51 変化
ああ、そうですよね~。数少ないブクマ数が減るとすぐわかる。ちょっと最近文章の組み立て方のひどさにさいなまれてます。だから、納得のブクマ減(笑)
とはいえ、それでもおつきあいいただいてる皆様に感謝を込めて。
よろしくお願いします。
将門が封印されている土地、幸手に向かうのは、三日後だ、と皆で相談した翌日にサキナミ様から聞かされた。その日が一番、私に相性がいい日で、魔物とかが動きが鈍る日でもあるらしい。
今日はその前日。実は明日は休日ではない。保護者担当の宮司さんが、神社の重要な手伝いを頼んでいるので、と学校に連絡を入れてくれた。
っていってもね。私、何もできないのに。
祈りの力があっても。サキナミ様あっての事だし。
・・・そう思っていたんだけど。
何か、おかしい。
やたらに見えるのよね。色々。
見えないはずのものが。
いわゆる、精霊とか境界人が。
この幸波神社の区域、つまり、サキナミ様が管理されてる土地はそういう存在はサキナミ様がうまく行き来させているから、本来ならば見えることはないはず、だったんだけど。
そもそも、実家に帰った時かまいたちと会った時に、祢宜さんにはそう言うことが今後増えてくるわよ、と言われていたものの、その後はごくたまに、水辺の水霊をみたり、妖怪のような動物をみかけたりするぐらいで、今、目の前に普通にうろちょろしてるほど目につかなかった。
「なんか・・・いっぱいいる」
「・・・私の領域外からお前の力を慕って、寄ってきたんだろう」
「え・・・?」
サキナミ様が面白そうにこの状況を説明してくるけど、私には困惑しかない。
今、私たちは八百藤にいる。
由岐人さんが、奏史兄さんを手伝って、二人で店に出ている。
私たちの前には亜実さん。
明日出かける前に、安産祈願をしよう、とサキナミ様が来てくれたのだ。
目の前にいる人間体のサキナミ様は、今は、力が十分でない。少し透けた感覚が人でない何かであるのはすぐわかるし、夏のような実体化をもって、外をうろうろできない。
だからか、由岐人さんの中に入って、何やら、ギクシャクしながら、のおいでだった。
色々、言い合いしながら、だったけど、由岐人さんとサキナミ様ってすごく信頼しあっているのは分かる。由岐人さんの前世である、幸実さんとサキナミ様の関係性からも、二人には強い絆があるんだろうな、って思う。
このところ、由岐人さんとサキナミ様がべったりだったのは、サキナミ様が少しづつ、力を由岐人さんに渡していたからだったらしく、由岐人さんも以前に比べて、色々見えるようになったり、感じるようになったりしているみたい。
「葵はあさの記憶を少しずつ完全にしているだろう?桔梗姫の事を思い出したことで、本来持つ力が目覚めているんだ。力、というよりは資質、だな。お前のその素直な祈りの力に添って、精霊たちが力になろうとするんだ。神様にも祈りが届きやすい。ほら、亜実の手を握って、祈ってごらん」
サキナミ様に促されて、亜実さんが私に手を差し出す。そっとそれを握って、亜実さんの体とお腹の赤ちゃんの事を祈らせてもらった。
じんわり、と体中に何か熱のようなものが走っていく。
わかる。何かの力が通り抜けていくのが。
これが、神様の力?
なんだろう。今までも何度か祈ってお願いをしてきたときに、体の中が温かくなって、何かが通り抜けているのはわかっていた。集中的に感じるのは、祈りを込める手先だけ、だったんだけど。
それが今、体全体を遮るものがないような状態で流れていく感覚がある。手のひらいっぱいの・・・いや、腕、ううん、体全体から、亜実さんを慈しむ神様の力があふれていく。
「あ・・・なんだか、あったかい、ね」
亜実さんが何か感じたのか、そう言った時、脳裏に赤ちゃんの姿がふっと浮かんだ。
(この子だ・・・5日後に生まれるんだ・・・)
何故かそんなことを悟って、私はサキナミ様の方を見た。これも、私の資質に関わることなのかな。
サキナミ様はゆっくりと微笑んで、私に頷いて見せる。
「お前も見たか。亜実の子を。そう、5日後で生まれてくるな」
サキナミ様の言葉に亜実さんが目を丸くする。
「そう、なんですか?」
「奏史に言って、前後二日も入れて店を休む段取りを取っておいた方がいい。・・・朝方だ、病院に行くのは。仕入れも休むことになるだろうし、今から話しておくがいい」
「わかりました、ありがとうございます」
亜実さんは嬉しそうに微笑んで、お腹をなでた。元気に生まれてくるといいな。
「葵、神様の力を感じただろう?いつもより多く」
サキナミ様が、私を覗き込むようにして、尋ねる。
「はい。」
「神様が与える御守護の力はいつも同じだ。多くなったわけじゃないんだ。」
「?どういう、ことですか?」
言われてることがわかりかねて、私は首を傾げた。
「受け取る側、つまり、葵自身の心と祈りが変化したから、受け取る分が増えたんだよ。わかる、か?」
ううん、すいません、わからない。
私がハテナマークだらけの思考になっていると、サキナミ様は笑った。
「今まではお前さん自身にあったこだわりや、癖なんかが壁や邪魔になっていて、神様からの御守護が流れているのに、いただけてない部分あったんだよ。それが、あさの記憶に目覚めた事や、お前さん自身の人を想う心が、そのまま神様の力を受け取れるような、邪魔のない、素直な祈りにさせたんだ。これは大事なことだよ」
う~ん、神様の力が通りやすくなったって事なのかな。これはもしかして、浄化に役に立つんだろうか。
でも、私・・・何か変ったのかな。
あまりどう、祈りが変わったのか、正直よくわからない。
あさ、の事を思い出しても、それが影響してるのかどうかとかもよくわからない。
でも。だんだん、あさ、が近づいてる気がするんだ。
前世の私も、今の私も、どちらも私だと。別の存在だけど、私自身なんだ、と。
複雑だけど、そんな感じで、私は記憶の中のあさの存在に馴染んでいってはいる。
『ねえ、葵』
(え・・・?)
よく知ってる声、がした。初めてなのに。
私の中から私に呼びかけている声に、私は全身が震えた。嫌な震えではない。
ついに、来た、という感じの、待っていたんだ、というような気持ちが沸き上がる。
「・・・あさ?」
思わず、私が口走ると、サキナミ様と亜実さんが怪訝そうな顔で、こちらを見てきた。
『そうよ、あさ、よ。ありがとう、葵。私を受け入れてくれて』
「え・・・?」
頭の中に響く声と共に、脳裏に見覚えのあるような、着物姿の女性が浮かんだ。
・・・あさ、だ。
『ずっと、あなたの記憶の中でウロウロしてたんだけど、ごめんね。やっと前世の私を自分として見てくれるようになってくれて、すごく嬉しいの。お陰で、あなたに私の力を渡せたわ。もう、私はあなたの中でゆっくり休めるから。どうか、とうさまを、浄化してあげて』
「あさ?」
『精霊様・・・今はサキナミ様って言うんだよね、会えてうれしかった。』
あさの言葉に思わず、サキナミ様の方を向く。サキナミ様が優しい顔で私の方を見つめていた。
あ、今、これ、あさを見てるんだな。
『幸実さまにも思いがけずに会えたし。由岐人さんと仲良くね、葵。・・・じゃあ、おやすみなさい。とうさまのこと、くれぐれも、頼みますね』
「あさ!」
『葵、ありがとう』
私の中の前世のあさは、そう言うと脳裏からしゅん、と消えていった。あさの知りうる事柄や、事情を私の記憶に残して。
悲しいとか、寂しいとか、そういうのと違うはずなんだけど・・・
私は涙が止まらなかった。




