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第三話 大☆宴☆会











おもてを上げよ。」


 お麦を始め、各区域の司令官が揃って椅子から距離をとり、(ひざまず)いている。左から、真限(しんげん)、ネイル、平八へいはち、ビス丸。

 ヴェルメロにいる職業レベル100のNPCの内、5人が集まっている。

 どれもヴェルメロにおいて必要不可欠な戦士であり、その強さは相当なものだ。大海の覇者という職業を得た者でも、油断すれば即効敗北しかねない程に。


「ウツ様、今回我々を集めたのは、あの異変のことについてでしょうか。」


 銀髪の男が窓の外に目を向けつつ、口を開く。

 ビス丸、プロイセンの宰相:オットー·フォン·ビスマルクをモチーフにした管制塔の司令官だ。

 種族は空を飛ぶことに特化した鳥類種の中でも特に希少なエンシェント·イーグル。

 管制塔は周囲の地形把握や索敵、ヴェルメロから出撃している各部隊の連絡網の中心としての役割を果たしているため、空間認識能力に優れたエンシェント・イーグルとは相性が良い。

 さらに、ビス丸はウツが最も作成するのに最も時間を費やしたNPCだろう。


 基本、ウツの作ったNPCには、参考にした人物がいる。

 真限は戦国の雄:武田信玄、ネイルはイギリス海軍の栄光の一つを作った提督:ホレーショ·ネルソン、平八は日露戦争で活躍した旧日本海軍の元帥:東郷平八郎。

 それらの人物の経歴や性格を、教養として、いや趣味の一貫として徹底的に調べ上げ、NPCを作成する時の情報に組み込み、また、それらを元に初期ステータスや種族、職業を設定している。 

 つまり、もし目の前にいる者が、生きている人間になったとするのならば、それは世界が歩んできた歴史の中で、その歴史、つまり世界を造ってきた人物達が、ウツという製作者の下に集まっているということだ。

 これがどうゆうことを意味するか。

 想像はしたくない。


「ビス公、それは愚問であろう。

それより、我らはまだ発言を許されてない。」


 続いて口を開くのは、ビス丸の真向かいに座る、ネイルだ。

 中世ヨーロッパの軍人を思わせる装いに対して、優しい顔立ちではあるが、それにまた反した隻腕、隻眼は歴戦の強者を感じさせる。

 種族はイモータル・ユニコーン。ユニコーンは特殊なエリアでしか出現しないモンスターであったが、その地からあるアイテムを入手することにより、召喚が可能になる。

 ネイソンは元々人型NPCとして製作されていたが、そのアイテムと合成することにより、人型のユニコーンに進化し、最終的には最上位のイモータルにまで上り詰めた。


 それにしても、発言を許すだの、許さないだの、どこぞの暴君だと思われているのだろう。

 もっとフレンドリーな感じを期待していたのに。

 

「いや、発言を許す。

私もあの異変についてお前達と一度話合っておこうと思ってな。」


 バシッ!!


 軽い風圧が顔を掠める。


「それじゃあ、私パフェ食べた~い!!」


 お麦が立ち上がり、そう言った。

 ウツはこんな場面を見たことがない。

 無邪気な少女の一言で、場が凍りついた。

 元々、静まり返っていたが、それとは違う。

 明らかに空気が変わった。

 これはウツが声を発さなければならない。だが、勇気がでない。


「お麦、ウツ様がいらっしゃったのだ。お飲み物を取りに行くと一緒に、パフェも頼んでしまえ。」


 ウツが躊躇していると、一番右奥に座る人物が口を出した。

 近世の軍人を思わせる軍服を着た平八だ。

 平八はさりげなく、お麦が自然にこの室内を出られる方法を提供した。

 平八が折角フォローしてくれたのだ、全力で乗らなければ。


「ああ、それがいい。

お麦、ここにいる全員分の飲み物を頼む。

私はそうだな、ウォッカを頼む。」


「私はお茶を、「儂は日本酒を、「紅茶で、「ビールを頼む。」」」」


 各員、個性のでる飲み物を注文した。

 ちなみにウツはウォッカを注文したが、人生で一度も口にしたことはない。

 なんとなくかっこいいから頼んだ。

 

 お麦が勢いよく出ていく。余程パフェが嬉しいのだろう。

 かわいい。

 お麦が退室したことで、唯一の癒しが消えた。

 だが、各員の性格がこの一幕で把握できた。何かあれば、平八を頼れば良さそうだ。

 神泉はまだ分からないが、話を進めやすい状況にはなった。


「麦が退室したことだ、進行は儂が務めよう。

それでよろしいでしょうか、ウツ様。」


 これまで口を閉じていた真限が発言する。

 これまで会話に入ってこなかったのは、状況把握をしていたからだろうか。


「ああ、取り敢えず各区域の状況を報告してくれ。」 


 これは骨が折れそうだ。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






「先の悪天候が明けたと同時に、どこか見知らぬ海域に飛ばされていただと?」


 あり得ないといえば嘘になる。

 大海の覇者を有するレベル100のプレイヤーが雷によって倒れ、起きたらNPCが自らの意思をもったのだ。

 もはや何があっても不思議ではない。

 

「はい、ネイルや平八の沿岸部で待機していた者達は特に異変を感じることはなかったとのことですが、管制塔に居た私、その他管制塔の者達は海流の流れからまず異変を感じ、周辺の土地の情報を空戦部隊を使って調査したところ、どこか不明の海域に飛ばされてきたと判断しました。ですがこの話、あまりに荒唐無稽でウツ様に申し上げるべきか悩んだのです。しかしまさか、ウツ様の方からお声をかけてくださるとは。」


 あれから、それぞれの話を聞いた。

 ネイルや平八などの沿岸に配置してある者はビス丸に言われるまで気づいていなかったようだが、軍事拠点や管制塔にいたビス丸や真限はそれぞれの役割を通じて状況を把握したらしい。

 そしてその者達の話によれはWO1とは違う世界の可能性が高いということが発覚した。


 もし、WO1の世界に転移したのならば、WO1にある海域は全て

管制塔が記憶している。

 だが、その管制塔でも知らない海。

 WO1の世界ならこんなことはありえない。


「ああ、少し身近に異変が起きたからな。

お前達の状況も確認しておきたかった。

あと、今後の戦略もな。」


 ウツは適当な言い訳でその場を退ける。


「おお、さすがはウツ様。

今後の戦略ですか?それでしたら副官を呼んでみては?」


 平八が首を傾げる。


 あっ。


 ウツは肝心なことを忘れていた。

 このヴェルメロの副官、つまりNo.2を偵察として向かわせていたのだ。

 ここが見知らぬ土地だとするならば、これ程危険なものはないだろう。


「フィルズは偵察に向かわせている。近くに見える島から明らかに人の手による黒煙が上がっていたのでな。」


 ウツはありのままを話す。

 もし、ここで嘘を付いてしまえば、後からのフィルズと司令官達の擦り合わせが上手くいかなくなるだろう。

 嘘はバレたら大変だ。


「そう、ですか。確かに戦力的にも、性格的にも、地位的にも、適任かもしれません」


 平八が話す。

 だが、周りの反応を見てみると、やはり微妙なものだ。

 それはそうだろう。

 信頼できるのがフィルズしかいないという理由で任命したとなんていえない。

 

「いや、もし相手が国だったのなら、この栄光の地、ヴェルメロの高官が訪れることは大きな意義になる。」


 真限が口を開く。


「そうだな。関係を持つという意味では恩を売っておくのも、面白い。」


 ビス丸が微笑む。

 そして、真限とビス丸が目を合わせ、笑っている。

 酒が回っているのだろうか。

 いや、違うだろう。


 この二人はおそらくこのヴェルメロでも最高の知恵者だろう。

 鉄血宰相に甲斐の虎。

 この者達のモデルである人物の歴史をみればわかる。

 精神安定付与を発動しているはずのウツでも大きな恐怖を覚える程に。


「では、フィルズ殿の帰りを待つ必要が...「それには及ばない。」


 直後、個室の扉が開き、何者かが入室する。

 平八がウツの前に出る。

 瞬時に帯刀していた得物に手をかけ、今にも抜刀しそうな勢いで目の前の影と向き合った。

 他の面々も先程とはうって変わって、一瞬にして歴戦の強者といわれる態度に変わる。


「私だ、フィルズだ。」


 謎の影から出てきたのはフィルズだ。


 これは、移動門ゲートか?


 フィルズが入ってきた扉が開くと、その口は暗闇が張られていた。

 この暗闇は、移動門だろう。

 WO1の移動門は、あらかじめ設定していた場所と使用者がいる場所を繋ぎ、瞬時に移動することを可能にするマジックアイテムだ。

 一見便利そうに見えるが、非戦闘中しか使用できない上に、移動門が開いてから、閉じるまでの時間は約10秒。

 また閉じてからいちいち設定しないといけないので、一気に大軍を導入することは不可能だ。


 暗闇から姿を見せたフィルズに目立った変わり様はない。

 むしろ、何もなかったかのように振る舞っている。


「フィルズ、無事だったか。

早速で悪いが、偵察の結果を報告しろ。

この場で頼む。」


 ちょうど良いタイミングで帰ってきた。

 情報が足りない現状においてこれほど有難いことはない。

 そして何より、話のネタがない。

 

「畏まりました。」


 そういって、フィルズは何かを袋から取り出す。

 

「それは、録画用の(ミーティア)。」

 

 WO1の鏡は主に録画や撮影、偵察などといったことに多く使われる。

 どうやらこの世界でもマジックアイテムも問題なく使えるらしい。


「これをご覧ください。」


 鏡にはまず、現実世界で見られないような村が映し出された。

 その建物、住居だろうか、そこから火が上がっている。

 それも、一軒や二軒いった話ではない。

 見る限り、全ての木製の建物に火がかけられている。

 木製の建物は多いことから、始めは一軒から始まった大火事かと思ったが、それはない。

 なぜなら、そこ住民はいないのだ。

 皆、道端で死んでいる。

 余程平和な村だったのだろう。村の周囲には柵もなく、壁すらない。そして、住民が戦ったあともない。

 これは虐殺だ。

 背中や腹部に斬られた後がある。ここの住民は全員殺されたのだ。

 

「どうなっている、この場所は。」


 ウツは怒りを露にする。

 戦争事態はしょうがのないことだと承知している。

 だが、これは戦争ではない。殺し合いですらない。

 この場所に大義はない。

 

「そういえばつい先程、空戦部隊からの報告で武装した人間が数百名、近くの島を徘徊しているという情報が入ってきておりました。こちらに気付いた様子はなかったので放置しておりましたが、おそらくは、その者達の仕業かと。」


 賊か何なのか早急に調べなければならない。

 でなければ、ウツ達、ヴェルメロの者達にも危害が及んでしまう。このような所業、ろくな連中でないことは確かだ。


「そこでウツ様にお目通りさせたい者が。」


「誰だ?」


「襲われたであろう村の生き残りです。」

 

 そういって、再び移動門ゲートが開いた。

 





 



 


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