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60 恋文に憑いていたもの

今日一気読みしてくださった方いらっしゃいましたね?ありがとうございます。

ブクマしてくださり、読んでくださる、このありがたさをしみじみ感じています。

しかしながら、私の文のつたなさは変わりません。

申し訳ないです。ただただ日ごろの感謝をこめて。

このたびもよろしくお願いします。

桜子のもらった恋文と、変わっているクラスメート、高橋君の話を由岐人さんにすると、由岐人さんは私の手にしていた巻物を手でつまみあげて、嫌な顔をした。


「・・・何かいる、ね。悪い存在ではなさそうだけど・・・」

「害はないけど、桜子がちゃんと断れるようにしてあげたいし、不安材料は調べておこうかなと思ったんです」

「ちょっと、この段階だと、俺たちの領分じゃないな。正歩か祢宜さんに頼もう」


憑き物?の正体がわかれば、対処のしようもあるけれども、と由岐人さんが言う。

正体をつきとめ、あわよくば、具現化できるのは、特殊な能力だ、と。

わずかではあるけれども、陰陽師の力を使えるようになった正歩君と、近しい力を持つ祢宜さんにそれを頼む、とそういうことになった。


正歩君はもう受験の真っただ中にいる。杜之学院も受験するらしいけど、すべり止めで、という話だ。自分のレベルより少し上の公立の進学校を第一志望にしていて、とても頑張っているという話を住谷さんから聞いた。

それでいて、メリハリよくやってるみたいで、気晴らしに龍笛の練習もしているという話だ。

おそらく抱節さんも絡んでの事なのだろう。

だいぶ正歩君をお気に入りのようだったし。


八百藤に電話をして、少し帰りが遅れる旨を伝えると、今日は亜実さんのお母さんが夕飯を作りながら、いててくれるから、ゆっくりしておいで、との話だった。

私は由岐人さんとそのまま、幸波神社に向かうことにした。


幸波神社につくと、すぐに、感じた事のある、爽やかな気配がした。


「抱節さん?」


姿を見せないが、近くにいるのを感じて声をかける。


『主殿がお待ちです。どうぞ、参集殿へ』


抱節さんが声だけを私たちに届ける。どうやら、正歩君、私達が来るのをわかっていたみたい。私たちは、本殿に向かって一礼すると、そのまま、参集殿へと入った。


「いらっしゃい、葵さん、桐原さん。抱節さん、ありがとう」


龍笛を持った正歩君が参集殿の玄関で待ち構えていた。学校から帰ってきたばかりなのか、制服姿のままだ。

正歩君の声掛けを聞くや、たちまち、深緑の美丈夫、抱節さんが姿を現す。


「何か来るな、と思ったんですよ。そしたら、葵さんたちの気配も感じて。抱節さんが、二人が私に頼みごとがありそうだから、迎えに行く、というから、そこまで行かせました」


きれいな笑顔を浮かべて、さりげなく、常人でない話をしている。

知らないうちに、色々できるようになっているみたいで、正歩君、すごいな。

そのせいか、余計にちょっと只者でない感が半端なくて、美しさに磨きがかかったようにもみえる。

そんな綺麗な顔立ちの彼に、私達はそのまま参集殿の客間へと通された。


「ごめんね、受験中に。突然押しかけて」

「悪いな、正歩。用件済んだら、帰るから。ちょっとこれ、見てやってくれ」


由岐人さんが、私の鞄から、例の巻物を取り出した。


「・・・え?これ、だったんですか?」


正歩君が意外そうな感じで巻物を手にする。


「どういうこと?」

「なんとなく、イメージで、こう、刀か銃みたいなものが来るのかなって感じがしてたんですよ」

「・・・全然違うな、ちなみに、正歩、これ、葵の友人がもらったラブレターなんだ」

「・・・え?」


正歩君が由岐人さんの言葉に、少し引いたような感じで応えた。

・・・そうだよね。普通、そうなるよね。


「ま、とにかく、何が憑いてるか見たらいいんですね」


察しがいいなあ、正歩君。さすが頭いい。


「抱節さん、力を貸していただけますか?」


正歩君の声に、抱節さんが礼をして、答えると、そのまま、正歩君の手にする笛の中へとするする、と消えていった。


「・・・何、するの?」

「まあ、見ていてください。音と式神を使った呪、ですよ」


そう言うと、正歩君は巻物を机の上に置き、笛を構えた。


ト~オ~ルロウ~


深くて心地の良い音が流れ出す。うわあ、なんか体に響くなあ。気持ちの良い音だ。

正歩君、龍笛も前は全く音が鳴らなかったのに、こんなにいい音が出るようになったんだ。


(わ・・・なんか、すごい)


思わず息を呑む。笛を奏でる正歩君を見ると、龍笛が緑色に輝いていた。

多分この光が抱節さんの力なのだろう。やがて、その緑色の光が柔らかな波線のような筋を作り上げ、そのまま、巻物を包むようにくるくるとその周囲を辿っていく。


やがて、その曲の音階が高くなっていき、息継ぎが大変そうなロングトーンをふきあげたときに、巻物からシュン、という音と共に、何かが現れ出た。


(!)


思わず、由岐人さんと顔を見合わせてその何かを見つめる。

・・・人?・・・誰?

なにか、人のような形の存在がそこに形成されつつあった。


やがて、緑の光の筋が消え、抱節さんが笛からまた出てくると、その現れた人の形は明らかな表情を示して、私達の前に存在し始めた。


「・・・え?兵隊、さん?」


兵隊の恰好をした人だ。勲章をつけた、結構いい身分の感じの。

50~60代くらいの男の人。

え・・・何故に恋文にとりついてるの?

頭の中がハテナだらけになってる中、その兵隊さんが私たちに向かって一礼した。


『お初にお目にかかる、私は高橋 栄悟。大日本帝国軍海軍少将である』


ああ。

うん、なるほど。ってこれって・・・高橋君のあの尊敬する・・・おじいさん!?じゃないの?


私はへえっと思わず、現れた高橋君のおじいさんらしき人を見た。・・・うん、ちょい面影似てるかも。でも何故にひ孫?のラブレターに憑いてたんだろう。

よくわからないんだけど。まさか、この巻物の紙、おじいさんの持っていたいいものとか!?


「俺はここの神職だ。・・・なんで、あんたここに憑いてたの?」


由岐人さんが声をかけた。すごい、いきなり本題に入っちゃうってさすがだな。


『おお、神職殿か。ここは護国神社か九段下か?』

「いや、そういう場所じゃないんだよな。普通の郷社。少将さん、これ、あなたの孫だかひ孫にあたる人がある人にあてた恋文なんだ。なぜにあなたが、そこに憑いてるのか教えてもらってもいいかな?」

『・・・ああ、そうか。すまぬ、少し記憶が混乱した。・・・こうして、話をする機会を作ってくれてありがたい。どうか聞いてはくれまいか。ここに至るまでの顛末を。誰かに受け止めてもらえれば、私の魂も浄化すると思うのだが。』


悪意がなかったし、悪さをするつきものではない、と最初から巻物に感じたものに悪い印象はなかった。

現れた憑き物の霊である兵隊さんは思いのほか、物腰も丁寧で、しかも自分という存在が迷って、今ここにあることを悟っていた。

自分の魂の浄化のために、話を聞いてくれ、というのだ。

いずれにしても、彼をつけたまま、桜子が持ち歩くよりはきれいさっぱりにして、返した方がいい。それに、そうすることで、高橋君にも桜子にもよい影響があるように、私には思えた。


「話して、もらいましょう。少将さん。こうして心を遺されるのは所以があってのことでしょう?私にもこちらにいる神官にも、巫女にも、あなたの道筋を引く手助けはできると思いますよ」


正歩君が微笑みながら、高橋君の曽爺さん?に話しかける。いいですよね、と私達に視線が送られ、私と由岐人さんはコクコクと頷いた。


『ありがとう。では聞いていただけたら、と思う』


こうして、少将というその高橋君ゆかりの兵隊さんに私たちは話を聞くことになったのだった。





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