恋心と酔い
「それで、私をほったらかして寝てた、と」
彼女は意地悪く責めるが、本気ではなさそうだ。
「すまん。ついつい飲みすぎた」
「君の事、待ってたんだけどなあ」
「ごめんなさい。返す言葉もございません。今日は私のおごりでいかがでしょう?」
彼女はクスリと笑う。
「全くもう。いつものゼン君だね。全く変わってなくて安心するよ」
そんな彼女は彼女は懐かしそうに微笑む。
いちいち愛想が良い。
この愛しさを独占したいが、その自信は今の自分には無い。
胸を張って、ついて来い!と言えるように成長したい。
「それで、どこにエスコートしてくださるのかしら?」
またしてもからかわれる。
嬉しいが、刺激が強すぎる。心臓に悪いからやめてくれ。
もしかしたら、好意がばれているのかもしれない。
「実は、店を調べてなくて・・・昨日来たばかりだし・・・」
「まあ、そうだよね。お腹減ってるでしょ?私のオススメで良い?お酒はあまりないけど、今日はそんなに飲まないでしょ」
「ああ。ありがとう」
意識して、にこやかに応答する。
変な顔になっていないか?宿舎で鏡に向かってほほ笑んだ時は、なかなか男前だったのだけれど。
「さ、行こうよ!こっちだよ!」
彼女はそう言って少し先を歩く。
町は軍のせいで、ごちゃごちゃだ。
交通の貿易の中継地として作られたものらしい。
海から川を登って運ばれた荷は、ここで別の船に載せ替えて、二筋の川をそれぞれ運ばれてゆく。
反対に、二方面から運ばれてきた荷が、ここを中継して海へ送り出される。
いくつかの街道もここに集まり、街を出るとそれぞれ別の行先を敷く。
街のあちこちに、制服の人間が行き交っている。
同じくらいの民間人を見る。だが、元来の住人だけではなさそうだ。
輜重関係者から、物資の調達、補給の請負等、軍隊の動きに合わせて付いてくる人たちも多い。
眺めていると、ある事に気が付く。
民間人は西出身の人たちばかりだ。
しかし、兵隊たちは国際色豊かだ。
戦争は長引き、ますます戦線は拡大される。さすがの帝国も人員が不足して、世界中から人間をかき集める。
西の諸国はもちろん。東に至っては俺や紅のように極島からも駆り出されている。
目の色や肌の色が様々であり、北方以外の世界人類で構成されていると考えても言い過ぎではないように思う。
そんな息が詰まりそうな通りで、紅を見失う。
しまった!
「ゼン君!こっちだよ!」
彼女が呼びかけてくれた。
少し先の建物と建物の間に立ち、こちらに大きく手を振る彼女を見つけて、ホッとする。
「ごめん!助かったよ!」
「すごい人混みだよね!日毎に窮屈になるよ!」
彼女はニコニコとした目で、私に付いてきてと告げて再び歩き出す。
路地に入ると、急に人が少なくなる。
路地は向こうの大通りまで続いているようで、そちらも人がごった返すのが見える。
路地を少し歩くと登りと下りの分かれ道になる。
珍しい道だ。
彼女は左手の登り側へ向かう。
「ふう、生き返った」
歩きながら、彼女は大げさに息吐き出す。
「こんなに人を集めてどうすんだろ?」
「うーん、言えないけど。集める必要があるみたい」
さすがは優秀な解析班。
敵のだけでなく、味方の色々な情報も手に入るのだろう。
「ごめん、いらん事呟いたね」
「大丈夫、喋らないから。さて、着いたよ!」
彼女は得意気な顔をして、店のドアを開けてくれる。
その店はずっと坂の上まで連なった、白い壁とオレンジの屋根の建物の、上がり始めに構えていた。
入口の上には、オークの冠に囲まれた、大きな洋剣のレリーフが飾ってある。
老舗のようだが、中々良い雰囲気だ。
(誰か他のやつとも来たのかな?)
嫉妬心が産まれるが、どうしょうもない。
「素敵な店だね!楽しみだ!」
今度は思ったことを素直に言えた。
彼女はさらに得意そうな顔をして、店に入っていった。




