライヤーのスイッチを切りました。
「……ふみゅう〜……」
「ふふっ、ミュウお疲れ様♪」
ミュウは緊張の糸が切れた様にコテッと横になりました。……ミュウがお休みしてる間に僕は着替えを済ませました。
「綺麗になったし次はご飯を食べようね〜♪」
「みゅう〜♪」
……僕はミュウを抱っこして脱衣場を後にしました……
最後まで読んで頂いて有難う御座いました。
少しでも良いお話にしたいので、ご指摘等ありましたら宜しくお願いします。