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十二話 好きになっちまったか?

「ふいぃ。食ったぁ……」


「あっという間の完食だったな。はい、お茶」


「あざすっ」


 俺が持って来ていたペットボトルの水が無くなったのを見兼ねて、葵は自分の使っていたお茶の入ったペットボトルを差し出してくる。


 はい、今「あ〜! 間接キスだ!!」って思った人。残念だったな。俺たちが何年幼なじみをやっていると思ってる。間接キスなんて今更気にする間柄じゃない。


「? どうしたの? 急に固まって」


「か、固まってなんかない。ありがたく貰うぞ。ああ、貰いますとも」


 あれ? 気にしない間柄……だよな?


 おかしい。ならなんで俺の手は微かに震えて硬直しているんだ。


 おまけにペットボトルの飲み口から目が離せない。も、もしかして……


「間接キス、意識してんのか?」


「は、はぁっ!? ん、んんんなわけないだろ! 俺たちが何年幼なじみやってると……」


「ふぅ〜〜ん。ならさっさと飲めよぉ。烏龍茶、お前大好きだもんな? ずっと幼なじみやってたから知ってるぞ」


「ぐぬっ……」


 コイツ、今一瞬脳裏によぎった「俺このお茶苦手なんだよ」を速攻で封殺しやがった。


 い、いや、別に深く考えることなんてないだろ。ただ葵が口をつけていたペットボトルでお茶を飲む。それだけのことなはずだろ。


 クソ、クソぅ。コイツのせいだ。コイツが昨日の一件の後からいきなり俺に可愛い部分を見せつけてくるから。まるで俺を堕としにかかるみたいにするから……変に意識してしまっている。


 今までの俺ならこんなこと、一瞬の躊躇もなくできたはずだ。それなのに今の俺ときたらなんと情けない。間接キス如きで日和り煽られるなんて。


「なあ晴翔」


「な、なんだよ」


「……もしかしてもう、私のこと好きになっちまったか?」


「……………………はぁっ!?」


 こ、こいつ完全に調子に乗ってやがる。なんだそのニヤけ面は!! 


 たったの一日。いや、十数時間だぞ? 俺が葵に「葵の全てを好きになったらもう一度告白させてくれ」と宣言してから、まだ丸一日も経っちゃいないんだ。


 落ち着け……落ち着くんだ。いくらなんでもそんなに早いわけない。確かに葵はお尻以外にも表情の一つが可愛かったり意外と手がちっちゃくて女の子っぽいところがあったり、俺のためにお弁当を作って来てくれる努力家な一面もあったりしたけども。それらは全部魅力的で、何度もドキドキさせられて心揺さぶられたけども。


 違う。絶対に違う。これはあれだ、今まで幼なじみだった奴を初めて恋愛対象として間始めようと身体が努力したことによってフィルターが付いただけ。そう、これは言うならば「脱:幼なじみフィルター」によって葵のことを過剰に可愛いと判断してしまっているだけ。きっとそうに違いない。


「そ、そんなわけ……ないだろ。俺はそんなにチョロくない。チョロくないぞ!」


「でも、少なくとも間接キスを意識してくれるようになるくらいには……私のこと、女の子として見てくれてるんだな」


「う゛っ!? それは……」


「へへ、こりゃ改めて告白してくれる日は近そうだな」


 なんなんだ、なんなんだよ。


 やっぱりコイツ、俺のことを……?


「ま、とりあえず明日からも毎日お弁当作ってやるからな。光栄に思うことだ」


「ま、毎日!? それ大変じゃないのか……?」


「大変だよ。だからちゃんとありがたみを持って毎日いただきますとごちそうさまを聞かせてくれよな」


「そ、それはまあ……うん。そんなことでいいなら」


 毎日いただきますとごちそうさまを共にするって、なんかそれまるで夫婦みたいじゃ……って、何考えてんだ俺は!?


 何度も、何度も。葵の一挙手一投足に心を揺さぶられる。


 やっぱりコイツはズルい。俺が女の子として意識し始めると分かった瞬間、こんな。


「そ、そろそろ教室戻るぞ」


「ん? あ〜? なんか晴翔顔赤くね? な、赤いよな! 照れてんのかよぉ!! って、結局お茶も飲んでねえし!!」


「お茶の気分じゃなかっただけだ! 自販機で水買うからほっとけ!!」


「にししっ。素直じゃね〜の」


 顔に熱が篭ると、俺はすぐに葵に見られないよう背を向けて立ち上がる。



 教室までの帰り道。俺の視界に葵のお尻が映ることは、一度もなかった。

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