第一話 我追放……!?
「出て行け! 貴様などいらん! 一族の面汚しめが!」
屋敷に戻るやいなや、父真厳は修羅の形相となった。
俺はすーっと胸が軽くなるのを感じていた。
なんせこの親父ときたら、馬車の中でずっと熱した鉄のようにカッカしていて、いつ爆発するかと気が気ではなかったからだ。
爆弾というものは、爆発するまでが一番恐ろしかったりする。
俺は心底反省しているような表情でうつむいた。
腹の底では、仕方なくね? と思いながら。
先ほど、俺は決闘をした。
結果は負け。
それも、皇族が一堂に会す御前試合で惨敗を喫した。
メンツを潰された父が怒り狂うのも無理からぬことだ。
だが、こちらにも言い分はある。
そもそも、俺に決闘など土台無理な話なのだから。
俺は街宣車なみの音量で吠えまくる父から顔を逸らし、趣のある枯山水を見つめた。
前世、俺は事故に遭い、あえなく死んだ。
気づけば、ここ――異世界だ。
和風ファンタジーの世界で二度目の生を得た。
この世界に剣と魔法はない。
その代わり、刀と法術があった。
俺は喜々として法術を学んだ。
努力次第で魔法使いになれるのなら、努力を惜しむ馬鹿はいないだろう。
1歳にして字を読めるようになった。
2歳の頃にはレンガのような厚さの法術書を読みあさっていた。
一時期は神童と持て囃されたこともあったが、栄光のときは長続きしなかった。
俺は『法力』に恵まれなかった。
法術を魔法だとすると、法力は魔力だ。
そして、俺の魔力量は2歳児なみだった。
敗因はこれだ。
俺は一発しか撃てない法術を見事に防がれ、なすすべもなく地に伏したのだった。
数々の近衛侍士を輩出してきた武家の名門、武張家の長男としてはあるまじき大失態だ。
祖先の霊もちょんまげ並べて泣いていることだろう。
さらには、別の問題もあった。
法力は、仏の力とされている。
法力がないということは、つまり仏の道から外れた畜生ということだ。
それは、この世界の価値観で言えば、反社も同然だった。
それでも、平民であれば許されただろう。
しかし、我がムバラ家は由緒正しく血統尊き貴族の家系であり、カレーうどんのシミ程度の汚れも許さない厳格な家訓がある。
一族から反社を出すなどもってのほか。
よって、俺の処遇はこのようになった。
「お前などもう息子ではない。今日をもって追放とする」
そう吐き捨てると父は清々した様子で引き上げていった。
「お兄様ってお父様を怒らせることに関しては一家言持っていますよね」
西日で赤く染まった枯山水を眺めつつ、ぽつねんと佇んでいると、そんな言葉が投げかけられた。
振り返ると、半開きになった障子の向こうに妹の顔があった。
パッと見は、清楚で品のある王道黒髪美少女だ。
だが、釣り目がちな目には性悪な印象を受ける。
「神鳴、お兄ちゃんな、勘当されちゃった」
「妥当な判断でしょう。さっさと出て行ったらどうですか? お家は私が継ぎますから、お兄様はどこへなりとも消えてください」
熱のない声でそう言われる。
文武両道を地で行くカンナからすれば、俺など兄という名の不快害虫でしかないのだろう。
「もうお兄様は我が家の一員ではないのですから、二度とムバラの姓を名乗らないでください。これ以上、家名を汚すとおっしゃるならば、次期当主として私が今この場でじきじきに処断しますよ」
素晴らしき惜別の言葉だった。
後ろ髪を引かれない分、足取り軽く出ていけそうだ。
世間ではそれを逃げ出すと言うのかもしれないが。
俺は刻一刻と暗くなりつつある空を見上げた。
この世界には、八百万の神々がいるらしい。
文字通りの800万柱だ。
それらを総じて『御仏』と呼ぶ。
だが、そんなことは俺には何の関係もない。
俺はあまた存在する御仏のすべてに、ことごとく見放されているのだから。
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