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──ゾワリッ!
と不意に背筋を悪寒が駆け巡った。腰が砕けるような浮遊感に襲われる。
波打つ様に視界が歪んだ。目の前の風景が溶け混じる。上下左右の方向感覚が、喪失。一瞬で黒一色に塗り潰された。キーンと耳鳴りがする。かと思えば、一切の音が途絶えた。
まるで突然無音の暗闇に体ごと投げ出されたようだ。ひっと息を呑む。だが舌が凍ったように感覚がない。空気を吸う時の匂いも感じられない。咄嗟に何かを掴もうと手を伸ばすも、伸ばすべき手の感覚すらなかった。
やめ……やめ…
五感の喪失。あまりの恐怖に意識が、絶叫し──
──────
────
──
─
「──ろぉぉぉぉ!」
跳ね起きながら、俺は絶叫した。いつの間にか、地面に横たわっていたようだ。打ち付けられたのか?背中に痛みと冷たい感覚が残っている。
なんだ、なんだ、一体何が起こった!
手を付いたまま、視線を巡らした。数メートル先も見えない闇に、暑苦しい程の湿気。空気が粘つくようで、乾ききった口の中までも粘つく。
暗闇に目を凝らすと視界の隅に何か映った気がして──
「──ん?」
すかさず眼前に何かが浮かび上がり、
囚人番号を入力。
○○○○
①②③
④⑤⑥
⑦⑧⑨
0
「──は?」
思わず間の抜けた声が出た。
「いや、いや、いや、待て、ちょっと待てよ。囚人番号ってどういう事?」
ブンブンと頭を振り、冷静になろうとする。その瞬間だった。文字が、消えた?
なんだ幻覚か。いやいや幻覚見てるのもヤバいけど。とりあえず安心して視線を戻すと再び現れる。
ってまた現れるんかい。どうやら視線を追跡して現れたり消えたりするようだ。
幻覚じゃないならもしかして夢?夢なの?夢だよね?とりあえず頬でも抓ってみるか……って痛い。どうやら夢ではないようだ。
抓った手を今度は文字に伸ばす。文字は実体ではないようだ。簡単にすり抜ける。
うおっすげえ。目を凝らすと文字が拡大され、輝きが増した。光源として文字越しに、辺りの光景がうっすらと浮かび上がる。
どうやらここは何処かの通路のようだ。天然の滑らかな岩塊を無造作に積み上げたような石壁に窪みがある。ちょっとした隠れ場所になっていて、俺はここに倒れていたようだ。石壁は、黒ずんだ黴と苔がむし、辺りには饐えた匂いが充満している。
なんでこんな所に?ってかここどこ?
まるで覚えがない。囚人番号という字面から推測するに、刑務所?
いやいや、刑務所って。俺は一体何をやらかしたんだ?思わず左上の暗闇を睨み、記憶を辿る。
確か──って前後がまるで思い出せない。
いやそもそも──
「──俺は……誰だ?」
思わず独り言が零れた。