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月鬼桜  作者: 釉亜
第一章
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第一章 其の五

本作品では過激な表現が含まれる場合があります。

苦手な方はご注意ください。


それから数十日が過ぎた頃、ひとりの男が川辺で亡骸となっているのが見つかった。


「今朝、町を見てまわっているときに見つけました。」

そう報告を受けながら亡骸の状態を見る。喉を一太刀で深く切り裂かれていた。

「この男は確か、鬼がいたと騒いでいたものだったな。」

この男については一連の出来事の初めての目撃者でもあり、あのとき正気ではないように思えたため人をつけて常に監視していたはずだった。あれから特段目立った行動もなく、そのためになにも報告があがっていないと思っていたのだが...。

「この男についていたものたちはどうなっている?」

「それが、とくにおかしなことはなかったといってるんです。昨日は朝に店へと勤めに出て、夜に屋敷に帰ってから出かけていない、と。屋敷にも荒れた様子や血が残っていることはありませんでした。」


それは、おかしい。

この男が夜に出掛けたか屋敷を出入りするものがいたのでなければ、監視に気づかれないようになにものかが屋敷に忍び込み、どうやってか生きたまま外に連れ出して殺したことになる。そんなことが可能なのか?

「屋敷に裏口などはないか?」

「ひとつありますが、表とその裏口に人をつけていました。ですが人が出入りしたことはなかったそうです。」

ますますわからない。この男に監視としてついていたものたちの目を欺けるような器用さはないように見えた。

「この男の最近の行動と、会っていた人物をすべて調べろ。」

冷たくなったその亡骸を睨みつけながら俺はそう言って立ち上がった。


帝へと報告するためにすぐに城へと戻り、事の顛末をその場に集まったものたちへと話す。

「...以上が今回の出来事です。」

「そのものは本当に鬼がいる、と申しておったのか?」

老中のひとりが困惑したようにそう言った。

「はい、信じられないことではあると思いますが、確かにそのように話しておりました。」

「あぁ、いや。疑っているわけではない。ただ他にもそういった話があったものでな。」

まさかこのような荒唐無稽な話が他にもあったとは。

初めて聞く話にこちらも困惑してしまい、場にはしばしの静寂が訪れる。

「...して、その話とは?」

いち早く、当惑状態から抜け出したひとりが話をうながす。

「ひと月ほど前のことだ。」

そういって老中は語りだした。


城下で薬屋を営んでいるものが、夜遅くに山に薬草を取りに行くことになった。

その日は月が明るく、その男は明かりを持つことを忘れて山へと登ったが、道中で月が厚い雲に覆われてあたりが暗くなり身動きがとれなくなった。

そうしてまた月が顔を出すのをじっと待っていたときにかさ、と葉の擦れる音が聞こえたため暗闇へとむかって声を出した。

「もし、だれかいるのですか。」

しばらく待ってみたが返答はなく、獣かなにかだったのだと勘違いした己を笑った。仕方ない、と諦めてなかば地面を這うようにして来た道を戻ろうとした。

そして少し進んだ先で、目の前に人の足が見えたのだ。

......人の足だ。

やはりだれかいたのだと思い顔をあげて、男は金縛りにあったかのように動きを止めた。暗闇になれた男の目に映ったのは、顔に鬼の面をつけ、その身体にはべったりと赤黒い血がついたものだったからだ。

顔から一気に血の気が引いていく。

男は徐々にがたがたと震えはじめ、次の瞬間にはがむしゃらに駆け出していた。

どこをどうやって走ってきたのかなどわからないが、いつの間にか町へと戻ってきた男は屋敷へと帰り、震えのとまらない身体を抱きしめながら夜を明かした。


「そうしてその男は無事に帰ってきたらしいが、かの鬼が自分のもとへとやってくるんじゃないかと、怖くて眠れやしないからなんとかしてくれ、と相談されたことがあってな。」

ひと月ほど前といえば幾度目かの殺人が起きていたときだ。

「なぜそのときに言わないんだ。」

「いや。そのときは寝ぼけて幻でも見たのだろうと思ったのだ。」

そう言い合いをするふたりを横目に俺は頭を抱える。

今朝、亡骸となってしまった男が言っていた鬼は実在している...?いや、ありえない。人の形をしているということだから、人ではあるのだろう。だがなぜ顔に鬼の面をつけているのだ。あまつさえその奇妙ななりで人を斬っているなんて、それこそ正気の沙汰ではない。

なにかあるのだろうか。俺達には到底計り知れないようななにか...。

考えがまとまらず頭を横に振る。思わずため息が出そうになったそのとき、それまで一言も発することがなかった帝が静かに口をひらいた。


「ふたりの男が話す鬼については特徴が一致しているのか?」


場がしんと静まり返り、俺と話を聞いた老中が目を見合わせる。

「薬師の男が見たのは鬼の仮面をしたものだったとだけ。なにせ暗闇の中で恐怖の合間に少し見たに過ぎないものでして...。ただ、かなりの細身であったそうです。」

「こちらは同じく鬼の仮面をした、一見女のようにも見えるものだったと。その男もかなり遠目に見たに過ぎませんので、定かではないかと。」


「そうか。鬼という言葉がふたりのものから出たのだ。特徴も似ているため同一人物の可能性が高いだろう。また、一連の出来事の犯人である可能性が高い。今後はその鬼について詳しく調べるように。」


「「はっ」」

帝からのお言葉にその場にいたすべての人が平伏した。

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