終末にて(詩)
人類が滅んで一人だけ立ち尽くす情景を想像するとき
僕らはなぜか自分だけ生き残ると考えて悲劇の主人公ぶる
世界も火か水か毒にでも包まれているはずなのに安っぽい廃墟を想像する
僕らの無知と傲慢は終末においても変わることのない物理法則のようだ
僕は誰もいない世界を眺めて
今と同じように笑っている
人の愚かさを笑うようにただ笑っている
女の子がいたら僕の子供を産ませようと思ってまた笑う
しかしどこに女がいるのかと思って笑う
そもそも老いた子種が芽を出せるのかと笑う
彼女になんと声をかけ、いかに口説くか考える
普段なら変質者なのに終末では僕はアダムかもしれない
僕はカインとアベルを作るが、妻子を食べさせないといけない
安っぽい廃墟から缶詰を探す日々が続く
犬や猫や鳥の生き残りを飼って警戒の道具にしても彼らのエサがいる
ペットフードの缶詰を探す日々が続く
イブは僕が知恵の実を食べたこと、楽園を追われたことを責めるだろう
僕に罪があるとすればイブを手に入れたことだ
孤独にたえられず
欲望にたえられず
飢えにたえられず
人でなくなることにたえられなかった
僕の弱さが肉になったのがイブだ
僕は安っぽい廃墟を低い解像度でぼうと眺める
よく考えたら終末のわりには悲壮感が足りない
むしろ若い女と子供とペットに囲まれて
ほかに変な人間もいない、税金もない
もっとこう、カタルシスとかカーニバルとか…
安っぽい終末しかないことに僕は満足して微笑む
サバの味噌煮の缶詰をあけながら
ちらかった食卓の向こうに廃墟を見る
水没もせず虫もおらず植物も侵略していない
僕はゲームでプレイしたように勇ましく扉を蹴破って倉庫を荒らす
イブは弱いしカインたちは幼い
僕はいつのまにか若返り頭も体もキレッキレになっている
食卓の向こうのテレビと手元のスマホにもう一つの世界が映る
戦争で人が死んでいる
貧困で人が死んでいる
介護で人が死んでいる
詐欺で人が死んでいる
孤独で人が死んでいる
二つの世界が僕の中で重なり合う
「どうしたの?」
イブが僕にささやく
「なんでもないよ」
僕はスマホを投げ捨てて彼女を抱き寄せる
都合よく湧き出る水を浴びたばかりの彼女の体に顔を埋める
「また生まれるかも」
イブがそう預言した
「神様がいい名前を与えてくださるように」
僕は彼女の腹をなでた
明日はもっと多くの食べ物を探さないといけない
カインたちもよく食べるしペットもいつのまにか子を生んだ
農耕と牧畜も始めよう
発電されていないから星がよく見える
天の川だと思うが空が割れて輝いている
空の向こうで神々が戯れているようだった




