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同棲にも疲れた

 ナツコが自宅に着いたのは、11時を回ろうかという頃合いだった。


 玄関を開ければ煌々と灯る明かりが見えた。


 彼女は眉をひそめる。


 帰宅したら明かりが灯っているという状態は、心暖かになる時ばかりではない。


 居間とも、寝室とも判別の付かない狭い部屋の中に入っていけば、案の定、煌々とついた明かりの下で同棲相手の柳瀬アキラがだらしなく寝落ちていた。


 アキラは同い年の28歳。


 細身で茶髪のひょろっとした男だ。


 いわゆる甘いマスクというヤツも寝顔となればだらしなく緩むし、甘い声もいびきとなっては台無しだ。


 ナツコのなかに湧いた心底疲れるガッカリ感などおかまいなしに、アキラはフローリングの上に敷いたラグの上で気持ちよさそうに寝ている。


 煌々と灯る明かりにつけっぱなしのテレビ。


 エアコンの設定温度は16℃。


 強風でガンガン回っている。


 蒸し暑い外とは違って、部屋の中は寒いくらいだ。


 ナツコは電気代のことを気にしながらエアコンの温度を上げた。


 蛍光灯の灯りも一段階落とす。


 光熱費だってタダじゃないのに、アキラは何故気にしないのだろうか?


 床にゴロンと寝転がる邪魔な体を軽く蹴る。


 しかし彼が起きる気配はない。


 リビングともダイニングともいえる部屋には、足の短い大きめのテーブルがある。


 コタツにもなる便利なテーブルだ。


 その上にはコンビニの弁当がゴミのように二、三人分散らばっている。


 中途半端に食い散らかした跡のある弁当を見て、ナツコの表情は更に険しくなった。


 アキラはバンドマンで、夜の店で仕事をしている。


 この時間に在宅しているということは、今日の稼ぎは無いということだ。

 

 なのに自炊もせず、コンビニ弁当。


 一人分ならともかく数人分の弁当を、自分が好きな所だけ食い散らかしている。


 これが初めてのことではない。


 ナツコと暮らす部屋でアキラは好き勝手している。


 金がないのに出費を抑えるという気もない。


 アキラは社会人男性だというのに、折半という感覚すらもっていなかった。


 家賃や光熱費も。その他の費用についても、ほとんどナツコが担当している。


 同棲を始めた頃は、それでも一緒にいたかった。


 三年前、二十五歳の時に同じ部屋で暮らし始めた時には楽しかったし、僅かばかりではあったが彼女には貯金があった。


 アキラだってそのうち変わっていくだろうという期待があった。


 だが、一年、二年と経っていくうちに、その期待は小さく小さく萎んでいく。


 アキラの収入は増えないのに浪費癖は変わらない。


 今の彼に一体いくら借金があるのか、ナツコは把握していなかった。


 借金といっても、生活費の為ではない。


 バンドマンとしての必要経費と本人は言っているが、それを信じてしまうほどナツコは愚かにはなれなかった。


 アキラに振り回される生活の中で貯金も底をつきかけている。


 ナツコは大きな溜息を吐いた。


 先行きには不安しかないが、それでも腹は減る。


 彼女は机の上に散らばっていた弁当から食べられそうな所を取り出して皿に盛ると電子レンジにかけた。


 チン、という軽快な音が鳴ってもゴミを片付けるほうが先だ。


 散らばったビニールゴミを片付けてみれば、下には酒の空き缶が転がっていた。


 複数の空き缶の中には、まだ重みの残っているモノもある。


 ゴミ箱にすぐ入れられるモノとそうでないモノを分けながら、洗わなければいけないものはキッチンの流しにとりあえず置いた。


 ひと段落つけてから電子レンジを開ける。


 その間、アキラが目を覚ます様子はなかった。


 場所をとる体をよけながらテーブルに食べ物を並べて座って。


 なんとなく惨めな気分になる食事を口に運びながら、ナツコは呟く。

 

「私、何やってんだろ」


 こぼれ落ちた言葉を拾ってくれる者などいない。


 アキラと付き合い始めると告げた時、友人にはあんな男はやめておきなさいと言われた。


 ナツコは友人ではなく、アキラをとった。


 その友人との付き合いは既にない。


 奨学金の借り入れの少なかったナツコは、安月給ながらも返済を既に終えている。


 その気持ちの余裕に付け入るように入り込んできたのがアキラだ。


「なぜ、こんなことになったかな」

 

 今の生活は一人暮らしよりも寂しいとナツコは思った。


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