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「は?」
何のことだ?俺は疑問を浮かべる。
気負った所が全くない自然な質問に聞こえた。ごく日常の会話みたいに。ただ質問の中身が異質なだけだ。
ってハングマン?吊るされた男ってなんだ? いや……ちょっと待てよ!もしかして……あの物入れ内袋の金属製の札。 運命の輪ってそうなんだっけ、確かそう……タロットだ!
そうそうタロットに吊られた男ってあったような……そういや七枚の秘蹟と呼ばれるタロット札を集めた者には死刑の足切りから逃れられるとかなんとかあったような……
成る程。この少女は秘蹟の札を欲しがってる訳だ。当然だ。生き残る条件がそれなのだから。って待てよ。それを持ってるってことは俺は相当運が良い?助かるかも?
しかしなぜ吊るされた男限定なのか?いや、それはいい。それよりも俺が秘蹟の札を持っていることを知られてはまずい。
「……いや、聞いたことがありませんね」
一瞬沈黙した後、俺が素知らぬ顔で告げると少女の双眸が三日月のように裂けた。艶然として凄絶で蠱惑的な笑みに、俺は背筋がゾクゾクと震えた。得も言われぬ恐怖に腰が砕けそうになる。
「嘘ですね」
少女は冷然と断言した。
「えっ!?なんで?」
何故だ!?一体何がバレた?いや……落ち着け!まだだ!まだ挽回できる。
「だって私はEX技能:【嘘看破】を使ってますから」
EX技能ってなんだ!?その他の技能?そんなのがあるのか!?
「いや……本当に心当たりがなくて」
少女はじっと俺の顔を覗き込む。見透かすようなそんな視線だ。
「ふむ。嘘はついてないようですが……」
助かった?しかし……少女の目は未だ疑わしげに揺れている。
「実は俺、記憶喪失なんです!」
「……は?記憶喪失?」
少女は訝しげに眉を顰めた。無理もない。俺だってこんなの信じられるか!でも事実だ。俺は続ける。
「はい……気付いたら通路で倒れていて……それで──」
俺は自分の置かれた状況の説明を必死にする。少女も最初は半信半疑だったが、
「なるほど記憶喪失ですか。道理で……」
「ど、どうしました?」
「いえ何でもありません」
少女は気を取り直すようにかぶりを振った。一呼吸おいて何かに気付いたように、少女は俺を凝視する。
「……貴方もしかして──」
少女が口を開きかけた瞬間だった。
「いたぞ!こっちだ!あのガキだ!」
暗闇の向こうから、怒鳴り声が聞こえた。
「ちっ!呪刑囚共め」
少女は忌々しそうに舌を打つ。俺を見やり、言った。
「質問は後回しにします……貴方も逃げた方がいいですよ」
「え?」
「早く!」
少女は俺の腕を摑み、強引に引っ張る。そして走り出した。俺は訳も分からず少女に引っ張られるまま走る。後ろからは複数の足音と怒号が聞こえる。
「おい!こっちだ!」
「撃て!」
「開札!剣の三番:【初矢貫鉄】!」
怒号に紛れて、耳元をヒュンと何かが掠めた。俺の背を冷や汗が伝わり落ちる。
クソッ何か撃ってきやがった!
少女は走りながら、
「開札!盾の四番:【矢守乃手】」
と叫ぶと即座に振り返った。俺も引きづられるように、停止し振り返る。途端に暗闇から矢が飛び出して来る!
危ない!と思わず目を凝らすと、矢は見えない壁に弾かれた。石畳に落ちると、少女は再び走り出す。釣られて俺も走り出した。
細かいことを考えている暇はない。足音と怒号がドンドン近くなる。少女も背後の追っ手も走るスピードは落ちない。むしろ駆ける速度が加速している気さえする。
どうする?このままじゃ追い付かれるのは時間の問題だ……いや、実際もう結構近い気がする!
「こっちだ!あっちに逃げたぞ!」
「そっちか!」
くそっ!どうする?どうすれば良い?一か八かやってみるしかない。俺は少女の手を振り解くと、方向転換した。
「!」
少女が俺の行動に驚く。構わず俺は走った。追っ手の前に躍り出る。
「いたぞ!」
「あいつだ!」
追手の怒声が飛ぶ。足を止めずに逃げ道を探ると、前方には壁が聳えていた。行き止まり!?いや……違う。
「扉!?」
鉄製の扉はドアノブがついている。追っ手はすぐそこまで来てる。
ええい!ままよ!俺は勢いよく扉の中に飛び込んだ。次の瞬間、 音を軋ませながら、後ろで扉が閉まる音がした。




