第二章 其の十一
本作品では過激な表現が含まれる場合があります。
苦手な方はご注意ください。
俺は目を見張る。
そこにいたのは、あのとき共にいた若い男だったのだ。
「この男で間違いありません。」
将軍からの問いに、はっと我に返って答えた。
まさか本当に生きていたとは思わなかった。
聞けばその者はまだ配属されたばかりの衛士のひとりだそうだ。
あの日は俺と同じようにただ誘いに乗って食事を共にしていただけのようで、あそこにいた者たちの中に特別仲の良い人がいた、というわけではないらしい。
そして、その衛士は当時のことをほとんど覚えておらず、食事をしているところまでは記憶しているが途中から記憶がないとのことだったので、俺と同じく鬼に気絶させられたと考えるのが妥当なのだろう。
衛士は鬼を見る前に気を失っていたため、本当に鬼がいたかどうかはわからないままである。
これでは同じくあの場にいた他の者が見つかったからといって、広がってしまった噂を消すことは難しいだろう。
(これからも疑いの目をむけられたままということか。)
と気が重くなりかけたときに、衛士はこちらを見て自身のことを話してくれた。
「あの場に貴殿がいたことは覚えております。あのときはいつの間にやら気を失っておりまして、目が覚めたのは見覚えのない山道でした。ただ、気を失う前だと思われるのですが、桔梗の香りがしたような気がします。貴殿は鬼と遭遇した際にそのような香りがしたかどうかは覚えておられますか?」
桔梗の、香り......。鬼から?
しばらく考えてみたが、おそらくしていないはずだ。
だが正直、あのときは血生臭いにおいが記憶に強く残っているため、覚えていないだけの可能性はある。
「あのときは血の匂いが強く、ほかの香りがしていたかどうかは正直覚えていません。」
ふむ、と各々が考えに耽る中、宗馬が口を開く。
「その日の夜、そちらの衛士が目覚めたのは山道ということでしたが、柳は俺の屋敷の庭に捨てられました。もしふたりを連れ出したものが鬼であるのならば、鬼は城内の人の関係性について詳しい可能性があるかと思います。」
「それは内部に内通者がいる、ということか?」
将軍が眉をひそめながら険しい顔で問う。
「それか城内に勤めるものの中に鬼がいる可能性も捨てきれないかと。」
その瞬間、場はざわめいた。
だがそれも致し方ないだろう。もしそうであるならば大問題だからだ。日々これだけ近くにいながらも、長い間気づくこともできずに野放しにしてきたようなものなのだから。
「それはないだろう。」
ぴたり、とすべてのものが口を閉ざす。ここにきて帝が初めて口をひらいた。
「内通者についてはわからないが、目撃されている鬼のような容姿をしたものはここにはいない。直接鬼をこの目で見たことはないが、聞いた特徴や姿絵を見る限り鬼自体はここにいないはずだ。」
俺は顔には出さないように努めたが、内心かなり驚いていた。
まさか、ここに勤めているすべてのものたちを記憶しているというのだろうか...。そうであればこの方も鬼に劣らずおそろしい人だ、と思う。
ほっと安堵するような表情をした人たちが幾人かいるのを見るに、帝のこの言葉は信用できるものであるということだろう。
「ふむ。帝がそう仰るのであれば鬼に通ずるものがいる、という可能性に絞って今すぐに調べる必要がありますな。」
そういって将軍はすぐに隣にいるものや、宗馬に向けてなにやら指示を出し始める。
その後も今まで聞いた鬼の特徴をすり合わせたり、それらしいものが城内にいないかを調べるためにそれぞれの管轄で行うことをまとめたりと、せわしなくやり取りが行われているのをただ静かに見ていた。
そうしてこの場での結論は出たようで、とくに俺に対しての沙汰などはないまま解散という運びになった。




