第一章 其の二
本作品では過激な表現が含まれる場合があります。
苦手な方はご注意ください。
年末年始はできるだけ投稿頑張ります。
数日後、柳は宗馬が話していたのはこのことだったのかと、人が集まった場所の後方でひとり納得していた。
「本日集まってもらったのは他でもない!
近頃発生している、鬼による連続殺人についてだ!ここに集まってもらったものたちにはこれからする話をよく聞いて対応してほしい。内容は~...」
白髪の目立つ髪を後ろでまとめた齢五十ほどの男、今の将軍であるその人が声を張り上げ、この場にいるものたちへと説明を続ける。
まあ要約すると、鬼を捕えるため俺たち城内に勤めるものに限らず国中へと向けて御触れが出されるということだ。そしてそのことに対して注力するようにとのことである。
内容としては
1.鬼について些細なことでも報告すること。
2.有益な情報をもたらしたものには褒美が与えられること。
3.鬼を見つけた場合は必ず、殺さず捕まえること。
4.生きたまま捕らえたものに対してのみ多くの褒美が与えられること。
とのことだ。
今までも鬼を目撃したことがあるといった人は存在したのだが、そうした話が人々の間で行われることはあまりなかった。だが、鬼の活動が頻繁になってきた最近では、国の中枢へと直にそういった話が届けられるようになってきている。
俺の前にいたものたちが小さく言葉を交わしているのが聞こえる。
「それにしてもお優しいもんだなぁ。こんな鬼に対してもすぐに命を奪わず、まずは話を聞こうだなんて。」
「あぁほんとにな。これほど多くの命を奪ってきた残虐非道な奴だってぇのに。
見つけ次第殺せ、となってもおかしくないだろう。それでもひとりの人として対話を望まれるとは。」
「まあだからこそ俺たちもあのお方を慕ってついていこうと思えるもんさ。」
「それもそうだな。」
そんな話をしていたものたちがその場から去ろうとしているのを見て、いつのまにか将軍の声がきこえなくなっていることにはっと気づく。
しまった...。
目の前の会話に気を取られ、将軍からの話を途中から何も聞いていなかったことに自分でも呆れてしまう。それにしても殺さず捕えようとは。なかなかに大変なことなのではないか、とまだどこか他人事のように思いながらあの方の優し気な笑みを脳裏に思い浮かべたときだった。
「優しい......か。」
ふいに聞こえてきた声に後ろを振り向けば、いつのまにか宗馬が立っていた。
「驚いた。いつからそこにいたんだい?」
俺の記憶ではさっきまで将軍の少し後ろで悠然と立っていたはずなのに。
「その様子だと話を聞いていなかったな?」
と少し呆れたように笑いながら言われた。
...ばれている。
「いや、すまない。だが重要な部分...鬼についての御触れの話はきちんと聞いていたさ。」
と答えたが、もはやなにも言葉を発することなく肩を竦めながら苦笑された。
「まあいい。それよりこの後は空いているか?ともに飯でもどうだ?」
「これはうれしいお誘いだ。もちろん行こう。
そうだ!おいしい鍋と酒が出される店を知っているんだ。よければそこでどうだろう?」
俺は宗馬からの誘いに嬉しくなり、ふたつ返事で了承しながら上等で雰囲気も悪くない店を思い浮かべる。あそこはすっきりとしたお酒を飲みながらつつく鍋がとても良い。
「いや、今回は俺の家でやろう。なに、ちゃんと酒も用意しているさ。」
と言われこれは、とますます嬉しくなり抑えきれなかった口元を緩ませながら
「そうか、それもいいな。楽しみにしているよ。」
「やめてくれ、そこまで大層なものは用意していない。」
そんなふうにとりとめもない話を続けながら、日の暮れゆく空の下をふたりで並んで歩きだした。