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小説家になろう。  作者: 桜乃孤坐


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1/1

死ぬくらいなら...

遺書は書いた。睡眠薬も10錠手に取った。さあ、いよいよこの時が来た。そんな時ある日の記憶が蘇った。


「ねえ、小説家になりたいの?」

誰もいない教室で、彼女は問いかけた時のその記憶。


 俺の一番古い記憶はまだ二足歩行をしていない頃、母さんの眼鏡を分捕って平手打ちされたこと。その時の衝撃は、多分一生忘れない。俺はこのことと、父がよく見てたドラマのセリフ「やられたらやり返す。倍返しだ!」、母がよく言った「自分がやられて嫌なことは人にはしない」に則って、人生で一番大事な教訓にしていた。


 だから幼稚園の時に仲間はずれにしてきた親友に、どうやってやり返してやろうかと画策してい他のだけれども、実行したのは小5の時で、それが双方の親にバレて大激怒。当然言い訳が通じることはなく、謝ることに。


  彼女——七瀬あかりと出会ったのも小5のことだった。俺は放課後はサッカー小僧としてイキリ散らかす反面、学校の休み時間はずいぶんおとなしく過ごしていた。小学生の休み時間だ。昼休みなんかは男女問わず鬼ごっこをするのがしきたり。一方その時のマイブームが小説を書くことだったのだ。


「ねえ、小説家になりたいの?」

「え、別にそういうわけではないけど...。」


 めちゃくちゃ恥ずかしかった。同じクラスの女子に痛い痛い小説を見られた。頭ん中大パニックで、適当に返してしまった。


 小説を書くことがマイブームだったのは別に本が好きだからではなかった。むしろ本は嫌い。でも映画、特にSF作品は大好きだった。いちばんのお気に入りはやはりアイアンマン。エンドゲームは映画館で号泣したものだ。


 そういえばその頃、あまりにも家で勉強しなさすぎるからとゲーム機を没収されてたっけ。その影響で、レゴブロックを使って、SF大作を何本も生み出していたような、気がする。


 そんなこんなで、自分もSF作品を描いてみたいと思ったわけだ。それで休み時間、少しずつ少しずつ書いていた。まあ、恥ずかしすぎてそのあとはきっぱり書かなくなったのだが。


 彼女とは、いい距離感を掴めていたし、もしかしたら両思いなんじゃないかって幼心に思っていた。そう思ったのは彼女の友達から、「あかりとキスするか、帰るとキスするかどっちがいい?」って聞かれたり、シンプルに「七瀬さんと両思いでしょ」って言われたりしたからであるが、その時自信を持って好きといえていたらよかった。


 中学に上がると、彼女とは完全に疎遠になった。クラスも違い、接点はゼロ。たまに廊下ですれ違った時に目が合う。そんな程度の関係だった。


 この頃は、部活で忙しかった。うちのサッカー部は顧問がとにかく怖くて週6の練習で帰る時間は全部活の中で当然いちばん最後。でも、それに見合うだけの結果は残していて、一つ上の世代の県大会で優勝、俺も他の同級生を差し置いてそのメンバーに入れたことが何よりも誇らしいかった...怪我をする前は。


 大会の途中くらいからか、膝に痛みが出だした。普通に歩くだけでも激痛。ボールを蹴る時なんかは特にひどくて、それはもう痛い痛い。練習でのプレーが悪くなる度に先輩からの視線も痛くなる。


 結局、その大会中に言い出すことはできず慢性化。自分たちの代なのに、ピッチに立つことすらままならない。そんな状況が悔しくて悔しくてたまらなかった。


 そのまま俺は部活を辞めた。でも消化不良のこのエネルギーをどこかにぶつけてやりたいと、そう思い、彼女が得意とした勉強に勤しむことになる。


 勉強習慣ゼロ、でも成績はそこそこ良。いわゆるオール4の生徒。対して彼女は超優等生。俗に言うオール5だ。もしも彼女と同じ高校に通いたいのであれば、当然県内1位の高校に合格せねばならない。そう思い、彼女が通う塾の入塾テストを受けに行った。幸いにも、そこには同じサッカー部で幼稚園から同じ親友が通っていて、入塾理由が備わっている。


 しかし、結果は不合格だった。正直、目を疑った。不合格?入塾テストで。それもそうだ。今まで定期テストの勉強しかしてこなかったと言うのに、県内トップの進学塾に受かるわけなんてない。このまま高校も、いや、諦めてたまるか。


 俺はその次に賢い塾に通うことになった。そこはA〜Dまでのランク制。入塾テスト対策をしただけに、入塾テストは通ったものの、中3夏休み時点ではCクラスだった。


 そこからは死ぬほど勉強した。地頭はそこそこ良く、夏休みだけで数学なんかは校内2位に。毎日毎日何十時間も勉強し続け、内申のハンデをもろともせず突き進んだ結果、俺は県内1位の高校に上位成績で合格した。しかし、そこに彼女の姿はなかった。


 彼女は俺の親友と同じ県内2位と言われる高校に通っていた。どうして?考えてみれば、彼女があの学校を受けるなんて誰が言った?思い違いか。


 でももしかしたら、入れ違い?あいつと同じ塾だし、同じ高校に行くとおもってそうしたのか。いや、逆だろう。俺と違う高校に行きたくてわざと...。だったら、嫌だな。


 よし、彼女は諦めよう。新しい高校に行けばきっと素敵な人に出会えるはずだ。


 そう思いつつ、俺は高校生になった。県内トップ高校、どんな人がいるのか楽しみだった。


 この学校の魅力は頭がいいことだけではなかった。何よりも自由で、校則がない。私服登校OK、髪染めOK、ピアスOK、バイトOK。ザ・リア中生活を送るのにもってこいのまさに超神学校だ。


 さて、これは高校生デビューだな。部活は、もうやりたくないから帰宅部として、純分満帆な学園生活を送るぞー。そう行きこんでいた。


 期待通り、俺はクラスで遊園地に行ったり、友達と旅行に行ったりで青春を謳歌していた。しかし、サッカー部でトップ下だったこともあり、俺の視野は常人よりも広かった。だから、見たくないものを見てしまった。


 こんな学校にも、あぶれ者が存在する。それは一度も話したことがない女の子だった。彼女はクラスメイトから笑われていた。それは一緒に遊んだ友人だったけれども、その瞬間から、心を閉ざしてしまった。一緒になって笑うことは信念に反する。


 俺はたちまち一人になった。一人がなんだ。この学校は超絶頭がいいんだ。勉強すれば取り返せる。大学受験に全てを捧げることも、青春の一つのあり方だ。俺ならできる。きっとできる。あの時と同じように。


 そうして俺は、登校前も、休み時間も、放課後もイヤホンをし、参考書を広げ、ペンを持つ。そうやってただひたすら勉強し続けた。


ある日の体育祭終わりの学年集会、


「この間の体育祭みんな一生懸命準備して概ね大成功だった。でも、楽しんでいない人を見かけた。正直に言う、楽しめないのは一緒に準備してこなかったからであって、そういう奴がいると周りにも迷惑だ!いいか、一人で何かをするなんてクソだ!」学年主任がそういった。


これ、俺のことだよな。ぐうの音も出ないほどその通りだと思った。それと同時に、これは体育祭に限った話ではないと、そう思った。


 次の日、いつもの電車を見送り、学校をサボった。久しぶりに彼女の顔が見たくなってそのまま駅の近くのカフェで1日を過ごした。


 夕方、流石にもう帰ってこないかと思っていると、彼女が帰ってくるのが見えた。こんな時間に一人で帰るなんて。偶然を装って声を掛けるか、でもそれじゃまるでストーカー、ってか既にストーカーなのでは。


 なんて考えていると、目が合った。俺はそれだけでもう、いっぱいいっぱいで結局声を掛けることができなかった。


 目が合ったあの時、彼女は何を思ったのだろう。あの瞬間、顔が少し赤くなっていたような気がする。あれは、照れなのか?だったらいいな。今のは流石にきもいな。


 次の日、いつもの電車に乗り、学校へ行った。いつも通り、休み時間もイヤホンをつけて、勉強を...


「このインキャが、真面目ぶってマジきもい。学校くんなよ。」


 隣からそう談笑する女子たちの声が聞こえた。


 あれ?今のって俺のこと?一旦トイレに避難して落ち着こう。個室に篭ってスマホを見て気分を落ち着かせていると、また声が聞こえた。


「あの宮沢ってやつ、まじキモいよな。帰宅部のインキャなんだから、勉強せきて当たり前なのに、休み時間も勉強してますアピールして。」


「先生もこないだ迷惑って言ってただろ。ほら、あいつすぐ内職するから。」


 あー、確定だ。


 帰宅部のインキャだから当然って、帰宅時間2時間程度しか変わらんだろ。


 休み時間も、できることはいっぱいあるだろ。


 内職してるって、問題解き終わったからやってるのであって、授業を放棄しているわけじゃないっていうのに。


 あー、もうこいつらどいつもこいつも視野が狭い、バカどもが...クソっ...クソっ


 翌月、俺は学校を退学した。親を説得するのには苦労したが、授業がスタイルが合わず、大学受験を見据えた時に不利になるからってことで押し切った。


 まあ、高校を中退したところでやることは変わらない。高卒認定試験ぐらいならノー勉でも通るだろうし、あとは大学受験に向けてただひたすらに勉強するだけ。


 そこからは、高校受験の時と同じく毎日朝7時から夜10時まで勉強漬け。毎日毎日。そうだ、飲み物取りに...あれ、母さん、誰かと電話してる。


 「そう、先生はあー言ってたけど、ほんと、なんであんな子に。育て方間違ったのかな。」


 は?何言ってんの?俺、こんなに頑張ってるのに、育て方間違えたって?ふざけんな。俺はあんたに言われたことを精一杯...


 あーもう、誰も信用できないな、それでいい。誰も信用せずただ一人で。


 何日何十日、いや何百日とたった頃だった。それは模試の前日、ある夢を見た。


 俺は幼稚園児でたくさんの友達と一緒に劇をする。その後、小学生になってみんなで鬼ごっこをする。そして、アディショナルタイムでPKを与えられ、キッカーは俺。シュートは大きく枠を逸らし、目が覚めた。


 なんだったんだ、今の夢は。やば、もう7時。勉強の準備をしないと。


 ペンを握り、いつものように数学の問題を解こうとしたその瞬間、急に涙がこぼれ出した。あれ、なんで。やばい。全然、集中できない。どうして、明日は大事な模試なのに。だめだ、今日はもう...


 そのまま一日中泣き続け、次の日模試へ出かけた。流石に今日はしっかりしてくれよ、俺の頭、今までやったことが全部...


 だめだ、何もできない、頭の中が、手が、おい、どうしたんだよ。おい!

 

 動け!動け!動け!動け!


 俺は自分の頭をグーで何発も何発も殴りつけた。試験官はすぐさまそれに気がつき、俺の様子を伺って別室に連れて行った。


「どうされましたか?」


 黙れ、誰も信用できない。言っても意味なんてない。


「この後の試験どうなさいますか?」


 どうしたって、悪いのは俺なんだ。対話する必要はない。


「親御さんの電話番号は...」


だから「黙れって!言ってんだろ!」


 冷たい視線を感じる。たくさんの大人の、冷たい視線が。


「すみません」そう言って会場を後にした。


 これは病気だ。絶対病気。うつ病ってやつだ。だから、しばらくすれば治る。とりあえず、今日は帰って寝よう。もう疲れた。


 あれ、眠れない、それどこらか何故かまた、泣けてくる。どうして、どうして...


「ああああ!どうして!どうして!泣くな!泣くなこの弱虫!」


 あまりにも叫びすぎて、親に精神病院に連れて行かれた。医者は、受験鬱と診断したが、受験だけが原因なのか疑問に思った。なぜなら、眠れる日に見る夢は、いつも人生の断片だからだ。


 変な癖が出る前に勉強に戻らなければ。次の模試は11月。受験生にとって進路を大きく左右する最後の模試だ。そこでA判定取らなければ終わる。これまでやったことが全て無駄に...なのに、ペンを握ると、何もできなくなる。


 11月、よし。落ち着けば、大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。


「では初めてください」


 一斉に紙の音が、シャーペンの音が響く。


 俺は一息ついてから、遅れてペンを握った。握ったんだ...でも、何もできやしない。ああ、どうして。ああ...。俺は静かに泣き、大学受験というものを終わらせた。


 進む道がなくなった。このままだと中卒だ。中卒でも働き口はいくらでも。いや、こんな惨めな人生送るくらいならなら。ああ、もう、早く死にてえな。


 彼女の声を聞きたい。そう思い、LINEのプロフィールを開く。通話ボタンを押せば彼女の声が聞ける。8年間思い続けた彼女の声が。でも、何を話すんだ。彼女は慰めてくれるのか?いや、よくて失望、悪ければ絶交。そもそも関係値、なんてないだろ。そうだ、こんな姿。彼女には絶対に見られたくない。絶対に。結局俺が押したのはブロック、そして削除だった。


 何はともあれ、勉強から解放されたんだ。少しは楽しまないとな。高校受験の時からだから、もう4年もまともに遊んでない。ゲーム、アニメ、漫画、YouTube。今の時代、娯楽で溢れかえっているんだ。底辺人生でもこれを生き甲斐に、なんて、できるわけがない。


 俺は受け入れることができなかった。友人も家族も。信じていたんだ。みんな、同じ信念を持っていると。表向きには、その通りだろ。その通りなはずだ。


 このまま大人になるのが怖い。大人になったら、もっと多くの人を遠ざけてしまいそうで、こんな性格が誰にも受け入れられず、否定されていくのが、ただひたすらに怖い。


 性格とは、その人にとっての生きる手段を指すのだと誰かが言った。だとすれば、俺の性格は最悪どころかもはや焼却炉で灰にされるべきものなのだろう。


 つまり、死ぬしかないのだ。自殺とは、そういうものなのだろう。


 あの日、部活を辞めることが最善だったように。高校を辞めるのが最善だったように。俺が死ぬのが何よりも最善なのだろう。そうなんだ、きっと。心残りがあるとすれば、来年のドゥームズデイを鑑賞できないことぐらいだろう。


 遺書を書いた。ペンは持てないから、パソコンに残した。6000文字程度の超大作を。なかなかの力作だ。きっと、誰かの心の中に残るだろう。それが自分の大好きな人たちなのであれば何よりも嬉しいと思った。


 遺書は書いた。睡眠薬も10錠手に取った。さあ、いよいよこの時が来た。そんな時ある日の記憶が蘇った。


「ねえ、小説家になりたいの?」

誰もいない教室で、彼女は問いかけた時のその記憶。


「うん、なりたい。小説家になって、いつか、君に読んでほしい。君の心に残るそんな作品を作りたい。」


そうだ、


小説家になろう。

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