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42 切迫早産

いつもお読みくださる方、ブクマしてくださってる方に感謝をこめて。

お初に来られてる方がいたら、ようこそいらっしゃいました。

どうぞよろしくお願いします。

学校初日を無事終えて、私は帰りに神社に寄った。

お蔭様で、のお礼の参拝ってやつかな。

鳥居をくぐり、境内へ入ると、嘉代さんが境内の草引きをしている最中だった。


「葵ちゃん!こんにちわ」


相変わらず、カッコいい地下足袋と作務衣のスタイル。これに惚れたという造園業の息子がいたとかいないとか、聞いてるけど、その後どうなったんだろう。


「こんにちわ」

「あ、そういえば、今日9月1日!その制服!入学おめでとう!!・・・うん?編入おめでとう、かな」

「ありがとうございます」

「参拝したら、ちょっと社務所に寄りなよ。お茶ぐらい御馳走するから」


仕事してる人にお茶御馳走になってどうするんだ、私。でもこのところ神社でのバイトも地鎮祭のほかしてないし、少しお話でもしていこうかな。

嘉代さんにお礼を言うと、私はそのまま本殿に向かった。


「葵、おかえり」


サキナミ様が入り口で座って待っていた。

参拝を済ませて、本殿の階に座ると、ちょこん、と肩にサキナミ様が乗ってくる。


「どうだった、学校は」

「そうですね、担任は予想通り、わと先生で。クラスメートもよい人がいて。よかったですよ」

「そうか、よかったな」

『久しぶりだな、葵』


サキナミ様と会話をしていると、久しぶりに違う空間を通してしゃべるような声があった。

え?と振り返る。本殿の扉を少し開けて、かまいたちが立っていた。


「かまいたちじゃない!久しぶり。来てたのね」

『元気そうだな・・・ああ、少し色々と回るついでに茨城の方も回ってきたんだ。弟君は元気にしてたぞ』

「寄ってくれたの?ありがとう」

『レンカもカスミンもいい感じで好き勝手してるみたいだ。おかげで、弟君も少しの事では驚かないようになったなあ』


え・・・、それって良いことなのかな・・・。

思わず眉をよせると、かまいたちが、ククク、と笑う。


『お主は本当に弟想いよな。何、あの親父殿が少しへそを曲げるような真似をすると、レンカ達が色々といたずらをするようだ。親父殿、結構こわがりでな、少しお灸をすえると、しばらく大人しくしてくれてるみたいで、弟君ものびのびしていたぞ』


・・・何してるんだろう。レンカちゃん。

まあ境界人の力を使ってすることだから、現実主義まっさかりの父親にはハテナの飛び交うような現象を見せたりしてるんだろうな。

怖がるのも、あの人の性分をある意味、よく分かるようになってからは、分かる気がする。


『またしばらく回ってくるから、1か月ほど会えないが、サキナミを頼む』

「・・・?私の方がお世話になってるんですけど?」


神様の事頼まれてもねえ、最低限の事しかできないし、祈りの力は与え続けてる?のかな。お参りして、お仕えしてればいいって言われ続けているけど。

むしろ、守ってもらえて、いいように事を回してくれているのは、神様やサキナミ様のおかげだと思うんだけど。


と、その時、肩に乗っていた、サキナミ様がふわり、と体を浮かせて、境内の入り口の方を伺う様子を見せた。


「サキナミ様?」

「・・・葵、亜実が来たな。・・・風早、ちょっと失礼する。葵、鳥居の前にいる、すぐに向かえ。」

「え?亜実さんが?」


サキナミ様が顔をしかめてそのまま、浮遊して入口に向かおうとする。

私は何か嫌な予感がして、思わず、走り出した。


「亜実さん!?」


鳥居にもたれるように、亜実さんが体をかがませている。何か状態が悪い感じがする。


「サキナミ様・・・この子を守ってください」


亜実さんが、サキナミ様に気づき、手を差し出す。サキナミ様が、そのまま亜実さんのお腹の所へと飛んで行った。


「大丈夫だ。体を楽にしなさい。・・・葵、奏史に連絡を。それから、宮司に言って、念のため、救急車を呼んでもらおう」

「え?亜実さん、大丈夫なんですか!?」

「・・・ちょっと無理したな。大丈夫だとは思うが、動きすぎだ。お腹の張りがだいぶ強い。まだ産み月にあと1か月あるだろうに、生まれてしまうかもしれないぞ」

「・・・え?」


私が驚いて固まっている所に、嘉代さんが走り寄ってきた。


「亜実さん、どうしたの!大丈夫!?」

「なんか、お腹の張りが強いらしいです。宮司さんに言って、救急車呼んでもらえませんか?」

「わかった、大丈夫、藤野さんとこにも連絡しとこうか?」

「お願い、します」


亜実さんが苦しそうに、お腹をさすりながら、嘉代さんに応える。


「葵、両手をお腹にあてるんだ。祈ってくれ。亜実も一緒に体の無事と赤ちゃんの無事を祈るんだ、できるな」


サキナミ様が私と亜実さんにそう呼びかけ、自らは、私が亜実さんのお腹にあてた両手に重ねるように自分の小さな手を重ねた。


「ごめんね、葵ちゃん。・・・今日健診日だったんだけど。病院に行く前にお参りさせてもらおうと思ってたら、急にお腹が張っちゃって。」


亜実さんが少し荒い息をしながら、そう話す。

私は大丈夫、と安心させるようにうなずいて見せると、目を閉じて祈った。両手が熱くなる。

どうか、お守りください、亜実さんと、赤ちゃんをお守りください。

ああ、何かが流れ出ている。両手の先がじんわりする。

神様、ありがとうございます、どうか、お願いします・・・・。

ふと、目を開けると、亜実さんがすうっと寝入っていくところだった。


「亜実さん?」

「大丈夫だ、休ませなければならない体だ、神様の力は亜実と子供のことを守っている。私の力で亜実を眠らせた。あとは救急車を待とう」


救急車より早く愛妻家の奏史兄さんが着き、気を失ったように寝ている亜実さんに心配そうに付き添った。サキナミ様が大丈夫だと言っている話を奏史兄さんに伝えると、安心したように亜実さんの頭をなでながら、救急車を待っていた。

やがて救急車が来て、亜実さんは、奏史兄さんがつき添ったまま、運ばれていった。


診断は「切迫早産」。

働きすぎ、動きすぎで少し早産になりやすくなってしまっていたらしい。

亜実さんは、そのまま入院することになった。


安産のお願いしてたのに。

助けてもらっていながら、そう愚痴ったのは許してほしい。だって心配だったから。

でもそれを聞いていたサキナミ様がゆっくりと笑って、答えた。


「だから大難を小難にしてもらったんだよ。もしお願いしてなかったら、あの場に葵と私が揃って祈れる事も出来なかったかもしれない」

「そうですかね」

「それに、やはりなんといっても神様は、亜実に休んでほしかったのだろう。きちんと休んで自分の体と赤ちゃんと向き合う時間を与えたかったのだと思う」


なるほどなあ。少し前、サキナミ様も心配してたものね。亜実さんは真面目に動きすぎるって。

こういう風に神様が体に教えてくれることってあるんだ。


「あとは、お前への試練かもな」

「へ?」

「亜実が八百藤にいないとなると、家事はお前がしたほうがよいよな?」

「あ・・・・」

「編入も無事済んで、お礼を返すきっかけを神様がくれたのかもしれないぞ」

「・・・・」


神様、そうなんですか?いや、掃除、洗濯はがんばりますよ?でも料理は・・・料理は・・・。


「人間、やらなきゃいけない場面に追い込まれると、色々できるようになるようだからな」

「サキナミ様!私が困るの知ってて言ってません?」

「知ってる」


わあ・・・、でもこれって本当に、料理学べっていう機会なのかもしれない。

・・・うう、でも店に出す総菜は少し休ませてもらおう。あれは無理だから!


八百藤に戻り、私がじゃがいもの皮を包丁で剥く様があまりにも恐ろしく、私は早々に奏史兄さんから、ピーラーを買い与えられた。まずは第一歩。

亜実さんどうか、お大事に。そして簡単なレシピ、プリーズ。


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