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62 七五三

読みにきていただき、いつもありがとうございます。

またブクマが一つ増え、緊張しております。感謝申し上げます。

この数日、みなさんがよくよく来てくださっているようで、更新してないときのPVをはるかに超え、少々驚いてます。身に余る光栄です。

どうぞ今回もよろしくお願いします。

神社は七五三シーズンに入った。

今日は11月の最初の土日だ。

早いうちから、紘香さんに頼み込まれたから、土日は全部神社の予定で埋めてある。

八百藤の方も、このところは幸太君のペースも落ち着いてきたし、亜実さんのお母さんが変わらずバリバリやっているので、行っておいで、と言われて、その言葉に甘えた。


もう10月末の土日には結構まとまった数の七五三の参拝者が来ていて、早いうちからやるんだな、と驚いた。11月15日にやるだけじゃないんだよね。


聞くところによると、七五三の戦い?は夏から始まってるらしい。

神社の、ではなくて、七五三のお子さんを持っている親の戦い、ね。


いや、正しくは夏より前から始まってるのかな。

ゴールデンウイークを過ぎたあたりで、着物や写真の予約が始まる。

そして、夏には写真撮影。

そして、秋。11月15日よりも早めの時期に神社仏閣への参拝や、親戚同士でのお祝いの食事会を開いたりするらしい。

すごいな。

小さい子の行事だから、もっと簡単にするものなのかと思ったら、成人式ばりのスケジュールなんだ。

写真撮影の着物と、七五三の参拝の行事に着る着物と違うものも選べて、華やかで楽しそうだ。・・・小さい子がどれくらいもつのか正直心配だけど。

連れてくる家族も大変だ。好きなおもちゃ持たせたり、着物を汚さないように一口サイズのおにぎり持たせたり。

うん、無事に終わるとよいよね。

神社側はその一部を見るだけなのに、なんかほんと、お父さん、お母さんって偉いなあと思う。


私も七五三の記憶がある。七歳のだけどね。

おばあちゃんが作ってくれた着物着て、写真撮ったりしたなあ。神社も行った気がする。

うちの両親もいろいろ気を使って大変だったんだろうか。

無事に育ちました、ありがとうございます、って神様に頭を下げたんだろうか。

そんなことを考えながら、私は祈祷受付の担当として、仕事をこなしていた。


放送で子供たちの名前を呼び出しているのは、秋の祭りで舞姫を勤めていた、瀧さん。

同じ高校生?と思うくらい落ち着きのある、ナレーターみたいな声で、すごく好き。

巫女同士で最初に親しくなった宮園さんは、祈祷の担当で、神主さん達の補佐を務めている。

その他にも私より前から、この神社でバイトをしていた巫女さん達が数名いて。

お守りの頒布台担当者や、案内の係などの役を与えられて、休憩をはさみながら、時折別の仕事にも顔をだしながら、うまいローテーションで回していた。


「お疲れ、葵ちゃん」


土日で日がいいと、地鎮祭があるのは変わらない。午前中の出張祭典に出ていたらしい、嘉代さんが戻ってきて、受付に入ってくれた。


「どう?できてる?大丈夫かな」


浅黄の袴をはいて、颯爽と現れた嘉代さんは、待合所としている参集殿の方をちらりと見ながら、受付用紙の数を確認する。


「わからないこととかあったら、言ってね」

「はい」


ここでは、祈祷する子供の名前や生年月日を書いてもらっている。

祝詞の中できちんと読めるように、ふりがなをつけてもらわないと、分かりにくい名前も多い。生年月日もあまりきれいな字でないと、間違うおそれがある。

その辺りをここで確認しながら、祈祷をする儀式殿の方に伝えていく。

うん。字をきちんと書くって大事。

この受付を始めて、それはしみじみ思った。


「ま、葵ちゃんなら大丈夫かな。ほんと、今年から巫女始めたって感じしないくらい馴染んじゃってるし。私も安心して任せられるよ」


嘉代さんったら、それは褒めすぎです。退学?のような休学中に頻繁に手伝いに来てたんだから、慣れたのは無理もない。

それ以上に、ほんと、いろいろあったし。神社を通して生活してたって感じもするもの。


「私、もう昼食済ませてきたんだよ、ここは私がやっとくから、葵ちゃん、お昼入っておいで」

「わかりました」


嘉代さんに勧められて、きりのいいところで、私は受付を失礼した。更衣室に寄って、弁当を手に取ると、後ろからとても良い声で声をかけられた。


「一色さん、今からごはん?」


瀧さんだ。ああ、心地よい声で呼ばれてしまった。


「はい、瀧さんは?」

「これからなの。一緒に食べましょう」


休憩室に入ると、後藤さんと数人の巫女さんが食事をしていた。空いている場所に座って、弁当を広げる。


瀧さんが自分用と私用にお茶を入れてくれ、更に、後藤さんにお茶を入れて、渡す。

気が利いてる!素敵。


「ああ、ありがとう、瀧さん。」


後藤さんがにこにこと、お茶をいただき、おいしそうにそれを飲んだ。


「優しいなあ、瀧さんは。癒された!」


少しおどけた調子で後藤さんが言うので、思わず瀧さんと目を合わせて笑ってしまった。

と、ガタン!と音を立てて、何やら荒っぽく立ち上がった巫女さんがいた。


「嫌な感じね。先輩の私がお茶入れてないのに、これみよがしに神主さんにお茶なんて出して」


ええ・・・。思わず、私は眉を寄せて、その人を見てしまった。

とてもきれいな顔立ちなんだけど、少しきついまなざし。年上、かな。

・・・なんか言いがかりな感じだけどなあ。先輩後輩でそんなルールあるのかなあ。


「ま、まてよ、高柳さん。瀧さんは、単に自分たちにお茶入れてて、その中で私に気を使ってくれたんじゃないか。」


後藤さんが困惑した様子で、瀧さんをかばってくれた。

そうだよ、そうだよね?まさかにお茶飲んじゃいけないルールはないはずだし。


「後藤さん、それでも先輩がお茶出ししてないんだから、それを無視して下の者にされてしまったら、先輩の立場がないと思いません?」

「それは君の立場だろう?気にする方がおかしいじゃないか」


わあ、何だこの人、ちょっとめんどくさいかも。巫女さんにも色々いるんだなあ。

と、私は、少しイラっと来たのか、つい次の一手を思いついてしまった。

後藤さんがおろおろしながらなだめているのを尻目に、私は、もう一つお茶を入れた。

そうして、黙って高柳さんと呼ばれた巫女さんの前にそれを勧める。


「申し訳ありません、そのような上下を気にするようなルールがあるなんて知らなくて。ここのみなさん良い方々ばかりなんで、そんな小さなこと、気にする人がいるなんて思ってもみませんでした。それとも、お茶、飲みたかったんでしたら、召し上がってください」


我ながら、辛辣な言い方をしてしまったな、と思いながらも、瀧さんの同胞のような立ち位置にいるつもりで、私は言い放った。


「なっ・・・生意気ね、新人のくせに!」


眉を吊り上げて、私を睨みつける高柳さんに、私はため息をついてみせた。


「生意気ですいません。でも気持ちよく仕事したいと思ってますので、先輩、よろしくお願いします」

「あんたなんか、やめさせてやるわ!」


わあ。なんだこの人。同じバイトの立場でそんなこと言えちゃうの。

コワい、というか・・・ちょっとヤバい?

私が呆れて立ち尽くしていると、高柳さんはふんっと鼻息もあらく、休憩室を出て行った。

・・・綺麗な人なのに、なんか残念な人だな。

私は肩を竦めると、瀧さんがよい声でお礼を言ってきた。


「ありがとう、一色さん。私、少しすっとしたわ」


う~ん・・・。ああいう人、仕事に支障をきたすような状態にならなければよいけどなあ。

後で、嘉代さんか紘香さんに相談しておこう。自分のためにも。

私は気を取り直して、瀧さんとお昼を食べはじめた。

後藤さんがほっとしたように、お茶を飲み始めていた。

茨城南部の披露宴をかしきっての七五三文化って今でもやってるんだろうか。

ゴンドラに乗って子供が出てきたり、ドライアイスの煙の中で歌ったりするんですよね。

もちろんお色直しも。


ああ、やっと11月まで書けました。これも読んでくださるみなさまのお陰様です。

こちらに来てくださった方に良い読み物との出会いがありますように。

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