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48 覚悟

こちらに読みに来てくださってる方に感謝をこめて。

年内最後の投稿となります。

私は年末年始ずっと休みのない運命なんです。もうかなり前から。

仕事変わっても結局元旦って休んだことないですしね。

今年はお付き合いいただき、ありがとうございました。また来年、よろしくお願いします。

『残り三か所の結界の木の事だが』


かまいたちが、半紙を広げ、筆でするすると桔梗紋を描いた。

小さい硯石が用意されていて、器用に使っていく。

かまいたちって、よく手先だけ、人間の五本指の形に変化させて、上手に使うんだよね。


『ここが、サキナミの欅、そして、そちらが下総の抱節殿の場所、その上が常陸の桜、向かいに秩父の柳、てっぺんに下野の杉、という配置になる』

「で、状況は?」


祢宜さんがそれを見ながら、メモを始める。


『サキナミの欅は現況どおり。抱節殿は、もう竹林を伐採されてしまったから、今ここにいたるが、居られた場所に、何か術を・・・かけられてるな?』

『いかにも。まあ、簡単な魔除けだ。結界を破るきっかけを防ぐぐらいの力しかないがな』


抱節さんは、綺麗な長い黒髪をゆっくりと揺らした。光の具合で緑色に輝くようなつややかな髪。

いや、この人、ほんとに綺麗。

表情があまりないから、冷たい感じがするけど、精霊ってそもそもこんな感じが普通なんだろうか。

サキナミ様、って人間くさいから、なんか新鮮。


『そういうことだ、で、常陸の桜だが、こちらは近年水害があった為に、もう無くなっている。どうやら、ここの精霊殿は自らが消えるのを察して、近くの古墳の岩に守りの祈りを込めていったようだが、今のところ、かの地を守る力が微力ながら、残っているような状況だな』

「じゃあ、形だけ、のようなものか」


由岐人さんが腕組をして、その図を見つめる。サキナミ様が、その頭にひょい、と乗り、同じようにその図を見下ろしている。


『秩父の柳。これは台風で、折れたために最近、伐採された。一応相応しい若木が近くにあって、継承はしてるが、十分に力が伝わらなかったようで、現在、結界に関して言うと、半人前の感じだな。一応、近くの川の水霊と共に、その土地を守る為の役には立っているのだが・・・』


かまいたちは、苦々しい感じで語り続けた。状況はあまり、よくない。

結界として、形ばかり残っているだけのような気がする。

こんな中で、もし、本当に結界が破られて、将門が出てきたら。私達だけでなんとかなるのだろうか。

危険な事とかないんだろうか。


『そして、下野の杉だが。これは結構元気だ。信仰の強い土地柄かな。都会と違い、祈りが届きやすい。宿る杉の木の代替わりはしているが、多分、一番力があるかもしれないな。だが、近いうちに土地開発の予定があって、伐採されるかもしれないようだった』

「・・・・ねえ、かまいたちさん」


正歩君が、何やら難しい顔をして、かまいたちに声をかけた。


「桜は、近年、水害にあったって言ったよね。柳も最近の台風、そして杉も近いうちに伐採・・・サキナミ様の欅は時期的に年を越しすぎている。そして、抱節さんもそんなに過去ではない時に、伐採されたんだよね?」

『そうだな』

「おかしくないですか?そんなに立て続けに、皆、弱ったり、無くなったりするものなんですか?」

「そういえば、そうだね」


思わず私も同意する。一本くらい、真っ当な状態で残っていてもよいのに。


「試されているのかも、しれないわね」


祢宜さんがぽつり、と言った。


「どういうことですか?」

「古来、人間は自然界と、境界人とうまく共生することで、土地に馴染み、生きてきたわ。だからこそ、こういう形の結界が成せたのだと思うの。でも、今はどうかな。好き勝手に自然界を使い、境界人の存在も見えていない。その状況下で、それぞれの地に息づくのは難しいはずなのよ。」

「その難しい中に人間の知恵や技術が駆使されているわけだけど、本来はそこに生活するのもおこがましいって事かな」


宮司さんが祢宜さんの言葉を受けるように、つなげる。祢宜さんは頷いて、続けた。


「神様が、試しているような気がするの。こうして、結界の木が喪失の危機を迎えている中で、人間がどう動くか。無論、結界をしいてからの年限もあったと思うのよ?でもタイミングよく、神様がその時期を選んで、私たちに問いかけているような気がするわ」

「季子はわかってるな・・・そういうところもあるかもしれない」


サキナミ様が由岐人さんの頭に乗ったまま、頷く。

どうしたんだろう。今日はなんだか由岐人さんにずっと引っ付いてる感じがするけど。


「結界が破れるのは時間の問題でしょう?それも踏まえてなら、私たち自身もどうするかを考えないと」


正歩君がどうする?とばかりに体を乗り出した。

本当だ。何をどうしていいのか、正直、私には何もわからない。

私はサキナミ様が何を言うかと、そちらを見つめた。


「今、守れる場所を引き続き守っていける柳、杉には、出来うる力で、より堅固に守りを固めるように伝えよう。こちらとしては、季子と正歩に結界の補強を頼みたい。それから、葵!」

「はい!」


突然呼ばれて、びくん、と背中が伸びる。


「転生した清き魂を持つお前に、封魔の場所の浄化を頼みたい。桐原と共に」

「え?」

「俺!?」


思わず私は由岐人さんと目を合わせた。変わらず、サキナミ様は由岐人さんの頭上から、こちらを見ている。

清き魂って・・・どういうこと?

聞こうかと思った矢先に、スマホの着信が鳴った。


「あ・・・」


思わず手にする、と奏史兄さんからの電話だった。今日は私たちが八百藤を手伝えないので、午後は早めに休みにする、とその分で、病院に行って、妻孝行をするんだと言ってたんだけど、どうしたんだろう?

まさか、亜実さんに何かあったんじゃ・・・・。

大事な話の途中だけど、私の困惑した顔に、察してくれたのか、サキナミ様は、電話に出ていい、と合図をくれた。おずおず、と鳴り続ける電話に出る。


『葵か?まだ神社なのか?』

「う、うん、ごめんね、何かあった?」

『亜実が退院できたんだ!』

「え?」


退院?そっか・・・良かった。もし調子が悪いのが続いたら、このまま出産まで入院し続けてって話もあったから、ちょっとほっとする。


『ちょっと退院手続きで手間かかるから帰り遅くなる。』

「わかった」

『葵、亜実は退院するけど、出産予定まで、安静に過ごすように言われてる。またいろいろ面倒かけるけど・・・店の事とか、手伝い、頼むな』

「面倒なんて言わないで!私はしたいことするだけだから!大丈夫だよ」

「俺もいるから、大丈夫ですよ」


由岐人さんがスマホのそばで、奏史兄さんに聞こえるように語り掛ける。


『おう、桐原君か、あてにしてるよ、ありがとうな』


奏史兄さんは嬉しそうに応えると、そのまま電話を切ってしまった。


「すいません、話の途中で」

「亜実、退院できたんだな、よかったな」


サキナミ様が嬉しそうに目を細めた。

その表情を追って、宮司夫妻の顔も和み、優しい空気が流れた。

亜実さんの笑顔が浮かぶ。

もうすぐ赤ちゃんも生まれるんだから。もっと家族が増えて、もっと大好きな人たちが増えるんだから。


守りたい人がいる。

大事な人がいる。


これから生まれる命と、この土地に息づいてく命と・・・。

大切にしたい、守っていきたい。

私は大きく息を吸って目をつむった。

何ができるか、わからないけれど。それでも私にできることがあるのであれば。


ゆっくりと目を開くと、私の様子を心配した表情で見る由岐人さんや宮司さん達の顔があった。

みんな、私の大好きな、大切な人たちだ。

これを守るために、私に、出来ることがあるならば、やるしかないじゃない。


「・・・私は、何をしたらいいですか?」


サキナミ様に尋ねる。

覚悟はまだできてない。でも、大切にしたいもののために、これから覚悟を作る。

サキナミ様の目がすっと緊張したように見開いた。


「私は桐原と同化する。そのうえで、共に封魔の場所に参ろう」


由岐人さんが、頭上のサキナミ様をつまんで、目の前の机の上におろした。

その扱いに、少し、苦笑いをするようにして、サキナミ様は由岐人さんを見上げる。


「本当にやるのか、サキナミ様。あなたは、それで、本当にいいのか?」


由岐人さんが険しい顔でサキナミ様の顔を凝視していた。


「やる。この愛しい土地を人々を守るために、必要なことだ」


サキナミ様が手を合わせ、ふわっと、宙に浮かんだ。そのまま私の前に来て両手を私に差し出す。


「葵、少し力を送ってくれ。扇の巫女の祈りの力を」


言われるまま、私はサキナミ様の小さな両手を、私の両手でそっと握りしめた。

何か温かな空気が行きかうのを感じる。

そうだ、サキナミ様に会ったばかりの時、こうして、サキナミ様の本来の姿を見たんだった・・・。

そう思って、顔を上げれば、目の前にいた、小さなサキナミ様は、あの夏祭りの時の美しい御方様になっていた。


「サキナミ様」

「ありがとう。葵」


ふんわりと笑う姿が、何故か透き通って見える。夏の時はしっかりと実体化していたのに、これって、なんだか消えてしまいそうな・・・。

私が不安げにその姿を見上げていると、由岐人さんが、そっと肩に手を置いてくれた。


「大丈夫だ、俺たちにはやれることがある。サキナミ様がいてくれる。」

「・・・はい・・・」

「桐原の言うとおりだ、大丈夫」


サキナミ様がもう片方の肩に手を置いてきた。

私は、両肩に載せられた温かな手を受けて、静かに覚悟の気持ちを作っていった。





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