表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/93

第十一話 解決、檻中万華鏡


 男たちを檻の中に放り込み、奥座敷をあらためる。

 商品もとい獣人の少女は最奥の部屋で見つかった。

 裸同然の格好で手足を縛られ、体中に生々しい打撲痕があった。

 息を呑んで凍りついたヒエナに代わり、俺が檻を引きちぎった。


「出ておいで。俺は味方だ。君を助けに来た」


 なるべく優しい口調で声をかけたつもりだが、それでも少女は檻の奥の暗がりで猫のように震えていた。

 俺が一歩足を踏み入れると、きゃああ、と甲高い悲鳴が響く。


「来ないで……」


 涙声でそう言われた。

 だいぶ怖い思いをしたらしい。

 怖がるなと言っても無理な話なので、俺は地法術で小さな石独楽ベーゴマを創り出した。

 手の中でくるくると回る翡翠石のコマに炎法術で光を当ててやる。

 すると、暗い檻の中で光が踊った。


「すごいだろう?」


 法術マジックとでも言うべきか。

 これは、小さな法力しか持たない俺でもできる、ささやかな遊びだった。


 桜色に薄紅色、たんぽぽ色にくじゃく緑。

 手の上でいくつもコマを回すと、まるで万華鏡の中にいるような錯覚に陥った。


「きれい……」


 俺が手先に集中しているうちに、少女はすぐそばにやってきていた。

 たぶん犬の獣人だ。

 垂れ耳垂れ目で優しそうな雰囲気だった。


「俺はテンセイ。君は?」


玉祈タマネ……」


「いい名だ。これは君にプレゼントしよう」


「……ぷれ?」


「あげるってことだ」


 俺は擦り傷だらけの手に、石のコマを握らせた。

 ついでに、衛士服を脱いで肩にかけてやる。


「立てそうか?」


 手足の緊縛を解くが、タマネはよろよろするばかりだった。


「おぶってやろう」


 露出が多すぎて目に毒なので背を貸した俺だったが、すぐに後悔することになった。

 密着度というか、伝わる体温というか、とにかく刺激的だ。


「ありがとうございます。テンセイ様」


 どういたしまして。

 だが、今、耳元でささやかないでほしい。

 昨晩立てたばかりの誓いがもろくも崩れ去ってしまいそうだから。


「ほかの子たちをどこに売り飛ばしたのか白状しなさい」


 俺が青春の情動で揺らめいている間、ヒエナ警部は被疑者を難詰していた。


「で、でで殿下、今ならそちらのお品、半額で……いえいえ、7割引でお譲りしましょう。ご覧のとおり、器量よしのメスでありまして。あ、いえ、殿下にはオスの獣人のほうがよろしいでございましょうか? へへ、格安でご用意いたしましょうハイ」


 ハンベエは檻の中でまだ媚びるような笑みを浮かべている。

 反省?

 何それ食えんの?状態だ。


「オスとかメスとか、どうして動物扱いするの? 獣人は私たち人族と同じ人間よ」


 ヒエナの言葉で、タマネが息を呑むのがわかった。


「まあまあ、そうおっしゃらず。ぜひぜひ、わたくしの話をお聞きくださいませませ。わたくしの人脈をもってすれば、いかなる獣人とて調達可能でございまして。器量のよい者、体躯の優れた者、従順な者、珍しい者などなど。殿下のご趣味に合うものをなんでもご用意いたしましょう。ぐふふ、ここだけの話ですがね、ほら、よく申しますでしょう? 獣人と人族の間に子はできぬと。それは、ほら、そういったことにも気兼ねなくお使いいただけるということでございましてハイ」


「……そういったこと?」


 数秒ほど小首をかしげていたヒエナだったが、意味がわかるとカーッと顔を赤くした。


「出なさい、ハンベエ!」


「ありがとうございます、ありがとうございます。殿下ならば、そうおっしゃっていただけるとハイ、わたくし思うておりましたハイ」


「私、カチンときたわ!」


「……は、ハイ?」


 ヒエナは素早くマントラを唱えると、氷のバッドを作り出した。

 何に使うのかと疑問に思ったが、別に特別なことはしなかった。

 バットが持つ本来の使い方をしただけである。


 振ったのだ。

 フルスイング。

 しっかり体重を乗せて、コンパクトに、かつ、ダイナミックに振り抜く。

 それだけだった。


 打たれたのはボールではなく、ガマガエルの横っ面だったが。


「ぐぎゃダば……!?」


 ハンベエは1回転に2ひねりを加えて、別の檻の中に突っ込んだ。

 ワイルドすぎないか……。

 スカッとしたからいいが。


「あなたには厳しい取り調べが待っているわ。これまでに売り飛ばした獣人たちのこと、必ず洗いざらい自供うたってもらうから、覚悟なさい」


 昭和のデカの姿がそこにあった。


「これにて一件落着ですな、警部殿」


「そうね。……けーぶどの?」


「いえ、なんでも。それにしても、まさか本当に皇女自ら現場に乗り込み、事件を解決してしまうとは」


 面白いものを見た。

 今日のことは子々孫々まで語り草になることだろう。

 勧善懲悪モノの人情派皇女奇譚として、1000年後にはドラマ化しているかもしれない。

 人生楽もあれば苦もある感じでだ。

 ぜひ、そうすべきだ。

 俺に子孫ができたら、よく言い含めておこう。


「テンセイのおかげよ。とっても心強かったわ」


 ヒエナは真夏の太陽のような笑顔を見せてくれた。

 俺にはそれで十分だった。


読了超感謝!

「面白!」「続編期待!」思方、『本印登録』及『良』及『五星評価』応援超求!

夜露死苦御願乞!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ