第一章 其の一
本作品では過激な表現が含まれる場合があります。
苦手な方はご注意ください。
年末年始はできるだけ投稿したいなと考えています...。
ざわざわとひとの賑わう城下町で、とりわけ人がひしめき合う場所があった。
その様子を少し遠くから眺めたふたりの男はゆったりと歩き続けながら話す。
「また例の鬼か...」
「あぁ...。今度は老中の一人でとても気がいい人だった。
今回は目撃者がいないからまだ断定はしていないが、手口などからして十中八九そうだろうな。」
そういいながら人だかりを横目に通り過ぎる。
「これで何度目だろうか...。まだ正体も掴めないような状況なのか?」
「それが...。」
おや、これはめずらしい。
と柳はかるく目を見開いた。誰に対しても円滑に言葉を交わし、話せないようなことは上手くはぐらかすような宗馬が言い淀むとは...。
宗馬と出会ったばかりの頃はその少し明るめの髪色に、柔らかい印象を受ける目で気軽に接してくる態度が苦手だった。あちらも俺に対して少し距離があるかのように思っていたが、今となってはこういった姿を見せてくれるほどに関係が近くなれたということだろうか。
そう少し嬉しく思いながら
「なにか悩みがあるなら俺でよければ話を聞くよ。まあ帝の近衛である君には人には言えないことも多いだろうけど。」
「ありがとな。だが俺が話すまでもなく、そのうちお前たちにも話がいくだろうよ。」
「?」
俺はよくわからずおもわず首をかしげたが、そんな俺に宗馬は小さく笑って
「まあ、俺たちが成すべきことは一刻も早く鬼を捕らえること。ただそれだけさ。」
と、自身を納得させるようにそうつぶやいた。
柳はよくわからなかったが俺には話せないことがあるのだろうと思い、話題を変えることにした。
「そういえばこの前話していた花なんだが、きれいな花が咲いている場所を見つけたんだ。君さえよければ案内するよ...そうだな、4日後はどうだい?」
「あぁ...。そんな話もあったな、4日後でかまわない。わざわざ探してくれたのか、すまないな。」
「この前少し遠くの人を訪ねる用事があってね。その道中でたまたま見つけたんだ。礼を言われるほどのことでもないよ。」
「そういえば数日ほど離れていたときがあったな。なにか問題事でもあったのか?」
「いや、いや。そういうわけじゃないんだ。昔少しお世話になった人がいてね。
せっかくの休日だったから、足をのばしてみただけなんだ。」
心配そうな顔で尋ねてきた宗馬を安心させるように笑顔を返す。
「そうか、ならいいんだが...。鬼のこともあるから十分に気をつけてくれよ。」
たしかに、鬼が夜な夜な出るとされている今は気軽に出歩くのは危険かもしれない。どこか他人事のように感じていてあまり気にしていなかった。宗馬は少し心配性なきらいがあるが、その言葉からそれほど大切に思ってくれているのだろうと感じられる。
「これからは気をつけるよ。」
それはまぎれもなく本心であり、するりと自然と口をついて出た言葉だった。
「そうしてくれ。
それじゃ、俺はこのあたりで失礼する。......またな。」
「ああ、またな。」
柳は背中を向けてひらりと手をふる宗馬を見送り、自身もゆったりと歩きはじめた。