67 越後からの助勢
いつもこちらにお寄りいただきありがとうございます。
またもやブクマが増えました。ああ、すごく不思議でありがたい現象です。
みなさまに感謝をこめて。
よろしくお願いします。
「ああ、今日は顔を見に来ただけなんだ。そうか、君が葵さんか」
見慣れぬ美形に頭からつま先まで見つめられて、どうにも居心地が悪い。
視線のやり場に困り、私が友人たちの方を見れば、結子はキラキラした目でその東司さんを見てるし、桜子は興味深そうに私たちの会話を見守っているような体制でいた。
「突然で驚いたね、まあ、また会うことになるとは思うけど。ちょっとここの雅楽部の先生に用があって寄らせてもらったんだ。また神社で会いましょう、葵さん」
「は、はあ」
え?どうゆうこと?神社で会うって、幸波神社の事?私が対応に困っている中、結子が脇から手を上げた。
「はいはい!雅楽部です!顧問の植草先生ですね、ご案内します!」
とても嬉しそうに、ささっと東司さんの横に寄り添う。
「うん、植草先生。じゃあ、案内頼めるかな」
じゃあまたね、と東司さんは手をひらひらと振って、そのまま結子とその場を後にした。
「初めて会う人?」
桜子がその背中を見つめながら私に聞いてくる。
私はこくん、と頷いた。
「・・・ふうん・・・なんかあれですね、ハンターみたいな雰囲気の人ですね」
??ハンター??王子でなく?私が桜子の言わんとすることに首をかしげていると、桜子は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「・・・大丈夫かしら。なんだか葵の事、捕獲した、見たいな目で見てらしたけど」
「え?どうゆうこと?」
「気を付けたほうがいいかもしれませんよ、あの方。ちょっと私は心配です」
寿司屋の接客業の勘がさわぐ、と桜子はきれいな眉を寄せて、東司さんの姿が見えなくなるのを見送っていた。
再び、スマホが鳴った。由岐人さんだ。
「葵!そっちに東司さんが行ったのか!今、東から電話があって・・・・!」
随分と慌てた様子だった。あ、由岐人さんも知ってる人なんだ。ここの雅楽部に用事があったみたいだし、杜之つながりの人かな。
「ああ、なんか今日は顔を見に来ただけだとか言ってて。何か他に用事があったみたいで、うちのクラスメートとよそに行きましたけど?」
「そうか、あのな、葵・・・・」
なにか続けて言いたそうだった由岐人さんだったけど、その場で昼休みの終了のベルが鳴った。午後の始業前に移動しなければいけない。
「ごめんなさい、もう授業が始まるんです。」
「わかった。悪かったな、葵。じゃ、今日一緒に配達行くからな」
「はい、よろしくお願いします」
スマホを切って、桜子に教室に戻ろう、と促すと、桜子は美しい微笑を浮かべながら、私の隣を歩き始めた。
「今のが、葵の本命なのですのね」
「!」
思わずかっと顔が熱くなる。桜子はふふふ、と口元を抑えた。
「電話で話してるだけなのに、葵ったら顔がきれいになってましたよ。まあ、結子がいたら大騒ぎですね」
「・・・そ、そんなこと!」
「ふふっ・・・さ、教室に戻りましょう」
桜子はすごく満足そうに頷いていた。・・・いや、隠すつもりはないんだよ?でもなんか恥ずかしいっていうか・・・
待て待て。それよりもさっきの人だ、東司さん。
私に用事があるんだろうか?
神社で会おうって、幸波神社の事、になるよね?やっぱり。
嘉代さんがスルーしてって言ってきたのも気になるし。
由岐人さんも何か心配してるみたいだし。
何なんだろう、いったい。
昼休みの疑問を抱えたまま、授業を終え、私は帰路についた。
八百藤の店先に並べられた、神社への配達分を見て、私は軽く笑ってしまった。
いや、待って。多い。
明日は大安、の土曜日だ。分かる、わかるけど。
これ、確かに一人で運べる量じゃないよ。二台分の自転車。
往復すればできるけど。せっかく由岐人さんが言ってくれてるんだから、亜実さんのママチャリも借りて、二台でいっぺんに行けばいいや。
私が荷造りを始めようとしたときに、由岐人さんがやってきて、荷積みが済み次第、すぐに神社に向かうことになった。
準備の間、由岐人さんは東司さんのことを尋ねてくる。
変な事言われてないか、とか、失礼な事されていないか、とか。
う~ん、そういう感じのイメージがそもそもなかったんだけど、
なんか悪い人、なんだろうか。
まあ数分の出来事だったから、何をされたわけでもないから、いいも悪いも分からないんだけど。
何もなかったと言えば、由岐人さんはあからさまに安心したような顔を見せた。・・・いや、ほんとにどんな人なんだろう。
二台の自転車で、私と由岐人さんは重たいペダルと格闘しながら、なんとか神社に着いた。
私達の到着に気づいたのか、めずらしく、白衣袴の姿で、嘉代さんが社務所から出てきた。
この時間帯は作務衣でいることが多い嘉代さんには珍しい姿だ。
今日は紘香さんが休みで、彼女が社務所番だったのかもしれない。
「ごめんね、葵ちゃん。急に従兄が来ることになって。しかも学校行って葵ちゃんに会うだなんて。驚いたよね。」
「大丈夫ですよ、ほんとに少しの間だけでしたし」
私は野菜の入った段ボール箱を自転車から外し、順々に運んでいくことにした。嘉代さんも当然のように、それを手伝ってくれる。
由岐人さんは重たい南瓜の箱に手を出していた。
いつもの場所、参集殿へと運び込む、と。
「うん?葵ちゃんがきてくれたかな?」
参集殿奥の客間の方から、宮司さんの声がした。そのまま、ガラガラ、ガラガラと引き戸を開けてくる音が立て続き、宮司さんと祢宜さんがひょこっと顔を出した。
「こんばんわ、あら、・・・そっか量が多いから桐原君も一緒に来てくれたのね、ちょうどよかったわ」
祢宜さんの、そのちょうどよかった、の声を聞くや、嘉代さんが俄かにしまった、という顔をする。その様子に私は思わず、由岐人さんと顔を見合わせた。
が、その直後、由岐人さんの顔も固まった。
「?由岐人さん?」
私が由岐人さんにどうしたの、と聞こうかと思って振り返ると、そこに、昼間会った人がいた。
「よお、桐原、久しぶり」
「・・・東司さん・・・」
「そうだよね、桐原君は東司君の後輩だから、知ってるんだったわね。葵ちゃん、紹介するわね。年末年始の助勢に急遽来てもらうことになった、東司 常春さん。
嘉代ちゃんの従兄さんで。新潟の神社の神主さんなのよ」
やっぱり神主さんだったんだ。そして、由岐人さんの先輩かあ。
「ちょ、東司さん、ここの助勤するつもりなんですか?実家の方は!?」
「今回の年末年始はよそで勉強して来いってさ。」
由岐人さんの疑問に東司さんはそう応えると、そのまま私の前にすっと立った。
「葵さん、昼間ぶりですね」
「・・・は、はい」
え?ちょっと。東司さんが、私の両手を包み込むようにして持ち上げて、握りしめる。
「ほんと、お会いしたかったんですよ。どうぞよろしくお願いしますね」
「え、とあの・・・」
・・・ええ、なんか、ちょっと気まずい。この手を離してよう。
ていうか、顔も近いんだけど・・・。
「!」
と、後ろから体ごと抱え込まれるようにして、両手ごと、東司さんから引き離された。由岐人さんだ。
ちら、と背後を見ると、鋭い目で、東司さんを睨みつけている。
「俺の彼女なんで。あんまり気安くしてもらわないでくれますか?」
「彼女?お前の?・・・・へええ」
離された手をぷらぷらと、振って、東司さんはきれいに微笑する。
「なるほど。それは失礼しました。・・・・と、嘉代」
「!」
私の方から今度は嘉代さんに視線を移して、東司さんは意味深な表情を浮かべた。
「宮司さん達には話してあるが・・・お前の働きぶり、今回はじっくりと観察させてもらうよ」
「どうぞ、ご随意に」
嘉代さんの表情が固い。観察ってなんなんだろう。
由岐人さんが私の両肩を包むように両手でとんとん、と叩く。
心配するな、と安心させるような、その手の動きに私はなんだかほっとした。
「色々あるみたいだけど。神様の事は一生懸命させてもらってください。
しばらく、東司さんはうちで泊まって生活しますから」
宮司さんがニコニコしながら、そんなことを告げた。
嘉代さんの顔に「げ」という字が浮かんだような気がした。




