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第七十一話 熱弁、七宝祭実行委員会!


「それでは、七宝祭実行委員会の定例会議を始めます」


 おさげの女の子が落ち着いた口調でそう切り出した。


「今日が初めての方もいますので、今一度ご挨拶をさせてください。私は委員長の御殿護手ゴッドガルデ龍滅子ルボロコスです。普通科の3年生です。よろしくお願いします」


「「……」」


 ヒエナと俺が一緒にきょとんとする。

 ごっどがるでるぼろこす?

 理解が追いつかなかったのは一瞬だけで、すぐに合点がいった。


 ゴッドガルデ家と言えば、代々、宮中警護を担う家系だ。

 家の格は中の下だが、皇国の中でも最も長く続く家のひとつである。

 ルボ先輩は由緒正しきお嬢様というわけだ。


 それにしても、強烈な名前だ。

 名前に全振りした結果、モブ顔になったのかもしれない。


「それでは、各委員の方は進捗状況を報告してください」


 ルボ先輩は特別優れたリーダーシップを発揮するでもなく淡々と指揮棒を振るい、別段山場を作るでもなく会議を進めていった。

 印象にこそ残らないが、普通に優秀だと思う。


 そうこうしているうちに俺の番が来る。

 俺は半知半解のハコモノ事情をさも理解しているかのように報告した。

 質問がゼロだったのは幸運だった。

 全部丸投げしているゆえに、訊かれても「わからん」としか答えられないからだ。


「ここからは自由に意見を出し合いましょう。何か新規の提案などございますでしょうか?」


「はい――っ!」


 ルボ先輩の問いかけに、ヒエナがいの一番に手を挙げた。

 それも、机に乗り上げながら、だ。


「私の村の獣人たちにも出店の機会をあげたいの。ダメかしら?」


「獣人……ですか」


 にわかに雰囲気が曇った。

 ヒエナが獣人を贔屓にしていることは、万人の知るところだ。

 委員たちからすれば、会議に私情を持ち込まれた気分なのだろう。

 身内のゴリ押しは顰蹙を買いやすい。

 そのうえ、ヒエナは委員ですらない。

 俺を手伝うという名目でついてきたボランティアだ。

 言葉を選ばずに言えば、部外者である。

 歓迎されるわけがない。


 それでも、「私は皇女ですのよ!」「議会の承認は得てましてよ!」と言えば苦もなく通せるだろう。

 地位と権力を笠に着ないところは、ヒエナのいいところだ。


「みんなとっても頑張り屋でまっすぐで素直で、柔らかくていい匂いで、すっごく素敵な人たちなの。私は獣人たちにも七宝祭を楽しんでもらいたいの」


 肌触りと香りについては同意しかねるが、ほかは概ねヒエナの言うとおりだ。

 しかし、情緒的に訴えてもわがままにしか聞こえまい。

 それに、七宝祭は七宝生のためのイベントだ。

 七宝生ファーストであるべきだ。

 その点を踏まえた上で俺は援護する。


「この学校には人族を中心に、小人族や土腕斧ドワーフ族、永留淵エルフ族も通っている。そんなこともあって、異種族・異文化の交流は七宝祭において大事なテーマのひとつになっているんだ」


 ドワーフ族らしきモブ委員が深く頷いて同意を示した。


「獣人族は畜生道に身を置くケダモノ、などと蔑む声があるのは知っている。だが、半世紀前に奴隷化が禁じられたのを皮切りに、昨今では獣人への見方も変わりつつあるんだ。皇国議会も獣人族に対する迫害をやめ、居住や移動の自由を認めている。これは、国家の磐石化を図る国策の一貫で、この流れは今後ますます加速していくはずだ。今はその過渡期にあると言える」


 頭良さそうなワードをまくし立てているが、別に俺の頭がいいわけではない。

 こういうのは雰囲気が大事なのだ。

 なんかそれっぽいことを言えば、それっぽく感じるものなのである。


「今回の七宝祭では社会の潮流を先取りする形で獣人たちにも活躍の機会を創りたいと思っている。やがては、獣人初の七宝生も誕生するだろう。その呼び水にしたいと考えているんだ」


 俺は会議室をひとわたり見渡した。

 全員の関心が集まっているのを確認した上で、ニヤッと笑ってハッパをかける。


「それに、これは1000年続く七宝祭においても初めての試みだ。俺はどうせやるなら爪痕を残したいと思っている。過去を踏襲するだけなら、実行委員会なんていらないだろう? 去年のマニュアルを引っ張ってくればいいだけだからな」


 ルボ先輩の目がキラリと光るのがわかった。

 委員長としても何か革新的アイデアを欲していたのかもしれない。

 リーダーとは常に改革を求める者だからだ。


「実は、狩神カルシン騒動のとき、祖母が獣人に命を救われたのです」


 ルボ先輩がそう打ち明けた。


「瓦礫に行く手を塞がれて逃げ遅れていたとき、とても大きな獣人のお兄さんが肩にヒョイと背負ってくれたそうで、祖母ったら、いたく感銘を受けて私に毎日その話をするのですよ」


 ヘンジのことだな、と思った。

 大きい獣人と言えば、ほかに思い当たる節がない。


「ヒエナ様の提案ですが――」


 ルボ先輩に見つめられ、ヒエナは小さく喉を鳴らした。


「私は賛成です。もし、この社会に間違いがあるのなら、変わるべきは私たち若い世代からではないでしょうか。七宝祭は今年から獣人の参加を歓迎すべきだと思います」


 ちょっとでも気を抜けば忘れてしまいそうなモブ顔のくせして素晴らしいセリフだった。


「賛成の方は挙手願います」


 ルボ先輩の言葉で一斉に手が挙がった。

 全会一致での可決だった。

 なんだか目頭が熱くなる。

 ……が、俺は仕事を他人に丸投げしている事実を思い出し、冷や水をかけられた思いがした。

 セルフ冷や水だ。


「すごい! テンセイ! みんなが認めてくれたわ! テンセイのおかげよ! なんだか本当に頭がいい人みたいだったわ!」


 ヒエナが微妙に辛辣なことを言った。

 まあ、俺の扱いなんてこんなものでいいのだ。


「テンセイ、ありがとう!」


 そうそう。

 たまに、こうして餌を貰えれば俺は十分なのだ。


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