成人の儀
ソルトの生まれた森の名前がやっと決まりました。
でも、ソルトとサイガの性格天然にするはずだったのに何故だ?
書き直しは全くありません。
耳元でけたたましい音がする。
薄く目を開きそれが目覚ましの音であることを意味もなく確認する自分を自嘲する。ここは自分がもといた世界とは違うと言うのに。
ソルトはそう思いながら目覚ましを止め、ベットから身を起こす。
「サイガいつまで寝てるのいい加減起きな・・・
て、あら珍しいわね。貴方があれだけで起きるなんて。」
ソルトを起こしに来たサイガの母親に『すぐ下に行く』と言って先に下に行ってもらう。下へ降りるために着替えようとしたところで窓に映った自分を正確に言うならその黒い髪と目を皮肉げに見た。
故郷では忌み嫌われたこの髪と目もここでは珍しくも何ともないということが無性に可笑しく感じられた。
下の階に降りると見慣れた人影が見えた、だがその影は本来なら朝のこの時間この場所にはいないはずだった。
「シガラ、お前なんでここにいる!?」
ソルトはものすごい剣幕でシガラ睨みつけたが、シガラと呼ばれた方は意に介した様子もなく口に含んでいた食べ物をよく噛んで呑み込んでから。
「よう、ソルト遅かったじゃねえか、何時まで人を待たせるつもりだったんだよ。」
シガラが言い終わるとほぼ同時にソルトは机をたたきつけていた。
「その名をここで呼ぶなと何度言えばわかる!!」
決して大きな声ではないが、その声に込められた怒りは誤魔化し様がない。
「てっ、もしかして本物のソルトさん?」
「もしかしなくてもそうだ!」
『ソルトの声にまずい!』とっ感じたのかシガラはすぐに
「うっわー、済まねぇ。おれ昨日からお袋が出張で、朝飯は今日はサイガの家で食うことになってたんだよ。そしたらサイガの奴に『今日の朝起きてきたらこう言ってくれ』って頼まれてたんだよ。」
シガラの言い訳を聞いた途端、脳裏にその時の様子が思い浮かんだ。
ソルトは苦虫を十匹程噛み潰したような顔で小さく呟く。
「あいつ、そこだけ記憶をロックしてやがった!!」怒号が辺りに響き渡った。
ソルトの怒りがある程度鎮まるのをまってシガラが目を輝かせながら問い掛ける。
「えーっと・・・、さっきお前記憶がロック去れてたって言ってたよな?
それって、お前も向こうに関する記憶をロックしてるんだな?
何をロックしてるんだ?」
「何をロックしたかだと・・・
私がロックしたのは今日、成人の儀があるということだ!!」
それを聞いたシガラは口の中にあった食べ物をのどにつませて尋ねる。
「せ・・・成人の儀ってお前それ・・・」
「お互い様だ、
フッフッフ・・・
あっはっは」シガラの言葉を遮ってソルトの笑い声が辺りに響き渡る。
◇◆◇◆◇◆◇
「ぉ・・・きて
ソルト兄ちゃん起きてよ
成人の儀が始まっちゃうよ。」
木々の葉がそよぐ音が聞こえる。その音に混じって聞き慣れた弟のセルトの声が聞こえる。
その言葉の中に気になる台詞ががあった。
「せ・・・いじ・・・んのぎ?」
「そう、成人の儀に遅れちゃうよ早く起きて。」
その言葉を聞いてサイガは飛び起きた。
「ちょっと待て、そんなのソルトから聞いてないぞ!」
それを聞いて今度はセルトが驚いた。
「えっ!?
てっことはもしかしてサイガ兄ちゃんなのーーーー!?」
「つまり、その神々の王がソルトに興味を持って逢わせろと言って来て、それを阻もうとした長老達が降神祭の前に成人の儀を行ってその後修行の旅に出そうとそういうことでいいのかセルト?」
弟のセルトが落ち着くのを待って成人の儀を行うに至った経緯を詳しく尋ねる。
セルトが小さくうなずくのを確認して、サイガは内心で思わず『前々から嫌われて居るのは分かっていたけど、ただ髪と目が黒いだけでそこまでするか!?
あのくそ爺度も、いつか絶対に殺してやる!!』と、声を出さずに誓う。
「あっ、あの、サイガ兄ちゃん、ロックは解けたの?」
サイガの思考が一区切りついたと判断してセルトはおずおずと声をかけた。
「いや、でも安心しろいつロックが解除されるかわたいたい検討かついてるから。」
不安そうな顔をしたセルトの頭をポンポンと軽くたたいて笑いかける。
支度を整えて、成人の儀が行われる広場に行く道すがら『如何して交代の日でもないのにソルト兄ちゃんとサイガ兄ちゃんが交代してるの』と聞かれサイガは周りに人がいないか注意深く確認して答えた。
「今日は、私の住んでる世界で学園祭というものかあるんだ、それでソルトは学園祭に行ったことがないし、私は降神祭を実際に見たことがないから交代しようということになったんだ」
「サイガ兄ちゃん学園祭って何なの?」
なるべく解りやすく説明したつもりだが、初めて聞く学園祭の意味は解らなかったらしい。
「学校で行われる祭のことだよ。
とっ、言っても学年やクラス、部活なんかで色んなことを遣ってどれが沢山の人達に楽しんで貰ったのかを競ったりすることだよ。」
セルトの亜麻色のくせっ毛を優しく撫でながら、なるべくこの世界の言葉で似た意味のものを選びながら学園祭について説明し、理解しようとしているセルトをほほえましげに見ていると。
前方からあまり聞きたくない声がした。
「おや?そこにいるのは今日めでたく成人の儀を迎える。
ええと、何と言ったかな?」
自慢の金の髪を腰まで靡かせ厭味ったらしくそんな事を言うのは村長の息子のヴァスティアとその取り巻き達だ。
サイガは機嫌が悪くなりながらも面には出さずソルトの掛けたロックが予想通り解除されたのを確認して、おもむろに口を開く。
「ソルトです。
それよりも、ヴァスティア様先ほど村長様がお探ししておりました。
何か急ぎの用があったご様子ですので直ぐに向かわれたほうがよろしと思います。」
ヴァスティアとその取り巻きたちのこれ見よがしの嫌みを交わして、『こんなところで油を売っていていいのか』と権外に尋ねる。
それを聞いてヴァスティア舌打ちをして足早に立ち去り、サイガはソルトの手を引きながら広場へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
ソルトとシガラが学校に来た時には準備は殆ど終わっていてあとは各自が衣装を着るだけたっだ。
「遅い!!
他の皆はもう来てるのに、主役が遅れて来てどうするの!!」
ソルトは自分の教室に入るなりクラス委員のアンジュが短い焦げ茶色の髪を逆立てながら怒鳴る。
「遅いって、言ってもリハーサルまでまだ一時間以上あるだろう?
だいだいわ・・・俺は好きで主役になったんじゃない、文句があるなら今すぐ他の奴が変わってくれてもかまわないが?」
「ちょっ、何言ってんのよ!?
変わるって、台詞覚えてるのあんただけなのよ」
「まさか本気でそんなこと言ってるの?
俺の役がやりたくて本番の今日まで諦めずに意地らしく頑張ってる人たちがいるみたいだしね。」
アンジュの狼狽した声にソルトが『何を言ってるんだ、俺の代わりなんていからでもいるだろう。』と言う風に笑顔で切り返す。
「おーい、二人ともいい加減リハーサル行かねえと時間がなくなっちまうぞ。」
「ああ、シガラ居たのか」
ソルトとアンジュの口論に割り込んだのは呆れた口調のシガラだった。
◇◆◇◆◇◆◇
成人の儀サイアレルの森の中心部で行われる。
そのサイアレルの祭壇と呼ばれる場所の本当の名を知ることを許されているのは最長老と五人の長老たちたけだと言われている。
石畳みを敷き詰められた広場、中央に位置する祭壇にはめ込まれた緑の輝石が神々しく輝いている。
「これより成人の儀を行う」
長老の重々しい声が辺りに響き渡り、サイガは祭壇へと進んでいく。
「我、黒のソルト
今、成人を迎えし証しとして我が半身となりし者を求めん
我と共に試練に耐え得る者よ
古よりの約条によりて我が下に姿を現せ」
サイガが定められた通りの手順に従い聖句を唱える。
聖句を唱え終えると本来ならば、自らの半身となる筈の神獣が現れる筈なのだが、白い煙が巻き起こりサイガと同じくらいの人影をした者が佇んでいる。