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53 浄化

知らないうちにブクマも評価も増えまして。ありがたいことです。本当にこんなつたない文におつきあいいただきまして、感謝申し上げます。

ようやく、浄化です。すいません、陰陽道みたいな戦いを期待してる方にはまずまずつまらない文かもしれません。神職は呪術師でない、祈りの仲取り持ち。陰陽師は呪術師という観念でおります。

「ここが首塚か」


私は由岐人さんと共に将門の首塚の前に立った。

浄誓寺という、墓苑を抱えた大きな本堂の裏手。そこにこんもりとした小さな丘がある。

石で組まれた小さな階段を上っていくと、そこに首塚はあった。


大きな石が重ねられた墓のような史跡。将門の首塚、と案内が出ている。

結構大きい。3メートルくらいあるかもしれない。

すぐに、ここは結界の中心ではない、というのは分かった。

結界の中心、魔の力が封じられている場所が、近づいているのは分かるんだけど。

すごく、近いのに。ここではないみたい。


それでもここにはいろんな気持ちが寄せられているのが感じられた。

こういうのがわかるのが、あさ、としての感覚なのだと思う。

一つに感じるのは、この土地の人が慕う、将門への気持ちや哀悼。

もう一つに感じるには将門の怨霊としての力を利用しようとしたどす黒い人間の欲望の感情。


私はそっとその首塚に手を触れた。

複雑な感情が私の中に入り乱れて入ってきて、少しだけ、苦しい。

なんとなく押されるような感じもあって、少しよろめいてしまった。


「大丈夫か」


由岐人さんが私の肩を支えてくれた。


「すいません、ちょっとここに溜まっている色んな感情に押されたみたいです」

「色んな感情?」

「将門を慕う人たちの気持ちとか、反対にその力を利用しようとする人たちのとか、色々です」


思わず、ため息が出る。まだ本丸に届いていないのに、将門に関わった人の心の波に参ってしまっては、先が思いやられる。


「将門を慕う人、か・・・。やはり晴明が退魔をせずに結界で封じたのはその辺りなのだろうな」

「この土地を守る木々で結界を作って、その魔の力を癒してほぐそうとしていたっていうけど。・・・力を利用する人間が寄ってきたり、そうでなくても結界が弱っていって、晴明が望む形にならなかったんでしょうね」


だって、真っ黒な嫌な感情だもの。それも一つや二つじゃない。

将門がこの世を去ってから、何度か術をかけようとした形跡。

信じられないけど、多分、ここ最近のものもありそうな気配すらする。

あさの悲しい気持ちが伝わってくる。いや、これは私も悲しいよ。

この首塚を通り抜けていった色んな感情を感じる力もみな、あさのものだけど、自分の父親を利用しようとした人間の黒さに悔しさや、悲しさを感じて当然だ。


『結界の中心は、分かるか』


サキナミ様だ。由岐人さんの表情が変わった。


「はい、多分、ここを降りて・・・・」


感じるまま、歩みを進める。少し、緊張してきたな。

塚を降りて、本堂とは逆の墓地の方に向かう。


「!」


ちょっと、つらいな。なんか歩みが重くなる。墓地の方に周ると、少し広がった墓苑の通路があり、その中央に禍々しい気配を感じた。


『葵、扇を出しておけ』

「はい」


私は震える手で、扇を出した。いよいよだ、浄化が始まる。


『お前は将門の娘の生まれ変わりだ。どう祈ればよいか、神に祈りながら、将門に想いが伝わるような気持ちで臨むがいい』

「サキナミ様、一緒にいてくれますよね?」


こんな時におもわず、すがるような事を言ってしまった。言ってから、少し後悔したものの、サキナミ様は、由岐人さんの顔で笑う。


『大丈夫だ、由岐人と共にお前と一緒にいる』

「・・・え?」


いつになく、優しい声だった。なにか、私を包み込むような、ふんわりとした気配が走った。

どうしてだろう、サキナミ様に何か言わなきゃ、って変な勘があって、そう思わせてる。


「あの・・・」


言いかけた私の手をぎゅっと片手で握りしめられた。


「行こう、葵」


由岐人さんだった。サキナミ様の力を感じる・・・・けど、なんだろう。今までと何かが違う気がする。


「扇を中心に刺して」

「え?あそこに、さすんですか!?」


黒い靄がおおきくくすぶる場所が目の前にある。そこの中心に刺せ、と由岐人さんが言うのだけれど。


ちょっと、怖い。怖いよね・・・。

ごくり、と息を呑んで、ゆっくりと歩みよる。ずっと由岐人さんが手を離さずにそばにいてくれた。


「いきます」


禍々しい黒い気配のせいで重たくなった足をえいやっと進める。

一歩、二歩、三歩・・・。

扇を持つ手が震える。腕が、思うように上がらない。


『・・・あさ・・・・』


ふんわりとした女性の声がふと、聞こえてきた。

その腕にそっと添えられた不思議な感覚があった。


「・・・かあさま・・・?」


姿はここで見ることはできなかったけれど、確かにそこに「いる」感じがする。

桔梗姫だ。前世の私、あさの母親だ。

そばで、助けてくれているんだ。

・・・この人、もしかして。


私はそっと後ろになってしまった先ほどの首塚を振り返る。

ああ、そうか。

あそこで将門の力を悪く利用しようとしていた人間から守るように、ずっとこの辺りを守ってくれていたんだ。

さっき首塚で感じた、将門を慕う気持ちの気配と似たあたたかな感覚が、同じように感じる。

ありがとう、桔梗姫。


腕が・・・うごく!


私は黒い靄の中に力を込めて、扇を突き立てた。


「!!」


強い力を感じる。黒い靄に飲み込まれるように扇が消えていく。

それを見ながら、私は正面で手を合わせて祈り始めた。

あさが咄嗟にさせたのか、私が自然とそうしたのか分からない。

無我夢中だった。


どうか、この結界の魔が祓われますように。

将門が怨霊とならずに、浄化できますように。

神様・・・どうかこの場所を。結界のそれぞれの場所を守ってください。

みなを・・・守ってください!


背中から温かな力が体内へ回っていくのが分かる。

それがやがて私を包み込み、そのまま手を通して、目の前の靄へと流れ出ていく。


と、脳裏にかまいたちたちの姿がよぎった。必死に結界の結び目を守っている姿だ。

そして、祢宜さんと正歩君の姿も。何か、言葉を唱えながら、必死に祈っている姿。

これは結界に流れる力が見せる、現況なんだ。

みんなそれぞれが、所々で頑張っている。

私もここで、ちゃんとしなきゃ!


「たかまのはらに かむづまります すめらがむつ かむろぎ かむろみのみこともちて やおよろずのかみたちを・・・」


隣で由岐人さんが何やら、祝詞?のようなものをそらんじて唱えている。

その表情はなんだか、由岐人さんなのか、サキナミ様なのか、もうわからない。

真剣なまなざしでまっすぐに結界の中心である黒い靄を見据えて、その額には、汗がにじんでいる。

こちらが見ている様子に気が付いたのか、視線が合った。そのまま、黙って頷いてくる。・・・これは由岐人さんだ。

続けて、祈れと、そういうタイミングでの頷きだ。

私は引き続き、祈った。


「!」


黒い靄が少しずつ千切れるように分かれて、離れていく。

・・・祓われて、いるんだよね?

中に入っいった扇が見えてきた。黒い力にやられたのか、ボロボロだ。

あと、少し、と思った時、にわかにその黒い靄の一部が私の手元を覆うように襲ってきた。


「!!あっつ!!」


祈りの手が覆われてしまう。

とても熱い。


『おのれ、人間ふぜいが・・・われの力をあなどるな・・・』


低く、不気味な声と共に、その黒い靄がうねうねと手元にくすぶる。


「葵!」


由岐人さんが背中から私に抱きつくようにして、その黒い靄から対抗するように私の両手を自分のそれで、握りしめた。


「由岐人さん!」

「祈れ、祈るんだ!」


強く、由岐人さんが私の両腕を抱えるようにしながら、私の両手を支えてくれる。


「はい!」


再び、私は祈る。

どうか、どうかお願い。浄化されて。




・・・父上!・・・




・・・そうだ、ここに封じられていたのは将門だ。

私の父だった人だ。

私の存在も知らず、この土地を守って、命を散らした人だ。

強い存在感と、その怨霊としての力を、悪い心を持つ人間にたびたび利用されようとして、死んでもなお、安らかに休めなかったんだ。

ただ、この場所を守り、ここに息づく人たちと愛する人たちを守りたかっただけなのに。

死してなお、悪い人間たちの心ない行為のために、人の世をより嫌悪することになってしまったんじゃないか。


父上、違う、将門様、違うんだ、

人間が悪い、悪いけど、・・・あなたをずっと思ってたひとたちだって、いたんだ。

どうか、本来のあなたに戻って、この土地をいつまでも見守ってください。

お願いします・・・!


悲しくて、悔しくて、涙があふれてしまう。

それでも祈りはやめられない。

あなたのために。今を生きるみんなのために。


『あさ』


また、桔梗姫の声が、した。

祈りを続け、手首を由岐人さんに握られている私の手に、うっすらと光るような手が添えられた。


・・・え?

思わず、その手の持ち主を仰ぐ。


「かあさま」


そばに光り輝くような、美しい女性が立っている。

桔梗姫が優しいまなざしでこちらを見ていた。


『大丈夫じゃ、あさ、父上は今戦っておられる』

「え・・・?」


手元にくすぶっていた黒い靄が消える。扇の刺さっている部分で何かうごめく黒い塊があった。


『うおおおおおお!!』


咆哮のような叫び。その黒い塊が人型のように大きく伸びて、私の前に立ちふさがる。


「!」


思わず驚いて身を引くと、由岐人さんがそのまま私を守るように私の前に立った。


『将門様、お戻りださいませ』


桔梗姫がすっとその人のような形の塊を両手で支えるように、ぽんぽん、と叩いた。

しゅん、と黒い色が消えていく。

・・・え? そこに現れたのは一人の武者。


『おお、桔梗か、出迎えご苦労』


大河ドラマでだってこんなかっこいい武者見た事ない。

雄々しい、壮観な鎧武者がそこに、凛として立っていた。

私は口を開けたまま、ぽかん、として、それに見とれた。


「・・・浄化、できたようだな」


由岐人さんが、小さくつぶやいた。





年末年始にうろうろネットをさまよっていますと、色々な楽しい話が見つかりまして。

お陰で更新がゆっくりになってます。

みなさまにも楽しい、いいお話との出会いがあるといいですね。

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