誰か僕を拾ってよ!
僕はついさっきご主人に捨てられた猫。
なんでも、育てて行ける自信がないとご主人は言っていた。
自信がないとか意味がわからないよ。エサさえくれれば僕は迷惑をかけないのに。
そんなわけで今僕は公園の前に置かれたダンボールの中。寒い青空の下で凍えながら早3時間。
人はたくさん通る。しかし誰一人として僕に興味を示さない。
いや、あの汚らしい鼻水を垂らしたクソガキが一人、僕をずっと眺めていたか。でもあんなのに拾われたって、きっと母ちゃんに
「そんなもの飼う余裕はありません! 早く戻してきなさい!」
って言われるに決まってる。
というか、だいたい僕みたいな得体の知れない猫を拾ってくれる人間などいるのだろうか? よほど暇人でない限りそれはないのだろうか……。
あぁ僕は不幸な猫だ。わけもわからない理由で公園の前に捨てられて、寄ってきたのはあの鼻垂れ小僧だけ。
そしてなによりお腹が空いた。そういやお昼まだだよ。
あー、お腹空いた。お腹空いた、お腹空いた、お腹空いた……
そんなことを悶々と考えていると、一人の若い女性が僕の前に寄ってきた。
「どうしたの猫ちゃん? 捨てられちゃったの? 可哀相……」
ちょっと綺麗な人だった。それに、優しそう。
実は第一印象から決めてました、飼ってください。と動物たちから言われそうな、そんな女性だった。
この人に飼ってもらいたい!
僕の心も完全に彼女にとらわれた。
「お名前なんていうんだろう……」
「えっと…僕、ユウっていいます。 どうか僕を拾って下さい!」
僕は必死にアピールを試みた。
しかし、その女性はしばらく凍り付いたまま動かない。
あ…あれ? 僕なんかマズイこと言ったかな……。
次の瞬間、彼女はただならぬ悲鳴を上げ、どこかへ駆けていってしまった。
…ぽつーん
も、もういいよ……。誰でもいいから……誰か……誰か僕を拾ってよ!
あれからまた数時間たった。僕の空腹はまさにぜっこうちょ……絶頂に達していた。
しかも辺りは……黒く? ……あ、暗くなり始めてる。
いっそホームレス(野良猫)にでもなって、今日のところは……えーと。
あーダメだ、お腹が空いてもう意識が朦朧と……
「おい」
突然声を掛けられて、僕はビクッとなった。
あの鼻垂れ小僧だった。「なんだ、チビ助」
「お前の方がチビだろ」
「なんだと?」
お腹が空いていた僕は少々荒れていた。決して普段からこんな口調だと思わないでほしい。
普段の僕は温厚そのもの。優しくて人なつっこ……って何まじまじとこっち見てんだクソガキ。
「ほんとに変な猫だなお前」
「なにが?」
「人間と喋れるなんて」
何を言ってるんでしょうこの人? 頭がおかしいのでしょうか。
「普通、猫は喋れないんだよ」
「へ…?」
なんか、今まで信じていたものが崩壊していくような、そんな感じがした。
つまり猫は……人間の言葉を話せないと?
つまり前のご主人が言ってた、『育てていく自信がない』というのは……僕があまりに変な猫だったからってこと……?
「他の猫見てなんともおもわなかったの? まさか友達いなかったとか?」
「……うぅ」
う…うるさい、何コイツ。 衝撃的な事実に続けて、さらに痛い所を突くな。
僕はついに泣きだしてしまった。
クソガキは僕が泣いているのを物珍しそうに見つめた。まるで、猫が泣くのもおかしいみたいに。
「そう、泣くなよ。お前を拾ってあげるから」
「え…」
「さっき母ちゃんに聞いてきたんだ。そしたら飼ってもいいってさ」
「本当?」
突然、クソガキが神々しく見えた。いや、クソガキなんて失礼極まりない。新しいご主人だ。
僕はいつの間にか泣き止んだ。それとともに『グー』とお腹がなった。
新しいご主人が優しく僕を抱き上げた。