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68 御札配り

いつもありがとうございます。ブクマしてくださってるかた、読みにお寄りくださってる方に感謝をこめて。

今回もよろしくお願いします

あっという間に12月の最初の土日がやってきた。

東司さんがいきなり現れた11月中旬より、後。

あまりにも、由岐人さんが警戒するから、私も出勤日は緊張していたけれど。

東司さん自身がこちらに来ているついでに、色々と用事を片付けたいとの話から、東司さんは留守の事が多く、神社で会うことはほぼなかった。

1~2度、配達に行った際に、見かけた折、遠くから、お互い会釈をしたくらいだ。結子が喜びそうな、イケメンな笑顔満面での会釈を受けた。


もう七五三のピークは過ぎた。

神社の中はすっかり正月に向けての準備一色だ。

書記のはずの土屋さんが、楽しそうに木材をトンカンしながら、新年用のお守りの頒布台を作ったり、早くも入っている予約の御札の墨書をしたり、平日も出勤して、作業をされていて、待合室の一部が工房と化しているようだった。


「土屋さん・・・今日土日だから、ここの作業台、片付けてもらっていいですか?多分、それなりに御祈祷とかきたりするかな、と思うので」


宮司さんが遠慮しながら、土屋さんにお願いする。

土屋さんはすぐに快諾して、動いたのだけど、気づけば、職員の休憩室がもれなく臨時工房となってしまっていた。う~ん、ちょっと落ち着かないぞ。


「今日は私、ここで作業してるから、御祈祷きたら、呼んでね、御札は書くよう~」


小さな体でテトテト忙しそうに動きながら、土屋さんは休憩室、もとい、臨時工房に引きこもってしまった。

今週の土日は珍しく、出張祭典がない。

そして、土曜日の今日をメインに、氏子区域の御札配りを行う、という予定だ。

そう、こないだ、嘉代さん達と一緒に分けた、お正月の神札を配りにあちこち歩くのだ。


先日分けた伊勢の神札に、ここの氏神である幸波尊の神札を加えて組み合わせ、配るのだそう。・・・とこれは一つの例。

この土地では、歳神といって、新年の神様の神札も一緒にお祀りする家もあって、三枚セットでお渡しする場合もある。

加えて、古い家では、竈神と言って、台所に貼る守り札もあるみたい。

う~ん・・・色んなやり方があるんだなあ。

実家は神棚はあったけど、恥ずかしい話、御札がそこに入ってることすら知らなかった。父親は手を合わせてたけど。


そして今日は緋袴ではなく、白い袴をはかせてもらった。

由岐人さんとお揃いだ。こんなところが嬉しいのって単純かな。

とはいえ、腰の紐の縛り方が少し違う。

女性の白袴は、一つだけ輪のある結び方で、少し柔らかな雰囲気が出る。

嘉代さんなんかだと、その結び方が嫌で、自分の浅黄の袴を輪のない形の男用の結び方をしているんだけどね。


今日、緋袴でないのは、外回りで、目立つから、の理由が一番。

加えて、宮司さんが言うには、私が杜之の学生だから、今日のような日は、見習いという立場で動いてもいいだろう、という話なのだ。

宮園さんと瀧さんは、同じ出勤日だけど、留守番当番だ。

紘香さんとお正月に出すお守りの準備をしながら、参拝者の対応をすることになっている。

七五三の時に急速に宮園さんと瀧さんとは仲良くなれたから、一緒に周れたらいいのにな、と思っていたのに、これは残念だった。


配布に出るのは、宮司さんと祢宜さん、住谷さんと嘉代さん、東司さん、そして由岐人さんと私だ。

由岐人さんと一緒に行けるかなあ、とふにゃふにゃ考えていたけど、それはなかった。当たり前だよね。公私混同だわ。

人海戦術で一斉に回るのが一番、らしく。一人で回れる人は一人で行け、という話になるみたい。

宮司さん、住谷さん、由岐人さんは一人で。私は祢宜さんと、嘉代さんは従兄でもある東司さんとペアになって、回ることになった。

私も東司さんもこの土地でそういうことするのは初めてだし、妥当な組み合わせなんだと思う。

社務所で地図を広げ、周る場所がかち合わないように、打ち合わせをすると、担当場所の地図を持って、出発、となった。


「残念、こういう時に二人きりで親睦を深めたかったんだけど。葵ちゃん、またね」


東司さんが、そんな事をいいながら、私に手を振って社務所を出て行く。

その背中を嫌そうに睨みつける由岐人さんの顔が怖い。

そして、困ったような顔で、共に出て行く嘉代さんも気になる。


「じゃ、私達も行きましょうか、ね、葵ちゃん」


祢宜さんに言われて、私ははっとして、振り向いた。

今日の祢宜さんは白衣に浅黄の袴。嘉代さんと同じ姿だ。

その白衣の上に紫の千鳥柄の羽織を羽織っているんだけど、これがとても素敵。裏方で、洋装であることが多い祢宜さんだけど、やはりこういう姿を見ると、神社の人だなあ、って感じがする。


「葵、祢宜さんのいう事ちゃんと聞いて、迷子になるなよ」


由岐人さんが心配そうに私に声をかける。

えっと・・・子供じゃないんだから、そんな。

私は目を大きく瞬きさせて、その言葉を聞いた。

途端に祢宜さんが大仰に吹き出した。


「過保護ねえ、桐原君。そんなんじゃ、呆れられて、振られるわよ」

「なっ!そんなんじゃ・・・」

「ふふふ、行きましょ、葵ちゃん」

「はい・・・・ゆ・・・桐原さんも気を付けて」

「ん・・・」


御札を渡していただくお金の袋や、地図を布製の鞄に入れ、肩にかける。御札のセットが種類ごとに入っている白い紙袋を片手で持つ。

これで準備万端だ。

白い鼻緒の草履をはくと、私と祢宜さんは神社を出て、歩き出した。





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