社務日誌 12
小休止の社務日誌です。短いですが、どうぞよろしくお願いします。
先日ブクマがなくなってああ、と思いながら過ごしてましたが、なんとまたブクマが増えてくれました。しかも評価も増えてて驚きです。こんなつたない文につきあっていただき感謝です。
ありがとうございます。
幸波神社権禰宜、住谷元紀は宮司の有能なる片腕だ。
職場を離れれば、正孝の良き親友でもある彼は、彼のちょっとした表情や言葉尻で、友の事を察する事ができる。
(何かあったな)
ここ数日の宮司の様子に住谷は、そう察した。
どこか、不安げで、緊張感を感じる。
いつものように余裕な表情で、のらりくらりと、東や家田とやり取りをしているが、その目に時折走る、影を住谷は見逃していなかった。
やたらに本殿に出向いている風を見せているようなところもあるし、先日は参集殿で葵や桐原も呼んで何か話をしているようだった。
(神社の事・・・か?)
いや、違う、と住谷は思案する。神社にも関係はあるだろうが、おそらくは・・・。
と、家田と秋の大祭の事で巫女舞の相談をしている祢宜、季子の姿が目に入る。
(・・・人でない者たちがらみか)
住谷は宮司と禰宜の馴れ初めも知っている。季子が不思議な力の持ち主で、それをうまく使っていることと、神社の御祭神たるサキナミノミコトと心通わすことができるということも。
(そうなると、俺にできることは限られてしまうからなあ)
神職とはいえ、不思議な力を持ち備えているわけではない。
住谷にできるのは、真摯に神に祈る事と、宮司が届かない社務をうまくまわすこと。
神に心よせる人と神との仲取り持ちになること。
季子の様子を見ていると、振り向きざまの季子と思わず目が合った。
「何?住谷さん」
「いや、・・・その、無理をされませんよう」
何の無理か。わからないまま、何故かそう口走ってしまい、住谷は苦笑いした。
季子はかけていた眼鏡を少し鼻先に落としかけながら、一瞬、大きく目を瞬かせた。
「無理?はしてないけど・・・」
そう言いながら、苦笑いしている住谷のまなざしがひどく心配していることに気が付いて、季子は何か気づいたかしら、と考える。今、宮司夫妻が抱えている事を。
しかし、話すわけにはいかない。
「社務の事はお任せください。正孝・・・宮司さんが出来ない部分は私達でなんとかなりますから」
住谷の口から出た正孝、の名に、季子は納得した。
住谷は神社で公私を厳しく分ける。
その彼が友の名を思わず出しているということは、住谷が宮司の様子から何か感じて心配しているからに他ならない。
「ありがとうございます。住谷さんがいてくださるので、宮司も私も安心して動けます。」
「何かありましたら、かならず、おっしゃってくださいますよう。私に力になれないことが起きていても、東、家田と、この神社を守ることはできますから」
名前を出された家田がぴくり、と肩を揺らして、住谷を見る。
東は今、出張祭典中だ。
家田は賢しい。住谷の言外に、宮司たちが何かしていることを察した。
察して、いつものように、キーボードを走らせる。
「とりあえず、秋の大祭の案内状はもう配送しますから。さっきの巫女舞の件ですけど、やはり、今年はバイトの巫女にさせましょう。私も裏方に回った方が、何かと動きやすいですしね」
「優秀な巫女長がいて、こっちも安心だわ」
季子の笑みが深くなる。
「実は、ちょっとごたついてることがあって、ここ数日いなかったりするかもしれないけど。よろしくお願いします。秋の大祭前に悪いんだけど、嘉代ちゃんにも伝えておいてね」
「ああ、じゃあ、祢宜さんの言葉として、それを東に伝えれば、少しは社務をやってくれますかね・・・」
住谷は意地悪い表情で、そんな風につぶやいた。
東の神社事務嫌いは周知の事だ。ほおっておけば、宮司夫妻の不在に関係なく、境内整備に勤しんでしまうだろう。
「私がそう伝えます、ご心配なく」
家田が知的な微笑で、にこやかに応え、東のこの数日の勤務状況が予想された。欠席裁判だが、それも仕方ない。
大祭前の社務は忙しい。住谷はノートパソコンを開くと深々とため息をついた。
(大丈夫、だな)
心配はあるが、自分たちはいつもの業務をこなすだけ。
何かあるのは察したが、きっと宮司夫妻の事、大丈夫だ。
祢宜がじゃあ、と言って社務所を出て行く。
住谷は目礼でそれを送り、キーボードをたたき始めた。




