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47結界の封じる物

細々と書き連ねておりますが、寄ってくださる方とブクマしてくださってる方に感謝を込めて。

どうぞよろしくお願いします。

朝、学校へ向かう前に私は神社に立ち寄った。


「おはようございます、葵さん」


本殿に向かう前に、正歩君に声をかけられて、振り返る。制服姿の正歩君と、その背後から、宮司さんがこちらに歩んでくるのが見えた。


「おはようございます、宮司さん、正歩君」

「おはよう、葵ちゃん。日参ご苦労様。昨日、こちらで預かった龍笛だけどね、わとに連絡しといたから、こちらで買い取るよ。後で替わりの笛を寄贈することにしたから、雅楽部のお友達にそう、伝えてくれないかな」


おっと、そういうことになったのね。まあ、今後の事考えると、あれはこちらにあった方がいいだろうし、竹の精霊さんも、久しぶりの晴明所縁の人と離れがたかったりするだろうし。


「そうですか。あの、夕方、またこちらに寄らせてもらってもいいですか?ゆ・・・桐原さんもこちらに来ることになってるんですけど」

「ふうん・・・昨日の事に関係するのかな?」


宮司さんは正歩君の方を見る。それを受けて、正歩君は頷いてみせた。


「葵さん、僕たちも、同席してよいですか?多分、母も知りたいと思いますし。もし込み入ったことになるなら、父にも知っておいてもらいたいので」


うん、そうだね。いっぺんに話済ませた方がいいよね。情報は共有しないと。

私は快諾した。多分、由岐人さんもそう考えるだろう。


「じゃあ、私、本殿参拝したら、学校行くんで」


話を済ませて、私はサキナミ様に会いに向かった。

本殿で参拝していると、かまいたちと、サキナミ様がひょい、と顔を出す。


「おはようございます、サキナミ様、かまいたち」

「おはよう。昨晩、桐原から聞いた。今日、東桔梗の話をしよう。」


由岐人さん、あれから、こっちに寄ってくれたんだ。

由岐人さんの名前が出て、ふと、昨日の会話を思い出す。

そうだ、欅を見せてもらおう。

サキナミ様に頭を下げ、本殿裏にある欅の太い木を見に行く。かなりの老木だと聞いていたけれど・・・。

そびえたつ堂々としたその木に、思わず、息を呑む。これがサキナミ様の源、かあ。

今まで結構通ってきてたのに、ここまでいきつかなかったな。

夏の祭り前後にその姿を見せていた、サキナミ様の大きな方の姿が瞼に思い浮かぶ。

まるで、あの気高い姿がそのまま、木になったような、そんな雰囲気を醸し出している欅だ。


『立派だろう?』


かまいたちが、ふわふわと私の足元を浮遊している。


「うん、立派だね」

『しかし、もう枯れている部分があるんだ』

「・・・そう、なんだね」

『この木は、サキナミが宿れるようにした3代目の木だ』

「!そうなの?」


それじゃあ、新しい木があれば、サキナミ様が消える心配とかなくなるんじゃ・・・。

思わず、期待を込めて、かまいたちの方を見ると、かまいたちは察したのか、頭を横に振った。


『残念だが、次世代に相応しい木はもうここに植生できなくてな、サキナミと魂の所縁ある桐原が、力を受け継ぐことになったというわけだ。人に力を受け渡した後、サキナミがどうなるか、正直わからぬよ』

「そんな・・・」

『サキナミは気にしてないがな。・・・気にしてほしいところだな』


かまいたちは頭をうつむかせて、少し寂しそうな表情をしているように見えた。


「・・・ねえ、竹の抱節さんみたいに、この欅で何か作って宿らせたりはできないの?」

『難しいな・・・木自体が弱っていて、そこにすがれるようなものが作れきれないだろう』

「そうか・・・」

『ほら、もう学び舎に向かうんだろう?遅刻するぞ』

「あ、う、うん!」


まだ時間はあるんだけど。ちょっと無理やり話を終了された感がある。

なんだかかまいたち、話してるのが辛そうだったな。

それこそ、ものすごい年月の間付き合ってきた友人なんだろうし。

でも。

私だって、サキナミ様が完全に消えたりするのは考えられない。

ずっとそばで見守ってくれてると思ってる。

由岐人さんの中に同化しても、祭りの時のように振る舞えるんじゃないかって考えてしまう。

でもそれは、完全に同化してないからできたことだ、と前に聞かされたんだ。

やだな。嫌。

いなくなるなんて、そんなの、考えたくないな。

石造りの鳥居をくぐり、奥の本殿を振り返る。


『行っておいで、葵』


サキナミ様の優しい声が頭に響いた。


「行ってきます」


私は神社前のバス停から、学校に向けて出発した。




*****



学校では、龍笛の所在について、わと先生が雅楽部に話をつけてくれたみたいだった。

結子が、ご機嫌な顔で、龍笛と舞に使う高麗笛という笛をセットで寄贈されるって話があってね、と私に説明してくれた。

それって幸波神社からだよね・・・。結子に聞くと、龍笛は結構いいお値段はするらしい。

プラ菅は1万円以内で買えるものが多いが、本管は最低でも6万近くするとか。

高麗笛と言う笛はそれよりも小さいけど、やはりそれなりにするみたい。

うむう、必要だったとはいえ、宮司さんも太っ腹だな。

元々あった、龍笛に精霊がついてたとかの説明はされてないから、雅楽部も、あの竹の笛がよかったらしい、という見解で納得していて、笛が二本寄贈されるという、わらしべ長者状態に、すごく喜んでいるとのことだった。


そんな話を土産話に、私は再び幸波神社参集殿に身を置いていた。

サキナミ様、かまいたち、そして抱節さん、宮司家族の3名と、由岐人さん。そして、私。

本殿前でこの人数で話していては目立つから、と参集殿に集まったのだ。

私たちは今知りうる東桔梗の結界について、お互い話し合った。


まず、サキナミ様は、安部晴明によってこの土地を守るために目覚めさせられた、欅の精霊だということ。

同じように、精霊つきになった木が関東各所に他、4か所あるということ。

サキナミ様を含めた5か所で桔梗紋の結界がひかれている、ということ。

・・・うん、これは昨日私も思い出した記憶の中にあったことだ。

祢宜さんとかは知らない話だから、興味深々で聞いている。


精霊つきになった場所の、その1か所が、千葉の竹林。

ここは竹林の広大さから、手に余ったため、安部晴明の式神で、安部邸の庭園の守りを司っていた、抱節が担当になったらしい。

しかし、伐採され、作られた龍笛の中にその身を置くことになる。


他の三か所についても、かまいたちの調べで、分かっていた。

弱っていたり、伐採されたままになったりして、結界としてはもう力をほぼ失っているらしい。


そして、その桔梗紋の結界の中央に封印されている魔があるという。


「安部晴明がわざわざ、関東まで出向いて作った大きな結界でしょう?かなり厄介なものが封印されているんじゃないの?」


祢宜さんが眉をしかめて、こう言い放つ。


『厄介も厄介だ。当時はその封魔と結界があるからこそ、山の民の侵入もその場にかけた呪詛で防いでいたんだがな』


抱節さんが、答えた。


「お前は知っているんだろう?・・・結界の中央に封されたものを」


サキナミ様が抱節さんに言う。


『・・・・主、晴明自身は当初、封魔に乗り気ではなかった。なぜなら、魔にするには訳アリの存在だったからな。彼らは、朝廷に恨みを抱いていたとはいえ、自分たちと自分の土地を守るために、戦っていたのだから。だから、晴明はその行き場のない気持ちを掬い取り、同じく土地を守る心を寄せた木々で封じたんだ。・・・そうすれば、たとえ魔と化した者でも、いずれ、結界によって、力もほぐれ、癒されていくのではないかという思いがあったんだ。』

『だが、封魔の場所はかなりの邪気で覆われていたぞ』


抱節さんが、話す封魔の話に、かまいたちが口を挟む。


「要は、時も経ち、我らの結界も綻びた中で、汚れた魂や空気が強い魔に寄せられ、新たなる邪気を作り出した、というところかな」


サキナミ様が、小さい体ながら、腕組をして、結論づけた。


「で、そのもともと封じられた魔、というのは結局なんなんだ?」

「朝廷に恨みっていうことは、人が怨霊化してるものとかなんですか?」


これは由岐人さんと正歩君。二人とも真剣に話に入っている。


『封じられたもの、それはな・・・』


抱節さんが、皆の顔をゆっくりと見つめながら、答えた。


『将門殿、だ』


思わず、ごくん、と喉がなる。

将門って、平将門、しかいないよね。首塚で有名な。


「都内の首塚のと違うの?」

『あの首塚はまた首が祀られているのだろう?桔梗紋の中央にあるのは、将門殿の魂よ。無念の塊、だな。主、晴明の目論見通り、結界でほぐれたものがあればと思っていたが、邪気が新たに集まっているのでは、あまりよくない状態だろう』


うわあ、結界、もう綻びてるのに大丈夫なんだろうか。

安部晴明に続いてのビックネームにちょっと驚きだ。

隣では、由岐人さんが顎をトントンと指で叩きながら、何か考え事をしている。

と、抱節さんとサキナミ様の方を見て口を開いた。


「で、それはまた結界を引き直すのか?それともその邪気が集まっている中央部を浄化するのか?」

『・・・浄化、した方がよいだろうな。対応できる木々が揃うまい。浄化、できるかな、今ある我らの力で』


抱節さんはサキナミ様を振り返りながら、答えた。サキナミ様は難しい顔をしたまま、腕組をし、静かにうなずいた。


「・・・どうかな。他の三か所の様子次第だが・・・・」


私はなんだか嫌な予感がしていた。












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