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月鬼桜  作者: 釉亜
第二章

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第二章 其の三

本作品では過激な表現が含まれる場合があります。

苦手な方はご注意ください。

無常にも変わらぬ朝はやってくる。

昨日はあまりにも衝撃の強い出来事のせいで、その後の記憶が曖昧だ。

宗馬がここまで送り届けてくれたことはうっすらと覚えているが、そこからどのようにして寝床にたどり着いたのか、いつ眠りについたのかが定かではない。


「はぁ...」


だるい身体を起こす気にもなれず、仰向けにごろりと転がり再び目を閉じる。

すると思い返されるのは昨日の出来事だった。

今このようにして思い返してみると、宗馬と対峙する鬼になにか違和感を覚えた。その違和感がなにかについてはわからない。俺や宗馬に対してはさほど興味がなかった振る舞いについてだろうか?それともあの場にいたほかのものに対しては毒を仕込むまでの用意周到さだろうか。


(あのときもきっと俺、というよりはおそらく隣りの男を仕留めにきていた。)


あの、特定の人物に対してだけ向けられた圧倒的なまでの殺意。

やはり鬼はなにか目的があるようにみえる。ただ殺人を行いたいだけであれば、あのときに宗馬や俺も斬ればよかったのだ。即効性のある毒を刀に仕込んでいたのだから、かすり傷ひとつでもつけることができれば死までは至らなくとも、あの場で邪魔をすることは難しかったはずだ。

だがそれをしなかった。

ならばあそこにいたものたちはなにか鬼の恨みを買うようなことをしたのだろうか?

いや、ただ恨みのある相手を標的にしているのであれば今まで亡くなった人たちもそういうことになる。だがそれはありえないだろう。いまや鬼に斬られた人たちは数十に及ぶうえに、多くの人たちから慕われていた人もいると聞いている。


答えの出ない悩みを振り切るようにがばっと身を起こす。

途端、ぐらりと眩暈をおこした。どうやら身体がだるいのは悩みゆえのものではないらしい。目を閉じて眩暈がおさまるのをじっと待っていたそのとき。

「おーい。まだいるか?」

と外から尋ねる声が聞こえた。

覚えのある声に、重い身体をおこして土間へと向かう。そして引いた戸の先に現れたのは、やはり思い浮かべた通りの人物である宗馬がそこに立っていた。その向こう側ではどんよりと今にも雨が降り出しそうな空が見える。


「やあ。君が朝から訪ねてくれるなんて珍しいこともあるものだ。」

「なに。昨日のことがあったから気になってな。具合でも悪いのか?」

宗馬がすぐにこちらの様子に気づいたように問う。

ほんとうによく気がつく男だ、と微かに笑った。

「少し考えすぎただけさ。上がっていくかい?」

「お邪魔でなければ。」

そうして宗馬を中へと招き入れる。


客を通す用の庭に面した部屋へと案内し、茶を入れる。外ではすでに雨がしとしとと降り出していた。

他愛もない話を少しした後に宗馬は昨日の出来事について話を進めた。

「あの後、人を連れて場に戻って鬼の行方を探したんだ。

 幸いにもそれらしき人を見たものがいてな。そのものから話を聞いたんだが...」

不自然に止まった言葉に、茶を飲んでいた手を止めて宗馬を見る。

宗馬がまっすぐに俺を見返す。

「鬼らしき人物はあの山へと......お前が案内してくれた山へと姿を消したらしい。」


止まっていた手を動かして、茶をこくりと飲んだ。

なるほど。珍しく宗馬がここを訪れた理由はこれか、とどこか他人事のように納得する。

「君は、俺が鬼とつながっているのではと思ったのかい?」

静かな声で問えば、宗馬は戸惑いを見せながらもこくりと頷いた。

「偶然だとは思っている。お前がそんなやつではないことも。

 だが、疑わずにはいられなかった。すまない。」

このような状況で謝ってみせるのだ、この男は。

思わず苦笑が漏れる。

正直、鬼があの後どこへ向かっていようと俺の知るところではないが、宗馬はどんな些細なことも疑って調べなければならないのだ。宗馬の立場を理解できるからこそきっと俺も冷静でいられたのだろう。

だが、頭では理解していても心というものは自分自身でもどうしようもないもので、少しは仲良くなれたと思っていた相手に疑われるのはどうやらこたえるらしい。

「証拠を示すことなどはできないが誓って鬼とつながっていない。俺があの山を知っているのは...」

目を閉じて、今は亡きあのお方の後ろ姿を思い出す。

遥か彼方の懐かしく、そして痛みをともなう記憶。

いつかは言わなければいけないときが来るだろうことはわかっていた。


目をゆっくりとひらいて、宗馬をひたと見据える。

「先代代将軍が好んでいた場所でもあり、今となってはあのお方が眠る場所だからだ。」

宗馬が驚きに目を見開いて口をあける。だがそれ以上は音になることはなかった。

かまわずに俺は話を続ける。

「あのときの俺は、まだあのお方が罪を犯したなどと到底信じることはできなかった。だから、あんな風にしてむごい姿で人々に晒されるのが忍びなくてな。」

「まさか、お前......」

言いたいことはわかる。このことを他のものに知られれば俺だって殺されかねないだろう。それでも俺はだれにも言えなかったあの日のことを懺悔するように言葉にする。

「あの日、完全に日が暮れた暗闇の中であのお方の亡骸を山へと運び、弔った。」

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