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58 足取りが浮わつくような

いつもありがとうございます。またブクマしてくださった方が増えました。ありがたいというか、嬉しいに加え、緊張します。評価も嬉しいですけど、ブクマって響きますね。

ああ、この人数が必ず見てるのか、と思うと、すごくちゃんとしなきゃ、って思えてきます。

のに、文がつたなくて申し訳ないです。

こちらに心を使ってくださった分が少しでも何らかの形で働き、他で、よりよい作品に出会えることを祈ってます。

今回もよろしくお願いします。

なんだか、宙を歩いているような感じがするんだよね。

座っていても、どこか頭だけがふわっとしているような、不思議な感じ。

それはどこか楽しいような、あったかいような感じで。

うん、嬉しいの。嬉しいんだけど・・・。


気を抜くと、何度も脳内でプレイバックしてしまうんだ。

その。

由岐人さんに抱きしめられたところから、ご丁寧に、そのキス・・・のところまで。

由岐人さんの言葉とともに繰り返し繰り返し頭の中で再現されてしまう。

このしょうもない私の頭、・・・・なんて恥ずかしいの!

そのたびに口元が変な風に緩んでいないか、顔が赤くなってないか気にしてしまう。


はあ・・・もう、でもなんか、この常に春まっさかりな感じにいる自分を否定もできず。

由岐人さんの声を思い返したり、プレイバックしないように、違う時の由岐人さんの顔を思い浮かべたりして、私は、とても幸せな気持ちでいた。


彼氏、とか恋人、という言葉を使うにはちょっと照れくさいんだけど。

想いを確かめて。

私達は付き合うことになった。


「葵、・・・なんかいいことあった?」


結子が少し引いたような眼で私をじとっと見る。

今は学院の昼休み。私は結子と桜子と一緒にお弁当を食べていた。

学校の中庭、にちょうどよいベンチと机がいくつか並んでいて、そこで私たちはお弁当を広げていた。


結子の、その表情を見るや、私が脳内と戦って、ニヤついたり、顔の火照りを気にしているのを、さりげなく見守っていたな、と察する。


「うん、そうだね」


いいこと、に違いはないから、私がそう言うと、がしり、と両肩をつかまれる。


「・・・もしかして、男ができた?」


お。男・・・。そんな露骨な。私がなんと応えようかと考えあぐねていると、桜子が満面の笑みで私の方を見た。


「葵ちゃん、お綺麗になりました。多分、恋をしてるんでしょう」

「っつ!」


人見知りの激しいと、出会いの時は会話の少ない桜子だったんだけど、友達にしてしまえば、普通に会話のできる、いいクラスメートだった。

こんな美人の友達を持って果報者だなんて思っていたけど。

妙に勘が鋭いところがあるんだよね。

神社の用事で、と浄化の時に休みを伝えた事があったんだけど、その時も、ほんとに神社の用事なのか、なんか緊張してるようんだけど、大丈夫なのか、と心配してくれたんだ。

すごく人の気持ちに敏感な子だ。


そんな桜子に、恋をしてる、認定されてしまえば、結子もそうだろうとも決めてかかってきている。


「え?そうなの?誰、相手は誰?」


はあ。これははぐらかすのも難しいな。ま、同級生の人じゃなし、言っても大丈夫かな。


「お世話になってる神社で、働いている学生の神職さん。杜之学院に通ってるの」

「え?大学生?葵、いいなあ。え、その人、神社の後継者なの?」

「ううん、わけあって、その神社に奉職する予定の人。」

「へえええええ、そうなんだああ」


結子がキャッキャッという感じで楽しそうに話をすすめる。

悲しいけど、お付き合いするときに、神社の後継者かどうかって確認するの、この学院のサガみたいなもんだね。

大学に行くとそれがすごく顕著になるらしくて、後継者でない次男三男、後継する予定のない女子は、とてもモテる、という話だ。


「葵ちゃんは、素敵な人と出会えたんですね」


ふうっとため息を吐き出しながら、桜子が微笑む。そのため息に、なんとなくひっかかりを覚えて、私は桜子の顔を覗き込んだ。


「桜子、なんか、あった?」

「・・・うん・・・」


うつむき加減にうなずく桜子に、私は結子と顔を見合わせる。すると、結子が顔をしかめ、ぽんぽん、と桜子の頭を軽くなでた。


「大あり、なんだよ、葵。ちょっと厄介というか・・・聞いてもらえる?」


そう言うと、結子が何やら目配せで、桜子に何か合図すると、桜子はお弁当を入れてきた袋から、紙の巻物をすっと差し出してきた。

・・・・え?何?

和紙、だよね。それが何重にも巻かれてる。で、紫の紐でしばってあるんだけど。


「・・・これ、何?」

「・・・・ラブレターらしいよ。もうこんな形してたら恋文ってかんじだけど」

「こ、恋文!?誰の!」

「私が、もらっちゃったんです。こないだ、机に入っていて」


いやいやいや、今どき、恋文って!

それにその巻物形状はなんなの。


「桜子、面倒なら捨ててしまえばいいじゃない。それとも何、好きな人からもらったとか?」

「好きな人からもらってたら、悩まないでしょ。モノが形から怖いから捨てられないし、どうしていいかわかんないのよ」


結子が桜子の代弁者のようにまくしたてる。

うん、確かにこの形はコワい。


「でも、恋文ってわかるってことは、中身は見たのね?」

「うん・・・書道部の忘れ物かな、とか思ったりしたから」


桜子がきれいな顔をかしげながら、困ったように言う。


「見ても?」

「どうぞ」


と、巻物をもらうと、あれ?という感覚があった。これは、何かいる、感じだ。

悪意はなさそうだけど、なんだろう。

ともかく、巻物の紐を解き、それを広げる。


「・・・・・ねえ、これって」


私はちょっと言葉につまった。


「すごいでしょ。なんか、今時、こんなんして告白するの、怖いよね」


と、これは結子。そうか、・・・結子も見たんだな。


達筆、とはいえないものの、かなり癖のある字体が筆のような書体でつらつらとかきつらねてある。

確かに桜子への愛の告白だ。ちょっと散文詩のような形で、桜子への讃美と自分の気持ちが記されてあった。

う~ん・・・これ、ほんとに引くなあ。逆に斬新、とか思ってしてるのかな。


最後に高橋 悟、と名前が記してあった。

いまだ、クラスメートの顔と名前が一致してないけれど、私には一人、心当たりが浮かんだ。

あの、異常に姿勢のいい、インク壺の男だ。

あれで書いたんだな、そう感じて、私は今一度、桜子と結子の顔を見た。


「高橋悟って、どんなやつ?」



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