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45 笛に宿る精霊

パソコンの調子が悪くて変な時間の更新となりました。

いつも来ていただいてる方ありがとうございます。

初めての方もありがとうございます。

どうぞよろしくお願いします。

「奏史兄さん、ただいま!今日、神社に配達あるよね?」


荷物を置くなり、私が兄さんに声をかけると、奏史兄さんは驚いたように振り返った。


「おう、おかえり。よくわかったな。まあ、今帰ってきたんだから、着替えて、少し休んでから行けよ」

「うん、着替えたら、もう行く。ちょっと用事ができた」

「わかった。気をつけてな。頼むぞ。3組作ってあるから、持ってってくれ」


さすがに制服で配達はいけないから、私は急いで普段着に着替えた。

雅楽部に借りてきた笛を持ち、いつものように、地鎮祭向けに組んである野菜セットを電動自転車に積み込む。

慣れた坂道をかけあがり、ものの10分で、神社に着いた。

参集殿に野菜を運び込む、と、久しぶりの正歩君がいた。


「あ、葵さん!久しぶり」

「正歩君、こんにちわ。配達なんだけど、ここに置いておくから、あとお願いしていい?」

「うん、それは、いいけど・・・・」


正歩君が不思議そうな顔をして、私に近づく。


「・・・正歩、君?」

「・・・サキナミ様、今、本殿だよね?」

「多分」

「・・・なんだろう?扇の気配?違うな・・・サキナミ様に似た大きな力を葵さんから感じるんだけど」


そっか。正歩君、祢宜さんと一緒で色々感じたり見えたりするんだよね。


「これ、じゃないかな」


借りてきた龍笛を筒ごと差し出して見せると、正歩君は目を丸くした。


「笛?・・・でも、これですね。何か力を感じる」

「かまいたちさん、は知ってるんだっけ?」


かまいたちと一緒に正歩君と話したりしたことがなかったから、一応確認はしてみる。

神社で丁寧な接待をされて、と嬉しそうにかまいたちが話していたことがあったから、知ってるとは思うんだけど。


「ああ、葵さんが実家の方から連れてきた風の境界人ですね。今、うちに来てますよね」

「うん、なんか、この笛に精霊が宿ってるとかで、その精霊と話したいから、持って来いって言われたのよ、うちの学校の雅楽部の笛なんだけど」

「え?じゃあ龍笛ですか?」

「そう。じゃあ、ちょっと本殿行ってくるから」

「へえ、面白い、受験の息抜きだ、私も行っていいですか?」


どうだろ、まあ密談ってわけでもなさそうだし、見える子なんだから、構わないんじゃないかな。

私はそう考えて、正歩君と二人で本殿に向かった。


「葵、来たか」


サキナミ様が本殿の前に出て待っていてくれた。


「サキナミ様、私も興味があってついてきました。構わないですか?」


正歩君が一応許可を取る形で、サキナミ様に声をかけると、かまいたちがふわっと飛んできた。


『正歩、お前も来てくれたのか、じゃあちょうどよい』

「ちょうどよい?」


何を言われているのか、と正歩君が首をかしげる中で、私はサキナミ様たちに促されて龍笛を差し出した。


「これか」

「ここに宿る精霊、って多分、私が手に取った時に力は感じたんですけど、どう会話するんです?」


確かに力は感じるが、それ以上のアクションはない。


『正歩の力を借りよう。おそらく、正歩の力には反応する』


かまいたちが何か知っている様子で提案してきた。

どういうことなんだろう。正歩君と何か関係があるのかな。


「・・・私の?私に反応するってどういうことですか?」

「そうだな・・・正歩、龍笛を吹いたこと、あるか?」


サキナミ様が龍笛の口元をなぞりながら、正歩君に尋ねる。


「残念ながら、ないですね。うちは両親とも雅楽やってないですし」

「じゃあ、音が出ずともよい。この口元に唇を当てて、吹いてみろ」

「・・・・私が、ですか?」


戸惑いながらも正歩君が、おずおずと笛を取り、口を当てた。

わあ、もうもうもう!この美少年!笛を構えただけで絵になるなあ。

思わず見とれてしまったけれど、音はならなかった。

ふううっという正歩君の息遣いだけ。

・・・やっぱり音鳴らすのは大変なんだな。ふと、結子の言葉が頭をよぎる。

だけど、それでも、正歩君が息を吹きかけた事で大きく反応が出た。


「!」


強い力を正歩君の方から感じて、私は思わず、そばにいたかまいたちと顔を見合わせる。

サキナミ様が、正歩君の肩に乗ったまま、その様子を見つめていた。


『笛を手にするのは・・・わが主か・・・懐かしい。この気配、ひさしぶりだな』


ここにいる者以外の声が静かに響き渡る。人の声でないことは、すぐにわかった。

サキナミ様が正歩君の肩に乗ったまま、その背中にすうっと浮かび上がってきた煙のような存在を見上げた。


「久しいの。しばらく下総の竹として務めていたのであろう?晴明殿の式、抱節(ほうせつ)殿」

「相模の欅か、お前、わが主に存在を与えられて、きちんと務めていたか?」


うん?何気に今、さらっとすごい名前出てこなかった?晴明って、まさかあの安倍晴明?

・・・それを主って言ってて、笛を手にしてる正歩君の事、懐かしいとかなんとか言ってなかった?

何を言い出してるんだろう、この精霊さん。でも、形もぼやけてて、どういう存在なのかわかりにくいな。


「正歩、その精霊に抱節、と呼び掛けてやれ」


サキナミ様がそう言うと、正歩君は困惑したような顔をしながら、煙のような霞のようなその存在に声をかけた。


「抱節・・・さん?」


正歩君が呼びかけると、煙がひとところにすうっと集まった。すると、すらりとした長身の男性がそこに立っていた。ものすごい美形だ。若竹色の爽やかな緑の衣をまとっている。緑がかった、黒髪もどこか竹のイメージがある。


『・・・主殿、ではないな。私を呼び、私に形を与えてくれる、主と似た気配の力を持つあなたは誰だ?』


正歩君に近づき、抱節と呼ばれた精霊がつぶやくように尋ねる。


「彼は、山内 正歩。この神社の後継者だ。しかし、その身にわずかだが、晴明殿の血が流れている」

「!?」


正歩君が、は?という顔でサキナミ様を振り返る。

いや、私も、は?って感じだよ。子孫ってことなの?あの安倍晴明の?


「まずは、抱節殿、その昔、そなたの主殿が我らにほどこした術について、いろいろと聞きたいことがある。よいかな」

『よかろう、だいぶ綻びも出ているようだ。何らかの手を打たねばなるまいな』


ううん?なんか込み入った話が始まるかな。

奏史兄さんが病院に行く前に戻らないといけないんだけど。

と、さきほどからずっとそばで様子をみていたかまいたちがふわっと、私の肩のあたりまで浮いてきた。

笛をしばらくそのまま置いていてくれないか、と、かまいたちが、耳打ちしてくる。

早朝返してもらうことを約束して、その場は、私も正歩君もいったん失礼することにした。

正歩君は、ちょっとびっくりな事実を知ってか、無言で私の隣を歩いていたけど。

多分、祢宜さんの血筋の方にそういうのがあったんだろうな、と私はぼんやりと考えていた。

直系でもないけど、なにか関わりができて、そういう力が出てくるっていう・・・。


サキナミ様とかまいたち、何を調べているんだろう。安倍晴明が関わってるって何のことなんだろう。色々と考える事が増えて、私は頭を抱えた。

力になれるかな。サキナミ様たちが何かするなら、協力したいな。

多分、話を聞かせてくれるだろうけど、いったい何が起きようとしてるんだろう。

私は、正歩君に別れを告げると、電動自転車を無心に漕いで、帰宅した。

帰ると、由岐人さんが手伝いに来てて、私はなんだか、ほっとしてしまった。








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