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♪  Nostalgia  2  ♪

 此処は、丘の上にある史蹟で、古墳の形をそのまま利用した、長方形っぽい広場になっている。

 全体になだらかだけど、墳丘に合わせて凹凸がある。広さは野球のスタジアムくらいあるんだろうか。

 百メートル×二百メートルくらいの、前方後円墳の盛り上がりが、ほぼ正面にあって、まず目に入る。丘に登ったら小山がある感じで、なかなかの壮観。

 後円部分のてっぺんは、ちょっとした円形広場になっていて、石段を五十メートルくらいを歩くと、登ることができる。何となく、登ってみよう。

 此処はいつ来てもたいてい誰もいない。

 土日はちらほら人が来ている。

 道路の向こうにある、あのショッピングモールは、いつも賑わっている。此処は古い町の一角なので、地元の人か、此処を目的に来る人しか来ない。

 私も、中学生の時は、超常の力を持った美少年と運命的な出会いをし、映画のような非日常へ導かれることを期待して、此処へ寄り道した経験が二度三度と無いわけではない。中学生なら男女問わず通る幻想のヴェール。ヴェールの先は、生活と、ショッピングモールだった。

 視界を下降する石段。自動で進む足どり。思考は垂れ流し。おー。今気づいた。私って、下ばっかり見て歩いてるんだなー。そういえば、だいぶ前から、背中を伸ばすのがキツいもんねー。

 そうそう。此処を最初に登ったのって、小学生の時だからね。

 上を向いて、足も息も軽くて、「頂上に何があるんだろう?」ってね。頂上には広場があるよー。と、考えているうち、私の腰のあたりに広場があり、頂上に来たみたい。円形の広場には、先客が居た。めずらしいけど、嫌な感じだ。

 広場からは、下界の全周が見晴らせるのだけど、私のお気に入りの景色が見える立ち位置は、先客が立っていた。

 まあ、別にいい、お気に入りと言っても、私は芸術家じゃない、景色にこだわりはない。何となく気に食わないだけ。誰も居ない頂上で、自分がいつも見る景色を見て降りるという、思いが叶わなくてムッときただけ。

 先客は二人組の女。……なんだー美少年じゃないのかー。私が中学の時に期待した、非日常の世界への案内人じゃないのね。

 ただもし、実際に美少年が居たら、私は全身硬直し、カタコトの鳴き声みたいな声しか出せなくなるだろう。むしろ安堵した。いや、やっぱり、なんで居ないのかな。生活の世界には落胆だよ。居ても居なくても、不満足だよ。

 ……というか、この二人、おかしすぎるぞ?

 私は対角線上で、反対の景色を見るふりして、二人組の後ろ姿をチラ見する。

 まず一人目の衣装はメイド服という物である。実際に見たのは初ですよ。

 そして、メイド服といえばスカートが膨らんで長いイメージがあったけれど、この人はミニスカートのタイプで、ガーターベルトと、黒のストッキングを着用。上は半袖で、しっかりフリルが付いた物ながら、腕は露出している。いま三月だけれど、寒くないのかな? ショートの髪は銀白色をしている。染めた色ではなかった。今日の薄曇りに、溶け込んでいるようで、透けるような感じ。

 輪をかけておかしいのは、もう一人の方だ。女なのに、黒一色の恰好。黒いズボンに、黒いコート、黒いソフト帽を被っていた。ダークブルーのサングラスをしていた。

 背中がスラリと伸び、後ろ姿からでも、整った骨格が分かった。コートの襟と、帽子のあいだ、うなじには白金の髪の毛があった。

 まあ、風変りな人も此処には来るだろう。私も心根的にはまっとうな高校生ではない。

 ところで、私がいつも見ている景色を占領しているのは気に食わないな。どける様子もない……。

 なら、私は意地でも、いつもの景色を見て、降りてやるぞ。

 私は、なにげないふりで円周を歩いて行って、二人組の後ろに回り込んだ。

 この位置からの町と山の様子を見て……よし。目的を果たした。そのまま、なにげなく歩き続け、広場をゆっくり一周した。石段を降りる時に、

「ねえ」

 黒一色の服の女が後ろに居た。私は普通に振り向いたよ。内心ドキッとしたよ! いつのまに居るの? あと、会った事ない人から「ねえ」って言われたら、びびるから! やめてほんと。黒衣装の女は、コートのポケットに手を突っ込んで、私を見る。背がだいぶ高いな! 180近くあるぞ。私、絡まれてんの? やだー。めんどくさいー。

「あれ……」

 思わず私は問い返した。

 ちゃんと発声できた。

 それは、驚きのあまり、緊張すらしなかったから。

「『イハルカ』?」

「セーカイ。三界麻美」

 ダークブルーのレンズの奥で、私が知っている目がウィンクした。女は口元に人差し指を持っていく。

 今日の事は秘密だよ、と。

 え、ほんとなの? 

 だとしたら……。いや、だとしても……か。

 なんて綺麗な目をしているんだろうか。

 カタチだけじゃない、しずかなその目と、目が合うと、私は身が凍るような、温かく包まれるような、あきらかな怖気を覚えた。それは、恐さでもなく、恋でもなかった。

 物体世界の輪郭がほどけて、ふだん感じないデータが皮膚から入って来るような、穏やかな抱擁感でした。

 それは魔術的な束縛と言えるような未知の快感で、私は起きながら夢の真ん中に入ったみたいな感じがした。 

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