第二章 其の十
本作品では過激な表現が含まれる場合があります。
苦手な方はご注意ください。
あれから数日。
もとの日常に戻るかと思いきや、あの出来事のせいで心中穏やかではない日々を送ることとなった。
理由としては鬼と遭遇して、ただ頭を殴られて気絶させられたのみで殺されなかったからだ。正確に言うと鬼と遭遇はしておらず、認識する前に気絶してしまったのでなんともいえないが、周りからするとそのような些事は関係ないのだろう。あの場にいた他のものたちは皆亡くなっているため、俺が無実であることも証明できずに様々なことを言われた。
鬼と繋がっているのではないか。
いや、鬼がいたというのは嘘で自分が殺したのではないか。
他のものは皆殺されたのになぜお前だけ生きているのだ。
見境なく放たれる言葉は、直接言ってくるわけではないにせよそれなりに堪えるものがある。
俺だってあれからずっとあの夜を引きずっているのだ。
なぜ鬼は俺を殺さなかったのだろうと。あのとき俺がもっと早くに気づいていれば、座敷を離れることをしなければあのものたちは今も生きていたのだろうかと。
いいや、と首を振る。
これは鬼をよく知らない俺でもわかる。あの場で俺ができたことなどなにひとつないのだと。
鬼はきっと俺がどうしていようがあのものたちを始末しただろう。
これは後から考察の末に結論付けた内容だが、おそらくあのときに眠り薬かなにかをすでに盛られていたのだ。そうでなければあの人数相手に声すら出させず、離れていたとはいえ、さほど距離のない場所にいた俺に悟らせずに始末することは不可能だっただろう。
そして宗馬の話によれば俺は一度、夜中に目が覚めていたらしい。だがそのときはまたすぐに眠りについたらしいので、薬が効きにくい俺は遅れて効果がでたのだろうと思われる。
このことに思い至ってすぐに宗馬にも相談をした。
だが、店に話を聞いても怪しいものはおらず、運ばれた食事についてもなにかをすることはできないような状況だったらしいので、もしこの考えが合っていたのであればあの店に集まった時点であの場にいたものたちの運命は決まっていたのであろう。
これまでの出来事でも感じていたことではあるが、鬼はおそろしく頭が切れる。
そして何事も行動に移せるだけの強さも兼ね備えている。宗馬が前に手加減をしていてはこちらの命が危うくなる、と言っていた意味が今になってわかる。生かしたまま捕えようなどとは無茶である。
そんなことを考えながら歩いていたからか、だれかとぶつかってしまい慌てて謝罪をして、目の前へと意識を集中させる。
今日はまた帝よりお声がかかったので、あのときと同じ侍従の後ろを歩きながら以前とはちがう渡り廊下を歩いているのだがその足取りは重い。呼び出された理由があの出来事についての取り調べだとわかっているからだ。
宗馬から事前にあの出来事について話しあう場が改めて設けられると聞いていたが、何度聞かれても同じことしか話せない。俺としては見たこと起こったことをそのまま話しているにすぎないのだから。
思わずため息をつきそうになったとき、視界の先で帝の侍従がある部屋の前で足を止めるのが見えた。そしてこちらを振り返り、頭を下げて中へと促した。
「皆様すでにお待ちです。」
(皆様?)
疑問に思いながら開かれた戸をくぐり、中へと入った俺は呆然と動きを止めた。
中では、帝のほかに将軍や老中などを含めた十人以上がそこにいたからだ。すぐそこには宗馬が座っているのも見える。予想に反した人の多さに、そしてその人たちが一斉にこちらを見るその圧に、ぶわりと嫌な汗が背中を伝う。
しばらく立ちすくんでいると、中のひとりから声がかかる。
「なにをしている。はやくこちらへきて座らんか。」
「...遅くなり申し訳ありません。」
なんとか声を出して、指し示された部屋の中央へと腰を下ろす。
「さっそくだが、君にこうして来てもらったのは数日前の出来事について確認するためだ。」
俺が座る様子を見届けてから、早々に将軍は話を切り出した。
「宗馬から君が見たことについて報告があったが、そのときに話が出ていた若い男について聞きたい。入ってくるといい。」
将軍がそういうなり、俺が入ってきた廊下側とは異なる、隣の襖が開いてひとりの男が入ってきた。
「君が話していた若い男はこのもので間違いないか?」




