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「誰だ……?」
脳内に声が響くと同時にそれは現れた。青みがかった視界に半透明の虚像が映り込んでいる。
<Tlコンシェルジュのコンだよー>
空中に浮かびながら、小さな金色の狐がやたら親しげに語りかけて来た。何故か執事服を着て尻尾をユラユラと揺らしながら。
コンシェルジュのコン?なんだそれは?いわゆる幽霊って奴なのか?
<ボクはThird I−Modeにおけるマスコットキャラクターです、キラっ!コンシェルジュは人間に憑き従い、様々な霊脳皮質の機能を代行する《人交知能》いわゆるエージェント・インテリジェンスの一種だよー。憑き添いや使い魔ともいうね>
俺の内心の疑問にコンとやらはスラスラと答える。うん、なんか便利そうだけど軽くうっとおしいな、こいつ。
「まあいい。早速質問だ。まず第一に俺は一体誰なんだ?」
<個人記憶領域へのアクセス開始──成功。読み込み中……読み込み中……>
<──失敗。記憶の破損により、一部しかアクセス出来ないよー>
<とりあえず読み取ったデータを元にステータスを表示するね?>
コンとやらが俺の眼前にホロウ・ウィンドウを出現させる。
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称呼番号 1169
姓名 黒川カイト
生年月日 2012年3月5日
年齢 17歳
性別 男
獲得値 1000P
職種
技能
交換比率 1円
装備
呪身具 秘蹟札<運命の輪>
序列 127/127位
残存人数 150/127人
最終更新:正暦2029年4月30日10時13分33秒
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「ふむふむ」
ざっと視線を動かしてみた。
黒川カイトって言うのか、俺は。うーん。まるで実感が湧かない。
それにしてもわからない単語ばかりだ。
とりあえず上から順に確認してみるか。
「この獲得値ってのは?」
<1000Pは初期特典として、配給される獲得値のことだよー。獲得値は獲得達成条件を達成した時、運営から支給されるもので、武器に防具、呪身具などの装備品は勿論、食料、水、薬などの潜索支援物資と交換出来るんだよー。後、ポイント全損すると死んじゃうよ?>
コンは尻尾を揺らしながら、答える。
「成る程。お金みたいなもんか。ってか最後にさらっと怖いこというな!」
「次にこの職種ってのは」
<職種は迷宮潜索における徒党内の役割分担を表す言葉だよー>
そう言うと、コンは、ステータスはそのままに、新たにホロウ・ウィンドウを出現させる。
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近接物理┳攻撃型➡︎剣役職♤
┗防御型➡︎盾役職◇
遠隔魔導┳攻撃型➡︎杖役職♧
┗支援型➡︎杯役職♡
遠近物魔両用━遊撃型➡︎兼役職JOKER
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<こんな風に基本的な職種は、トランプの四つ組即ち♤◇♧♡とジョーカー(J)即ち兼役職で構成されているよー>
「具体的にどんな職種があるんだ?」
<その前にマスターの職種適正診断をやっちゃう?>
「職種適正診断ってなんだ?」
<職種適正診断はね、遺伝子学、心理学、統計学等をベースに、マスターの性格を協調性、誠実性、外向性、情動性、創造性という五つの要素で分析後、分類された性格に最も適した職種を診断することだよー>
「成る程。やってくれ」
<──解析中……解析中……完了>
すかさず結果がホロウ・ウィンドウに反映される。
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姓名:黒川カイト
職種適正率
♤剣役職/適正率51%
◇盾役職/適正率48%
♧杖役職/適正率46%
♡杯役職/適正率45%
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J兼役職/適正率90%
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<これがマスターの職種適正率だよー。一応、剣役職が一番高いけど、兼役職いわゆるジョーカーの適正が高いみたいだねー>
「剣役職は近接物理攻撃型か。この兼役職ってなんだ?」
<専門とする主職種の習得する度合いいわゆる習得度が上がると、細分化された副職種が、解放され、選べるようになるんだよー。要するに複数の職種を掛け持ち出来るんだよー。戦闘配置は前衛と後衛を兼ねた中衛が多いかな。戦略の幅が広がるけど、一つの職種を極めるのと比べて、習得度上げや転職に二倍時間がかかるのがデメリットかな?職種同士の相性や相乗効果を考えて選択しないと、器用貧乏で、使い物にならなくなるよー>
<後くれぐれも職種の選択は慎重にねー。職種に適正がある技能は習得度が上がりやすい等、技能補正が掛かるし、職種は装備にも関わる重要な因子だからねー>
「そうなのか?」
<例えば剣士の職種が、剣の武功技能♤を使用すると、職種補正が掛り、習得度や威力、スピードなどが上がりやすくなるんだよー。同じ剣の武功技能でも魔法使い系が使うとのでは、その差は歴然となる訳さー>
「つまり職種適正のある技能を選択しなければならなくなる訳だ」
<職種について大体わかったかな?では早速、主職種を選んでね!>
コンがそう言うとホロウ・ウィンドウが消え、新しいホロウ・ウィンドウが出現する。
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主職種を選択してください
♤剣役職
◇盾役職
♧杖役職
♡杯役職
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「なになに?」
確か兼役職の次に適正率が高かったのは剣役職だったか……うん決めた!剣役職に視線を合わせ瞬き一回を行う。
♤剣役職
軽装戦士┳剣士┳剣士
┃ ┣刺剣士
┃ ┗双剣士
┣刀士┳刀士
┃ ┗長刀士
┣盗賊
┣闘士
┣槍士
┗斧士
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「結構あるな。どれが自分にいいかわからん」
悩む俺にコンが告げる。
<これが剣役職の基礎六職種だよー。まあ、基本的には同じ近接物理攻撃型だよ。皆、戦士それも軽装で戦ういわゆる軽装戦士系だね。違うのは扱う武器って感じかな。分からないなら、視線を合わせると、説明文が出てくるよ―>
「分かった」
一つ一つ視線を合わせ確認して行く。
♠剣士
剣を主武器とし、剣技の技能を扱う軽装戦士。片手剣に盾を構える戦闘スタイルである。
徒党内の戦闘配置は強襲前衛を務め、エースアタッカーとして活躍する。♡即ち杯の支援技能を組み合わせることで、氣剣士や前線に出て敵を煽り鼓舞する暴剣士、また杖の魔攻技能を組み合わせることで、魔剣士へと転職可能。
♠刺剣士
細剣などの片手剣を使用する。軽装による防御力や一撃一撃の威力は劣るが、フェイントを織り交ぜた手数と精密な刺突により、蝶のように舞い、蜂のように刺す一撃離脱戦法を得意とする。敵を引き付けるその特性から回避盾役もこなす。杯の支援技能を組み合わせることで、剣舞士、杖の魔攻技能と組み合わせることで、剣銃士へと転職する。
♠双剣士
いわゆる二刀流の剣士。多くは片手剣と短剣という風に長さが違う剣を持つ。攻撃の間合いが違うので、様々なバリエーションの攻撃や防御を可能とする。圧倒的な手数による連続技の攻撃力は例を見ない。杯の支援技能を習得することで、剣を振り回す者という意味の乱剣士へと転職する。
♠刀士
刀を主武器とするいわゆる侍。基本性能に剣士に準ずるが、剣士より攻撃に特化する傾向がある。杯の支援技能を組み合わせることで、氣刀士、杖の魔攻技能を組み合わせることで、居合と魔法を同時に放つ閃刀士へと転職可能。
♠長刀士
長刀いわゆる薙刀や野太刀を扱う職種。特に薙刀はリーチが長いため、斬る、突く、打つを自在に行う。反面、懐に飛び込まれると弱い。
♠盗賊
最前衛として索敵を担当し、気配を消し、高速移動で距離を詰め、強襲・攪乱・奇襲を得意とする職種。短刀や素手を武器とする。杯の支援技能を組み合わせることで、暗殺士、暗殺士は杖の魔攻技能を習得することで<忍者>へ転職可能。
♠闘士
格闘技に優れる職種。防御力を代償に得た俊敏さを生かし、一撃離脱戦法で敵を引き付ける回避盾役型と接近戦を得意とする。杯の支援技能を組み合わせることで、氣闘士や武僧へと転職可能。
♠槍士
槍は間合いが長く、敵の機先を制して攻撃でき、比較的安価な値段でお手軽に購入できる。補助・防御用に盾、攻撃用に槍を装備するのが一般的である。杯の支援技能を習得することで、氣槍士や杖の魔攻技能を習得することで、魔槍士へ転職可能。
♠斧士
長い柄に三日月状の片刃や両刃の斧頭をもつ戦闘用の斧<戦斧>を主武器とする戦士。お手軽な手斧と違い、戦斧を使いこなすには、ある程度の筋力が要求される。斧頭の重心を利用した遠心力による一撃の攻撃力は剣士を超える。
「ふむ。どれにしようかな」
俺は考え込む。剣役職は前線で戦う近接物理攻撃型かあ……ん?ある職種に目が止まった。
「……コン。この<忍者>ってのはなんだ?」
<んー?<忍者>ね。盗賊は、暗殺士へ転職出来るんだけど、暗殺士が杖の魔攻技能を習得することで、転職出来る職種だよー。自らを杯の支援技能で強化し、高速攻撃で敵を圧倒する暗殺士に対して、いわゆる弱化技能や杖の魔攻技能による遠隔攻撃魔法技能を加えたオールラウンダーな職種だよー。兼役職の典型だねー。でもまぁ、さっきも言った通り、技能の習得度が上がりにくいし、器用貧乏な職種だよー。でもまぁいいんじゃない?兼役職の適正値高いし>
「──成る程。じゃあまずは盗賊からだな。俺は盗賊にする」
<盗賊かー>
コンはそういったきり押し黙る。
「なにか問題でもあるのか?」
<問題ないよー。ただ、最前線での索敵など遊撃を主任務とする盗賊は危険な職種だからね。敵を引き付ける囮役をやらされると、目もあてられないよー?>
「まあな」
コンの言うことも一理ある。だが、俺にはこの札がある。
俺はそっとポケットの秘蹟の札を握り締めた。
この札は獲得値序列の最下位から死刑される足切りからの免罪符だ。つまり危険を犯して獲得値を無理に集める必要はないのだ。隠れてやり過ごす、それが最善手。ならば気配を消し、逃走の為の高速移動に長けた職種つまり盗賊が最適解だ。
「大丈夫さ。ちゃんと考えてる。どうやって選択するんだ?」
<主職業の盗賊にタップするだけだよー>
「了解」
言われた通りにタップすると、ホロウ・ウィンドウが表示され、俺の主職業は盗賊に設定される。
「よし!」
俺は拳を握りしめる。これで俺も今から盗賊だ。




