白袴の出仕録 2
またブクマが増えました。ありがたいことです。姿勢を正して、臨んでまいりたいところですが・・・ごめんなさい、力量不足でへたくそな文章で。先に謝っときます。
いつも来てくださる方に感謝をこめて。
今回は白袴、桐原の回です
先日、八百藤でささやかなお祝いの会があった。
藤野夫妻の子、先日誕生した幸太の少し早い初宮のお祝いだ。
昼間に幸波神社で初宮参りを済ませ、夕方から藤野親子、亜実の両親、葵、そして桐原がお祝いの席に同席した。
奏史は宮司夫妻にも一応声をかけたのだが、祢宜の季子が、気を遣わせては悪いから、と遠慮してきた。
葵はもう藤野家の家族も同然だし、桐原はほぼ連日八百藤の手伝いに寄っているから、亜実の両親とも面識がある。お祝いの席の面子はごく近しい者同士の会となった。
とはいえ、桐原はどちらかというとお客さんの立場だ。それなりに気を使って、ケーキの差し入れを用意した。くだけた態度はとらないまでも、お酒も飲めないわけではないから、奏史や亜実の父親と飲み交わした。
少し、ほんのりと頬が温まった中で、亜実や葵の手作りの料理に舌鼓をうちながら、幸太をあやす亜実の両親をぼんやりと見つめていた。
お客さん状態ではあるが、この幸せな空間にいるのが心地よくて、桐原の顔には自然と笑みがこぼれていた。
「どうです?おいしいですか?」
葵が炭酸水の入ったグラスを持ちながら、様子をうかがってくる。
今、桐原の前には、葵が作った、ハスの挟み揚げが置いてある。ハスの輪切りにひき肉がはさんである、葵の実家の方の料理だという。
「うん、うまいよ。揚げ物なんかできるようになったんだなあ。このハス、サクサクしてて、ほんとに美味しい」
「よかった!」
葵が嬉しそうに笑顔になる。
(ああ、可愛い)
晴れて恋人という関係になって間もないが、桐原は葵の笑顔を眩しそうに見つめた。
「これ、亜実さんのお母さんに教わったんです。おかしいでしょ?実家の料理なのに、実家で習ってなくて、ここで覚えたんですよ。」
葵が実家で実の両親とあまりうまくやれていなかったことは聞いている。
それでも母親の作った料理の味を再現したかったのだろう。
亜実に相談して、亜実の母親が仕込んでくれたらしい。
「今度実家に帰った時に作ってやったらどうだ?」
「ほんとだ、そうですね」
そう答える葵の様子を見るに、実家へのわだかまりはだいぶ無くなったように見られる。
にこにこと炭酸水を飲みながら、葵は桐原の隣で相槌を打っていた。
うぬぼれるわけではないが、自分の傍らが居心地がいい、というような表情でくつろいでいるようにも見えた。
そんな葵を見ていると、人前とはいえ、少し構いたい衝動が抑えられなくなる。
「葵は、食べたのか?・・・ほら、あ~んして」
「!え?あのっ!・・・ふわっ」
桐原は手ごろな挟み揚げを半分に切り分けると、そのまま、葵の口へと運んだ。
思わぬ行為に、どうしたものかと、慌てた葵は、そのままそれを口で受け止めてしまっていた。
「・・・・ふ、ふふわ、ふきとさん!!」
口に挟み揚げを入れたまま、顔を真っ赤にして抗議する葵が更に可愛らしく、桐原は声を立てて笑った。
「ごめん、ごめん。大丈夫か」
むせてはいけない、と葵の背中をさすってやりながら、桐原はその華奢な体をそのまま抱きしめたいと、思った。
が、強い視線を感じて、ゆっくりとその方向を振り返る。
奏史と亜実がにやにやしながら、二人を見守っていた。
「仲がいいなあ」
「ね、桐原君、葵ちゃんの料理、美味しいでしょ?惚れ直した?」
二人は桐原と葵が付き合い始めたのを当然知っている。桐原は頭を掻きながら、二人に応えた。
「惚れ直すどころか、ずっと、惚れ続けてますよ」
「由岐人さん!!」
照れからなのだろう、葵が赤い顔で、咎めるような声をあげる。
もうっ、と言葉にならないような声を残して、葵はその場をやり過ごすかのように、幸太をあやしに、席を立ってしまった。
やれやれ、と桐原は残りの挟み揚げを口にする。
視線の先には赤ん坊を抱いて優しく微笑む葵。
あの笑顔の為ならば、なんでもできそうな気がしてくる。
あの笑顔を守っていきたいと、心から思った。
と、スマホのメッセージアプリの音が鳴った。
(うん?)
友人であり、幸波神社の職員の東 嘉代からだった。
まもなく神社は七五三の体制に入る。東には自分の勤務予定を連絡するように頼んでいたのだ。
多分、それだろう、とメッセージを開くと、案の定、勤務表のファイルがついていた。
確認しているさなかに、今一度、東からメッセージが入った。
(なんだろう)
そのまま新しい方のメッセージを開いて、思わず、桐原は顔をしかめた。
(・・・弱ったな)
東のメッセージにはこうあった。
『要注意。巫女バイトに高柳さん来る予定。』
桐原は頭を抱えた。
高柳 恵理。実は総代長 小島勉の孫だ。
2年前までバイトに来ていた。2年前は高校生だった。
受験に失敗した、と聞いていて、そのまま神社に来なくなっていた。
ちょっと癖がある。
思い込みが激しくて、それでいて、周りを巻き込んで、迷惑をかけていく。
家田はあまり彼女をシフトに入れたがらなかった。
それでも、総代長の孫、ということで、来れば、断り切れない所がある。
東は結構この迷惑バイトを自分と共に外作業に入れたりもして、うまく使っていたが、それでも、桐原とのことを心配していた。
桐原は葵と会うまで、とにかく女の子と見れば、声をかけて、軟派に過ごしていたところがあった。
それは心底で、葵という存在を探し出そうとする気持ちが働いていたからなのだが。
この時の態度が、この高柳に大きく誤解を与えていた。
当時、桐原と付き合っている、と周りに吹聴していたのだ。
身から出た錆、とはこのこと。桐原は東に協力してもらい、なんとかその場は切り抜けたのだった。
『葵ちゃんに害のないように頼むわよ』
東がメッセージを今一つ送ってきた。
(害なんて・・・あってたまるか!)
桐原は、2年前の不安材料の出現に頭痛を感じながらも、葵だけには迷惑をかけたくない、と思った。
ふと、視線を戻せば、幸太が疲れたのか、葵の腕の中で眠っている。
愛おしむような顔で幸太を見つめる葵は、いつになく綺麗だった。
そのうち書く、と思うんですけど、
桐原と東は元クラスメートってのは前に書いた通りです。
東は親戚筋に色々あって、また想う人もいて・・・で、その辺りを桐原は友人として承知してます。
桐原は東を嘉代ちゃんとは呼びません。友人で、近い存在だから、東、と呼び捨てしてます。
ちなみに東はなるべく職場では桐原さん、と通し、私的な場面では桐原、でいきたいところなんですけど、ちょっと崩れがち。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
どうか、よい書との出会いがありますように




