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63 ミーティング

1万PVに到達しました!ありがとうございます。

1か月に10回程度の更新を続けて、ちょうど約10か月。

1万PVに到達したのも嬉しいんですが、こうして続いていることに驚きです。

読んでいただきありがとうございます。

ブクマしてくださった方、御礼申し上げます

ほんとに、ほんとにありがとうございます!感謝感謝!!。


「ああ、もうっ。あの子ったら!」


嘉代さんが、頭を抱えながら、深いため息をつき、紘香さんが苦笑いをしている。

休憩室での顛末を後藤さんが話してくれたのだ。

さっき私をやめさせると息巻いていた高柳さんは、頒布台を担当しているらしく、休憩後はそこに戻ったようだ。私も休憩後、受付に戻ったのだけど、紘香さんが休憩に入る際に、後藤さんが話し出したらしく、紘香さんの判断で、私も嘉代さんも休憩室に呼び出しをされた。

後藤さんが、紘香さんには繰り返す形でさきほどの話を嘉代さんにも聞かせる。

まあ、私は現場にいたんだから、分かっているんだけど。


「東さん、家田さん・・・ちょっとあれはまずいね。確かに葵ちゃん達の先輩ではあるけど。彼女、2年位ブランクあるんじゃない?悪いけど、去年から来てくれてる巫女さん達より、動きが悪いし、なんなら、葵ちゃんや瀧君の方が色々してるしね。祢宜さんから、一言言ってもらったほうがいいんじゃないかな」

「う~ん・・・・言って分かる子かなあ。どうする?巫女ボス?」


巫女ボス?嘉代さんったら、なんてことを。紘香さんのことを言ってるんだろうけど、そんな呼び名で・・・。

あ、でも嘉代さんは巫女の経験者だけど、紘香さんが巫女長だから、ここでの采配は紘香さんがすることなのか。


「う~んそうですね。祢宜さんには一応、報告がてら言いますけど、もっと強い手段がありますよ」

「何?」

「総代長に電話します」

「え!?マジ?」

「2年前散々でしたし、また引っ掻き回されるのは御免です。あの時私は同じバイトでなかったので、権限はありませんでしたけど。今はやれる手はうちますよ」


聞けば、高柳さんはあの総代長 小島勉さんの孫娘なのだそうだ。

小島さんの娘さん、つまり、高柳さんのお母さんも巫女を経験していたらしい。

その伝手でバイトに入ったようなんだけど。

それらの事を背後に、色々と強く出るところが目に余っていたらしい。

小島さんはいい人なのにな。

そんなものなのかな。


「総代長の孫ってだけで、偉そうにされてもなあ。ま、勉さんは筋の通った方だから、話せばなんとかしてくれるかな」


後藤さんが納得したようにうなずいた。


「総代長の孫って言いますけどね、去年から来てくれてる瀧さんの親だって、氏子会の役についてますよ!・・・あの子は謙虚だし、高校生じゃないみたいな振る舞いで、逆に心配だけど・・・まあ、とにかく、立場は関係ないですよ。・・・紘香、じゃあ、それで大丈夫?」

「大丈夫ですよ、嘉代さん。・・・と、葵ちゃん?」

「はい!」


紘香さんがきれいな眉を八の字にして、心配そうに私に声をかけてきた。


「まあ心配はしてないのだけど。個人的に、高柳さんがあなたに対して悪い風に振る舞うことがあるかもしれない。何か言われたりしたら、すぐに教えて」

「え・・・私がたてついたからですか?」

「・・・う~ん・・・その、ね、嘉代さん?」


私の質問に困ったように紘香さんは言葉を濁した。

嘉代さんが、再び、深々とため息をついた。


「あの女たらしが、あっちこっち声かけまくってたときに、ちょっと本気になっちゃったことがあったの」

「・・・ゆ・・・桐原さんに、高柳さんが?」


女たらしって言われて、自分の彼氏に当てはめるのもなんか複雑だなあ。

でも、そういうことがあったのか。


「それで、その・・・葵ちゃんが、桐原と付き合ってるって、気が付いたときにめんどくさいかなって感じかな。まあ、特に桐原が葵ちゃんに職場で甘くならなければ、ばれない案件なんだけどね」

「・・・・・」


う~・・・それは難しいのでは。私は、少なくとも私は、気を付けてるんだけど!

ちなみに今日は桐原さんは祈祷番で、なかなか会えずにいる。

だから、この場合は・・・よかった、のかな?


「東さん、そら無理だろう。少なくとも、夏祭りの二人舞の件はこの町中に広まってる。桐原君の相手を勤めたのが誰か、なんてすぐにわかるよ」

「え?でもあの時まだ付き合ってはいませんけど」

「・・・そうはいってもね、あれはただならぬ感じがしたよ?だからこそ、美しい舞だったと思うんだけどね」


後藤さんの言葉に、私はかっと赤くなってしまう。そんな数か月の前の事、そんな風に言われると恥ずかしい。


「あ、でね、葵ちゃん、言いにくいんだけど、2年前、彼女が受験に入るって時に、あんまり桐原にしつこくて手を焼いたもんだから。こちらもひと芝居うったんだ。だから、何か言われて誤解があるといけないんだけど・・・」


何故か、焦ったように嘉代さんが口早に私に話す。


「ほんと、お芝居なんだよ?嘘ついたんだ。私とその、桐原が婚約者だって」

「・・・・え!?」


呆気に取られて、思わず固まってしまう。いや、そんなこと今まで聞いた事なかったし。

そもそも二人は結構仲良いかもしれないけど、でも、そんな嘘って・・・。


「ごめん、でもほんとにその場の嘘なんだ。だから婚約解消したって話にしてもらって大丈夫なんだけど。・・・葵ちゃん、ごめんね、嘘でも、嫌だよね?」


嘉代さんが気遣うように私の顔を覗き込む。

私は、と言うと。嘘と分かっていて、なんだか衝撃を受けてしまっている。

高柳さんが由岐人さんに好意をもっているのはいいんだ。それはしょうがない。

それは呑み込めているのに。

嘉代さんと由岐人さんは・・・なんか仲がいいし。そういうのもあったのかもしれないってなんだか思えてしまって・・・・。


嫌だ。なんか、ほんとに嘘でも嫌だ。


え?私ってこんなに狭い心だったんだ。びっくりする。嘘なのに。嘘の婚約者、なのに。

それが許せないなんて。嫌って思うなんて。


「本当に嘘の婚約って話なんですよね?」


私、今きっと嫌な顔してる。でも確認せずにいはいられなくって、そう、尋ねた。


「そうだよ。ほんとに嘘の話。高柳さんを避ける為のね。ま、もう一つの用もあったけど」

「あの・・・嘉代さんは・・・由岐人さんのこと・・・」


ここも確認したい。嘉代さんが由岐人さんをどう思っているのか。私が問いかけると、嘉代さんは手を合わせて、頭を下げてきた。


「・・・ごめん、気にさせちゃったよね。ここ、はっきりさせるけど。桐原は友人として信頼してるよ。それはほんと。だけど、私にはとても大切な大切な人がいるんだ。誰にも言えない、とっても大切な人。片思いなんだけどね。本当に素敵な人だよ。あんまり手が届かなくて、愚痴ってたら、桐原が話聞いてくれてさ、お互いに色々話すようになったんだよ。だから、ほんとに私と桐原の間には友情しかないんだよ」

「そう、なんですか・・・」


ほっとした。

嘉代さんの表情を見れば、嘉代さんがその大切な人を想っているのがよくわかる。由岐人さんの名前を口にする時と全然違う顔になる。

でも嘉代さんをそこまで思わせる人ってどんな人なんだろう。


「葵ちゃんみたいな存在をずっと探してるんだって、桐原からも聞いてたし、葵ちゃんに気持ちを寄せてった時の話も聞いてるよ。あいつはずっと葵ちゃんだけを見てきたんだよ。だから、私もうまくいけばいいな、って思ってたし、今回の高柳さんの件でかき回されたくないなって思ったから、桐原には先に忠告してるんだ」


そうだったんだ。ほんとに友人として、由岐人さんと嘘の設定までしてたんだ。


「ごめんなさい、ちょっと疑っちゃいました」

「桐原には言わない方がいいね、あいつ、ほんとに葵ちゃん一筋なんだから」


一筋。そう言われると気恥ずかしいけど、でも今はそれを聞いて安心できる。

なんだか、私ってほんとにせまいんだな。


「わかりました」


私が応えると、嘉代さんはニッと笑って、肩を優しく叩いてくれた。


「じゃあ、まあ、高柳さんのことは一応気を付けてくださいね。・・・嘉代さんも、葵ちゃんも。私は勉さんに連絡しておくから」


紘香さんが、私達の解散をうながすように、話をまとめる。


「ではミーティング終了だな。午後の部、しっかり働こう」


後藤さんの一言で、私達は持ち場に戻った。

ふと、思いついて、祈祷している儀式殿の方をのぞく。

由岐人さんと宮園さんのペアで祈祷をしているのが見えた。

もう、宮園さんたら、こっちに手を振っちゃダメじゃない。そのタイミングで、由岐人さんが祝詞を奏上しに、ゆっくりと壇上に進みでていく。


(あ・・・)


目が、一瞬合った。

それだけで、胸の奥がずん、とあたたまる。私は、儀式殿に背を向けて、参集殿へと向かった。

好きだ。

私、ほんとに、あの人が好きなんだ。

それを思い知った休憩後の時間だった。




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