49 もう一つの桔梗
今年の初始動は、短めです。リハビリしないと。
今年もよろしくお願いします。
休んでいる間に評価が増えたり、ブクマが増えたりして、びっくりしました。
ありがとうございます。
こちらにお寄りいただいている方に、ブクマしてくださっている方に感謝申し上げます。
では、ではよろしくお願いします。
「桔梗紋・・・か」
私はさっき、かまいたちが描いていたように、宙に例の星型を描いてみた。
有名な、晴明の紋、だ。
それは分かっている。晴明神社の写真を見た事あるし、漫画でも読んだことがある。
でもなんだろう、なんか、魚の骨が喉に引っかかっているような、妙な感覚。
・・・何か、忘れてる。大事な事、なんだろう、桔梗、桔梗紋・・・えっと・・・。
「お~い、せっかく送ってあげてるのに、難しい顔して考え込まないでくれないか」
由岐人さんの間延びした声に、私ははっとして、我に返った。
「ごめんなさい、ちょっと考え事を」
「さっきのこと?」
「一人で考えても仕方ないですよ、私たちにも共有させてください」
あれから、一旦解散して、私は八百藤に向かっての帰路を歩んでいた。
由岐人さんが送ってくれると言ってくれ、また正歩君が、亜実さんへの退院祝いを祢宜さんに持たされて、三人そろって歩いている。正歩君は、タブレットを片手で見ながら、何か調べ物をしている。
「共有させて・・・ってもね・・・。私が感覚で、なんか足りないなって思ってるだけの事だから」
「何か、引っかかることがあるんだ?」
由岐人さんが、私の顔を覗き込む。ちょ、ちょっと近いですよ~。
「感覚で思ってることがあるなら、教えてください、なんたって扇の巫女なんだから、そういうのも大事でしょ?」
ああ、晴明ゆかりの美少年に言われてしまった。そういうものなんだろうか。でもなあ・・・。
「う・・・ん、いや、ちょっと思ったの。桔梗紋って聞いて、別の大事な何かを忘れているような気がして」
「結界の紋のことじゃないのか?晴明の」
「・・・いや、だからね、その晴明の部分で覆われちゃって、忘れてるところがあるっていうか・・・でも、ごめんなさい、ちょっと思っただけだから」
そう、そうなんだよね。晴明の紋、じゃなくて、別のこう、なにか大事なことで、桔梗が関わる事があったような・・・気がするんだよね。
なんだっけ・・・。
「さっき、かまいたちさんが引いていた場所と地図とで確認したんですけど、封魔の場所は、埼玉県になりますね・・・幸手市、かな」
分からないまま、気まずい私をフォローするように、正歩君が違う方向から話を振ってくれた。
うう、ほんとにごめんなさい。
「調べたら、ありましたね。ここにも将門の首塚が」
「へえ、じゃあ、そこなのかな。」
「どうでしょう?まあ、目安にはなりますね、かまいたちさんは行ってたみたいですし、また確認して聞いてみましょう。」
正歩君がタブレットを操作して、その首塚の写真の様子を見せてくれた。戦いに敗れた将門の首を愛馬が運んできた、とある。
・・・馬。
なんてことはない、その馬、という言葉に何かが動き出す感覚があった。
!!
目の前が一瞬にして真っ暗になり、私は頭痛を感じて、うずくまった。
馬、馬に・・・私も乗っていた・・・。そんな考えが何故か頭の中に浮かんでくる。
途端に、私の脳裏を荒々しい馬が駆け抜けていく映像がよぎった。
炎に囲まれた中から、馬がそれを飛び越えるようにして走っている。
誰か・・・乗ってる・・・・。
・・・朔夜様!?師匠?抱えられているのは・・・・私?あさだ。まだ赤ちゃんの・・・あさ、だ。
どうして。
『あさ・・・・!生きて!』
馬が飛び出してきた炎の中から、傷つきよろめく、美しい女性の姿がある。
・・・ははうえ、さま?
『桔梗様!必ず、必ず、あさ様はお守りします!』
師匠が振り向きながら、その女性に叫ぶ。
『・・・頼みます!朔夜殿』
桔梗様、と呼ばれた、その人はそう言うと、そのまま倒れた。周りを火が覆いつくしていく。
ああ・・・
母上様。
私は・・・あさは、初めて貴女を見ました。
そして、思い出しました。
なにゆえ、師匠が孤児の私を連れ歩いて、結界の清めの旅に出ていたのか。
清めていた、のもあるけれど、私が祈り、慰霊するのが大事だったのだ。
この土地を広く守り、散っていった人たちを慰霊する力が、私にはあったから。
私が祈れば、その霊が穏やかに凪いでいくであろう、と晴明様がはかってくれたのだ、と師匠は言っていた。
私は・・・将門と桔梗姫の娘だったから。
そうか、ひっかかっていた桔梗の名は、これだったんだ。
私は、我に返ると頭を上げた。両目から涙が零れ落ちていた。
ぎょっとしたような顔で、由岐人さんがこちらを見る。
「大丈夫か。・・・何か、思い出したのか?」
「うん、とても大事なことをね」
私は涙をふくと、由岐人さんと正歩君を安心させるために、笑った。




