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第二話 氷姫遭遇


 父に固い忠誠を誓う郎党たちの手で、俺は深い森の中に投げ込まれた。

 日はとっぷりと暮れ、自分の手すらおぼろげな影のようにしか見えない。

 松明の火が無情にも遠ざかっていった。

 俺は途方に暮れて、棒立ちでそれを見送った。


「……」


 今更になって、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 追放するにしても、だ。

 路銀を持たせるとか、普通に屋敷からつまみ出すとか、そのくらいの慈悲はあってもいいだろうに。

 俺は壊れた冷蔵庫ではないし、ここは姥捨て山でもない。

 何もこんな森の奥に捨てていくことはないだろうに。


「はあ。これからどうしよう……」


 ひと通りキレ散らかした後で、俺は肩を落とした。

 皇都に戻って冒険者にでもなるか、それとも、街道で物乞いでもするか。

 どちらも現実的ではない気がする。

 ご覧のとおり、お先真っ暗だ。


 いずれにせよ、夜の森を歩くのは危険だろう。

 朝を待ってから行動に移ろう。


オン氷沙羅花ヒシャラゲ春暖ハラダンサリジ――」


 不意にどこからか声が聞こえてきた。

 これは、真言マントラだ。

 法術を発動するための呪文のようなものである。

 誰かが法力を練っているらしい。


 俺は周囲を見渡した。

 森の一角に青く光っている部分がある。


万木バンギ億砂オクシャラスベラ凍止イダラン! ――あっ」


 詠唱が終わったその瞬間、術者がしくじったと言わんばかりの声を漏らした。

 鈴のような綺麗な声だな、とほうけていると、突然森が凍った。

 そうとしか言いようがない。

 樹氷の森が俺の周りに広がっていた。

 やや遅れて凄まじい冷気が吹き荒れ、総毛立つ。


 森をまるごと雪景色に変える。

 これほどの法術を見たのは初めてだ。

 一体どれだけの法力があれば、こんなことができるのだろう。


「どうしよう……!? わわわ、どうしよう!?」


 淡く光る氷の森を誰かがこちらに駆けてくる。

 少女だった。

 歳は俺と同じ15くらい。

 近づくにつれて、その輪郭がはっきりと見えてきた。


 第一印象は、雪女だ。

 氷で作った日本人形のような風貌で、顔立ちはハッと息を呑むほど整っている。

 雪山で会ったなら雪女と確信して脱兎のごとく逃げ出したに違いない。


 その少女は俺を見るや、安堵して雪の上に尻餅をついた。


「よかったぁー! 私、あなたのこと、絶対に巻き込んじゃったと思ったわ!」


「俺もだ。指一本凍らなかったのは奇跡としか思えない……」


「きっと御仏の特別な慈悲があったのね。わわ、まずは謝らなきゃ。本当にごめんなさい。まさか、こんな森の奥に人がいるだなんて思ってもみなくて」


 がーっとまくし立てるようにしゃべり、少女は思い出したように荒い息を落ち着けた。

 そして、「あれ?」と首をかしげる。


「あなたのこと、どこかで見たことがあると思ったら、御前試合だわ!」


「ごぜ……ごふっゴふ」


 トラウマが俺の脳裏に光の速さで舞い戻ってきた。

 その副産物で思い出した。

 派手に吹き飛ばされて倒れるさなかに見た、ある光景を。


 皇族方が居並ぶ御所。

 垂れ下がる御簾みすを少し持ち上げて、好奇心いっぱいの顔でこちらを覗く、とある御仁の姿があった。

 それは、この国――皇真スメラマコト皇国の皇女のお一人で、世間では『皇国の氷姫』と称されるお方だった。

 その見目麗しいご尊顔と、この少女の顔が完全に一致しているわけだが、これは一体どういうことだろうか。


 答えを出す前に、まずは落ち着こう。

 今見ているものがすべて夢か幻という可能性もある。

 俺は目をつむり、両手で頬を張った。

 冷えているせいか倍は痛く感じる。


「あなた、なにしているの?」


 目を開けると、少女はまだそこにいた。


「うん。現実だな」


 ならば、こちらにおわすお方は間違いなく、あのお方であろう。

 スメラマコト皇国第三皇女――。

 皇真王スメラマコトノオウ氷鳴ヒエナ内親王殿下。

 まさに、その人である。


読了超感謝!

「面白!」「続編期待!」思方、『本印登録』及『良』及『五星評価』応援超求!

夜露死苦御願乞!

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