第2話
次の日から、時間がある時に自動車学校に通い始めたけど、無意識に背の高い男性を探している自分に気付いて苦笑する。
確かに、苦手意識がある体育会系男子なのに、初対面とは思えないほど話が合うとは思ったし、笑った顔がすごく好みだったりもしたけど、あんな極めて短時間一緒にいただけの人に、どうしてこんなにこだわってしまうのか自分でもよくわからない。
そもそも佐倉加奈子という人間は、あまり他人に関心を持ったことがないのだ。
小さい頃から感情が顔に出ない子だった。
学校の勉強は得意な方で、特に数学や物理、化学が好きだった。
きちんと答えが出ることに安心感を覚えたし、解けると快感だった。
逆に、幾通りもの答えが存在するような教科はどうしても気持ちが悪くてダメだった。
そういうわけで、高校、大学とバリバリの理系だ。
感情が顔に出ない上に、目鼻立ちがはっきりした派手目な顔のせいで、どうも冷たい印象を与えるようで・・いつも冷めてるとか、クールとか言われてきた。
実際、自分自身でも冷めてる部分は否定出来ないので、そうやって言われることに対してはもうなんとも思わなくなった。
高校時代から、付き合う相手は論理的な考え方が出来る冷静なタイプばかりで、間違っても熱苦しく想いをぶつけてくるタイプはゴメンだった。
ただ、最初は冷静だった彼氏も、次第に私の冷め具合に業を煮やし、離れていくか暑苦しい男に変身するかでいつも長くは続かなかった。
私が彼氏に対して恋愛感情を持っていないのが原因だと気付いてからは、告られても付き合うことはしなくなった。
大学に入ってそうやって何人か断っていたら、気がつくと、冷たい可愛げのない女の称号を与えられていた。
数少ない女子同士は仲良くやっているので、別にそれはそれで勝手にどうぞって感じだけど。
その日は週に1度の3限からの曜日で、午前中に教習車を予約して、その次の時間に学科を受けることにした。
教習が他の人よりちょっとだけ長引き、学科の教室に入ったのはギリギリだった。
この時間帯は初めてだったけど、7~8人の人がいた。
後ろの出入り口からさっと入り、最後列の空いている席に座る。
学科講習が始まりしばらくすると、なんとなく視線を感じた。
なんだろう……と周りを見回すと、同じく最後列の3つほど向こうの席に座った男性に目が止まった。
こんなに大きい人は滅多にいない。
だけど、すぐには彼だと確信が持てなかった。
なぜなら、顔がよくわからないのだ。
室内だというのにニット帽を目深にかぶり、マスクに黒縁のメガネ。
けれど私の視線を感じたのか、こっちを見て二コッと笑うその目は、あの日のワンコと同じだった。
学科講習が終わるなり、高橋君がこっちにやって来た。
「佐倉さん、久しぶり。今日はこのあとまだ教習とかあるの?」
ほとんど変装みたいな格好だけど、やっぱり高橋君で間違いなかったようだ。
「ううん。今日はこれから学校なの。――それより、どうしたの?その格好……」
「あぁ、これ? ……やっぱり変?」
「変……っていうか、最初誰だかわかんなかった」
「ははっ、そりゃそうだよねぇ」
なんでそんな出で立ちなのかを聞こうとした時、高橋君の背後でこっちを伺いながら、コソコソ話している同年代の女の子3人に気がついた。
さっきまで同じ学科講習を受けていた子たちだ。
高橋君に用事があるけど、私がいるので話しかけられない……ってところかなと思い、
「じゃあ、私もう行くね。」
と、チラッとその女の子達を見ながら言うと、高橋君も彼女たちに気付いたようだった。
なのに、何を思ったのか、
「うん、俺も。」
なんて言って、サッと私の手を取り、女の子たちが話しかけるより先に教室を出て行った。