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最果ての隠者  作者: 眠れる森のおっさん
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『Awakening Quest』

「圧倒的なグラフィック。圧倒的なリアリティ。この世界でどう暮らすかはあなた次第!新しい能力が目覚める物語『Awakening Quest』サービス開始!」。

動画サイトから流れてくるこの広告を何度見ただろう。

このRPG『Awakening Quest』、通称『AQ』はVRで遊べるゲームとして、サービス開始された。

俺、「相馬イブキ」も動画広告につられて事前登録。サービス開始と同時にプレイ開始した。

プレイを開始して早々、キャラクタークリエイトの時点ですでに驚かされる。

顔のパーツから指先に至るまで、細部まで設定ができる。

色々といじっているうちに最初の感動と驚きはだんだんと薄れてきて、「こんな細かい設定までさせるなんて」「何でこんなことをしているんだ」「これぐらいで良いんじゃないか」と疲れが勝ってくる。

しかし、根っからの凝り性が勝り、2時間程度かけてやっとキャラクタークリエイトが終わった。

「職業は・・・やはり一人で何でもできる魔導士にしよう。攻撃、回復、バフ、なんでも一人でできるように。」

そう、俺には友達と呼べるものがいない。

『AQ』の話題が周囲で出ていたとしても、その会話に入ることはしない。それはゲームの中でも同様で、オンラインゲームでも知らない人と話をすることはまずなかった。

そのため、ゲームキャラの職業は何でもできる魔導士を選択することが増えていった。

戦士や武道家だと魔法が使えず回復できない、僧侶となると回復はできるが攻撃魔法が少ないまたは攻撃魔法の属性が偏って手詰まりになることがある。

魔導士が一番バランスよくソロ活動ができる可能性が高いのだ。


キャラの作成が終わり、いざ最初の町に降り立ってみると、周囲の景色の綺麗さに圧倒される。先ほどのキャラクタークリエイトの疲れが吹き飛ぶような景色。

石畳、レンガ造りの建物、そして大きな王城。

広告で流れていた圧倒的グラフィックは偽りじゃなかったと実感させられる。

景色に圧倒されて立ち尽くしているうちにも俺の周りにキャラクタークリエイトを終えたであろう他のプレイヤーが次々と現れてくる。

このままでは周りがぎゅうぎゅうで動けなくなる。俺は早々にその場を離れ、王城へと歩き出した。

やはり、こういう物語の始まりは王様の話を聞くところからだよな。

そう安易な気持ちで王城に向かった俺を待ち構えていたのは、不愛想な衛兵だった。

「ここは王様のお城だ。許可がある者以外は入れるわけにはいかない。」

おそらくテンプレート通りであろう言葉で衛兵からは王城に入ることは許されなかった。

さて、どうしたものか。このまま強引に入ろうとしても、同じセリフで追い出されるのがオチだな。

なら、どこへ行けば良いんだろう。この世界でどう暮らすかはあなた次第とは広告で言われていたが、いざ好きに過ごしてくださいと言われると何をすればいいのかわからない。

周りを見回してみると、王城の堀で釣りをし始めるキャラもいる。

あれは俺と同じで、何をしていいかわからないまま釣りを始めたんだろう。

じゃあ俺は何をしようか。

しばらく考えたが、答えは見つからない。

最初の町は多くのプレイヤーがうじゃうじゃとうごめいていて、芋を洗うようだ。

人と関わることが苦手な俺には息苦しく感じ、少し閑静なところに移動しようと思った。

近くに見えた小高い丘を登って大きく深呼吸をする。

丘から遠くを見ると、目の前に広がる海が見える。

また、反対の方角を見ると頂上が雲の上まで貫いている山も見える。


そうだ、この世界の果てを見に行こう。

こんな美しい景色なんだ、この世界の果てまで行ってみよう。

まずは、山に行こう。強い敵がいるかもしれないが、もっと広く見渡せる。

ここがどんなところか見に行こう。

俺は丘を降りて山の方に向かって歩き出した。


城門にたどり着くと、城門を守る衛兵が驚いたような顔で話し出す。

「ここから先は魔物が出る!君のレベルではすぐに死んでしまう!悪いことはいわん。やめておきなさい。」

また、城門と同じか。

ここからは進めないだろうかともう一度通ろうとしてみると、

「そうか、君が望むのなら止めはしない。無理をしないようにな。」

と言ってそのまま通ることができた。

良かった。自由に通らせてくれるみたいだ。


城門を抜けると、同じようなことを考えたキャラクターが何人かいた。

戦士や武道家が多いように見える。

敵の姿は・・・オオカミやイノシシみたいな獣型が多いな。

一人の戦士が刀を振り上げてオオカミに向かって行くが、次の瞬間戦士はオオカミの爪で切り裂かれ地面に倒れていた。

つまり、このマップは低レベルのプレーヤーが来るべきところじゃない。

俺のスキルは・・・まだレベル1のファイヤーボールだけ。

いや、まだ魔法が使えるだけマシかもしれない。

ファイヤーボール、火の玉を飛ばして敵を攻撃する魔法か。

離れたところからチマチマ当てていけば、ダメージ蓄積で倒せるかもしれないな。

でも、ヒットアンドアウェイは相手のスピードによっては追いつかれるから無理だな。

じゃあ、敵の行動はどうなんだろうか。

オオカミやイノシシ、ってことは木の上にまでは登れないんじゃないか。

なら、木の上からファイヤーボールを当ててみよう。

俺はモンスターと距離を取り、近くの林まで気づかれないように移動して木の上にのぼる。

体重を預けても問題ないくらいのちょうどいい枝の上から、先ほどのオオカミ型のモンスターに狙いを定めた。

「ファイヤーボール」

そう唱えると、指先からオオカミに向かって火の玉が飛んでいく。

オオカミは火の玉が命中し、小さなうなり声をあげた。

オオカミは、すぐに俺の方を向いたが、近寄っては来ない。

オオカミはそのまま周りを見回すように首を振った。

「見つかっていないのか」

オオカミが周囲を見回してこちらから目をそらした隙にもう一度ファイヤーボールを打ち込む。

火の玉が命中したオオカミは、今度は俺の方に走ってきた。

「見つかったか!?なら!」

俺は魔力の続く限りファイヤーボールを連発する。

しかし、6発目から呪文を唱えても火の玉が出なくなった。

「魔力切れか!」

オオカミはそのまま俺の方に向かって走ってくる。

座って待つことで魔力が少しずつ回復しているが、オオカミが近づいてくる方が早い。

オオカミが木を登れたら・・・頭の中に敗北の二文字が浮かぶ。

オオカミが走ってくる勢いそのままに木を登ろうとする。

ガリガリと木の幹に爪を立てて、一歩一歩近づいてくる。

しかし、途中で登り切れず、木の幹に爪を立てたまま地面へと落ちていく。

良かった。想像通り木には登れないみたいだ。

なら、落ち着いて魔力回復して、もう一度ファイヤーボールを連発する。

オオカミはファイヤーボールを受けながらもこちらに向かって吠えたり、飛び上がったりを繰り返している。

「ダメージが入ってないんじゃないか?」「敵に自動回復があったら倒せないんじゃないか」と不安になりながらも、延々とファイヤーボールの連発と魔力の回復を繰り返した。

気が遠くなるような作業を続けていると、急にひときわ大きな火の玉が指先から飛び出した。

「うおっ!」

自分が出した火の玉に驚いた俺は、バランスを崩し、木から転げ落ちる。

「しまった!やられる!」

とオオカミに向き合った俺の前には、焼け焦げたオオカミが横たわっていた。

どうやら今の一撃で倒すことができたらしい。

レベルが上がる音がする。レベル17。

一気に16も上がった。苦労して倒した甲斐があった。

そして魔法を見るとファイヤーボールがレベル2になっていた。

魔法は使用回数によってレベルが上がるようになっているようだ。

なら、レベルアップで得たステータスポイントは魔力を増やすことに使おう。

何よりも連発をすることを重視した。

そして新しい特技「精神統一」を覚える。魔力を回復する特技のようだ。

これなら、安定してオオカミを狩ることができる。

今日はここでレベル上げをしておこう。


続く

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