ある日の出来事
新宿という場所はとにかく人が多い。
東京都民である俺も、祭りかよとぼやいてしまう始末だ。
とっとと用事を済ませて帰ろう。
そう、今日はただふらふらとぶらつくために来たのではない。
今そこで、洋服の有名ブランド店の商品を羨ましそうに眺めている幼馴染と買い物に来たのだ。
ちなみに買うものとは、この幼馴染、佐々木由美の両親への誕生日プレゼント。
俺の親が留守の時よく面倒を見てもらったりするので、誕生日プレゼントを買いに行くという由美について来たのだ。
「おい由美。そろそろ行くぞ。」
「もうちょっと見てたい……かも。」
「はぁ、見てるだけで楽しいもんなのか?買えもしないのに」
多分この店、ゼロが五つくらいつく値段のものばっかだぞ。
「品定めよ品定め。お金貯めて買うの!
「バイトでもすんのか?」
「ううん、売り飛ばすの」
売り飛ばす?いらなくなった本とかか?こいつ意外と読書家だから。
「悠斗を。」
「俺かよ!!幼馴染を売り飛ばすんじゃねぇよ!?」
「冗談よ。バイトするつもり。」
正当な方法で稼いでくれよ頼むから。
「ファミレスなんかやってみたいかも。」
「接客できんのか?」
「うん、自信ある。」
ほう、そこまで言われると試したくなってくるな。
「やってみるか?」
「負けないんだから」
いや、勝負じゃねーよ。
「よし、じゃあいくぞ?入店しましたっと。」
「ご注文はお決まりですか?」
「早ぇぇよ!?入ったばっかだよ!普通そこは人数確認して席にご案内だろ?」
「ご注文はお泊りですか?」
「なんの店!?ファミレスですよねここ!?」
大人の店とかじゃないよな!?
「いいえ、当店はファミリーレズトランです。」
「レズトランってなんだよ!!どう見ても卑猥なお店じゃねぇか!!」
「サーモンカルパッチョになります。」
「頼んでねぇよ!?さてはレズトランのくだり面倒くさくなったな!?」
「当店のお手洗いにはウォシュレットがついてーおりません。」
「なにその報告!?ついてないなら言う必要ないよね!?ってかさっきから会話が噛み合ってないよ!?」
「おタバコはお吸いになられますか?」
「お、やっと接客っぽくなってきたな。いや、吸わないです。」
「おタバスコはお吸いになられますか?」
「客になにさせる気だよ!?それこそサーモンカルパッチョ持ってこいよ!」
「申し訳ございません、当店ではそのようなメニューはございません。」
「さっきのなんだったんだよ!?」
「もぅ、察しが悪いんだからぁ。あれは私の、手・作・り❤︎」
「意味わかんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
ぜぇ……はぁ…………。
ツッコミすぎて息切れが……。
「…………ふぅ、ボケたボケた。」
「なにやり切った顔してやがる……。」
「悠斗も今のでわかったでしょ?私の接客スキルの高さ。」
「お前の接客スキルの壊滅さを知ったよ。」
あんな店員いたら即クビだって。
「さて、そろそろプレゼント探しにいこっか。変な注目浴びちゃたし。」
言われて周囲を見てみると、確かに俺たちは道ゆく人の視線の的となっていた。
「公衆の面前でレズトランはよくないよ悠斗〜」
「お前が言い出したんだろうが!!」
ぶつくさ文句を言いながら、目的地のお店を目指して俺たちは歩き始めた。
背後から忍び寄る謎の人影には気づかずに。