40 地鎮祭
こちらにお寄りいただけた方、またいつも来てくださる方、ブクマしてくださってる方に感謝をこめて。
「葵ちゃん、じゃあ、私の傍らで控えていて。桐原君が合図したら、施主さん達に、鎌、鋤、鍬をわたしてくれるかな。あとは祈祷と同じように玉串を渡す、で、終わってから献杯するから、そのときのかわらけを皆さんに配ってね」
いきなり巫女バイトが入った、地鎮祭当日。
私は宮司さん、由岐人さんと神社のワゴンに乗り込んで現場に向かっている。
申し訳ないけど、運転はこの中のトップである宮司さん。
由岐人さんはまだ免許をもっていないらしい。
ワゴンには地鎮祭に使う祭壇や、三方、私が持ってきた野菜、そして今、運転しながらの打ち合わせをしてくれている宮司さんの話に出てきた鎌、鍬、鋤などが積まれている。
ワゴンの外側の天井には結界に使うという笹竹が四本、積まれている。
「ま、困ったら、にこにこしながら、立ったままでもいいよ。桐原君が司会しながら、動くから」
「・・・ええ?そこは一色さんに頑張ってほしいんですが」
桐原さんは仕事モードで、私を一色さんと呼ぶ。ちらり、と私を振り返ると、悪戯っぽく笑い、頷いてくる。
「ね、できるよね、一色さん?」
由岐人さん、何気に圧をかけてません?
「・・・善処します、善処しますけど、分かってます?私初心者ですよ?」
「大丈夫、大丈夫、先方は巫女さんが立ってくれてるだけでも、喜んでくれるよ。場が華やぐからね」
「立ってくれてるだけ、とか・・・そんなテキトーな」
「大丈夫だよ、地鎮祭は、しっかりするからね」
宮司さんは満面の笑顔で、運転している。こんな会話聞かれたら、嘉代さんあたりに注意されそうだ。
現場は神社から車で10分ほどのところ。幸波神社の氏子区域ではないが、兼務社といって、宮司さんが別に管理している、普段は神主さんがいない神社の氏子区域になるらしい。
駅から離れた造成地区で、これから住宅やマンションが立ち並んでいくと、バス通りもできたりして、開発が進んでいくのだろう。同じ形をした建売住宅が何軒か並んでいたり、広い駐車場を持ったコンビニがいきなりぽつん、と建っていたりして、これから町ができる、という感じだ。
地鎮祭の場所はマンションが建つ、というだけあって、かなり広い場所だった。
建築会社が用意したような、白いテントが中央に立っている。
車を止めると、由岐人さんが手慣れたように、ワゴンの上に積んである笹竹を下ろして、テントの足の四か所にそれをつけていく。
「一色さん、荷物下ろして、こっちに運んでくれる?」
言われた通りに、荷物を下ろしていくと、由岐人さんが、その中から、細い縄をひとくくり出して、笹竹に結わえていった。あっという間に、四方を縄で囲った笹竹の結界が出来る。
更に、その縄に紙垂、という紙を挟んでいく。紙垂は、しめ縄につける、あの白い紙の事だ。
宮司さんは、その間、現場にいた、建築会社の人やマンションの建て主さんと打ち合わせをしていた。
「じゃあ、次、祭壇を作ろう」
由岐人さんが、下ろした荷物の中で一番大きな折り畳みの祭壇を広げる。それを背面を北にして、設置する。神様が宿る神籬を設置して、三方を並べ、お供えを並べていく。
一方で、宮司さんに声をかけられた建築会社の人が、ひと袋の砂を持ち寄り、そこに砂山を作った。
それが出来ると、由岐人さんはさきほどの笹竹から、笹の枝をひと折して、そこに指した。
「・・・これ、何に使うんですか?」
「そこの鎌、鍬、鋤を施主さん達に持ってもらって、これを土地に見立てて、造成を始めますよっていう模擬を見せるんだよ。その砂山にその道具を入れて、崩して、成らすのをやるんだ。俺が言うから、施主さん達に、鎌、鍬、鋤を順に渡してくれるかな。渡すだけでいいから。最後の方だけどね」
「とにかく桐原さんのいう事、聞けばいいんですよね?」
「そういうこと」
なんだか、知らないことにいきなり突っ込まれて、変に緊張してきた。ちょっと、手が震えてる。
・・・うん?違う。
この暑い中で、鳥肌が立っている。おかしい。
「葵?」
由岐人さんが私の顔を心配そうにのぞき込んできた。
「どうした?顔が真っ青だ」
「・・・由岐人さん、なんか・・・変です」
無意識に袂に入れていた、サキナミ様の扇を握りしめていた。扇が震える。
『葵?』
サキナミ様の声が届く。氏子区域外だけど、サキナミ様の力が届く場所でよかった。
『・・・?そこに何かいるな。葵、扇を持って、目を閉じろ。感じるところに、歩みを寄せて見ろ』
そうか、ここに何かいるんだ。だからこの息苦しさ。変な違和感があるんだ。
このまま地鎮祭を始めちゃいけないって感じがする。
「サキナミ様、葵は大丈夫なのか」
気が付けば、扇を握る手を由岐人さんに重ねて握りしめられていた。
『このぐらいならば、問題ない。何かあれば、お前が守ればいい』
「何かって・・・」
由岐人さんが顔をしかめる。私の顔を見ながら、できるか?という風に目で聞いてきた。
「やらないと・・・このまま地鎮祭を始めたらまずい気がします」
宮司さんは狩衣を身に着けにワゴンの所に行っていた。建築会社の人たちは、地鎮祭の時間を待ちながら、何か工事の打ち合わせのような事をしている。
私は扇を持ち、目を閉じた。
・・・リン・・・。
どこかで音がする。どこ?
・・・リリン、リン・・・。
扇が勝手にその音を辿るように私を導く。扇の力に引き寄せられながら、私は歩き出した。
テントから離れて、まだ土が柔らかく、整備されてる途中のような所に向かわされ、草履の先に泥がつきそうになる。
リンリン…リンリン。
ここだ!歩みを止め、由岐人さんの方を振り返る。
由岐人さんは傍らでずっと私の様子を見守ってくれていた。
「ここ、か?」
由岐人さんがその辺りを素早く見回し、何かを見つけると、私に視線を送った。
「あれ、なんだろうな」
「大きな石っぽいですね・・・?なんか彫ってあるみたいな」
工事で整備された土くれに何か、石造りの塊のようなものの断片が半分埋まりかけて、顔を出していた。
『この地の道祖神の宿り場所だ。まだそこに道祖神が宿ったまま放置されている』
サキナミ様がそれが何たるかを伝えてきた。
「知らないで、工事を進めてきたってことか」
『このまま土地をいじるのはまずい。断りもなく、打ち捨てたのなら、土地が荒れる。工事も事故が起きるぞ』
私たちは宮司さんにサキナミ様の言葉をそのまま伝え、その道祖神の宿る石を見つけた場所を見せた。
「なるほどね、葵ちゃん、お手柄だったね。これでわかったよ、ちょっと懸念事項があったんだ」
宮司さんは何故か納得したように、その石を見ると、建築会社の人を呼び出した。
何やら熱心に話し込んでいるかと思うと、やがて、建築会社の人は慌てだし、工事関係者の人を数名呼んで、その場を掘り起こした。両手で抱えるくらいの石の祠のような物がそこから掘り出された。
「あ・・・」
ふわっと、自分の中にあった圧迫感のような息苦しさが抜けていく。
緊張していた体が解けて、一瞬ふらついたのを、由岐人さんが支えてくれた。
「大丈夫か」
「はい」
石の祠を挟んで、宮司さんが何やら、建築会社の人や、建て主さんらしい人に何か説明している。
やがて、丁寧にその石の祠は祭壇の近くまで運ばれてきた。
お盆中の地鎮祭、は珍しいという。
急遽地鎮祭が決まった、と宮司さんは言ってたけど、もともと地鎮祭をする予定もなかったようだ。
ところが、盆休み前に、工事関係者が事故にあったり、けがをしたり、という事が立て続いたらしくて。なんだ、なんだと不安になっていた矢先に、建て主さんの家族にまでそれが起きて。
何かお祓いをしなければ、という話から、急遽地鎮祭という形で、それを済ませようとしたとのことだったみたいね。
原因はもう明らか。いきなり道祖神の祠を勝手に移動して、しかも放置したんだもの。祟りではないけど、知らせ、しるし、となる事情がおきるのは当然、とこれは宮司さん談。
結局その場で宮司さんが新しい祭文を作り、道祖神様に報告、場所をお移りいただく儀式をして、マンションの土地の一角にきちんとお祀りする約束をさせた。
一応、その後、当初の予定の地鎮祭もして、無事に今日の予定は済んだんだけど・・・。
「・・・葵、なんかいるよな」
もう途中から、仕事な一色さん呼びは消えてしまったけど、色々あったからしょうがない。由岐人さんの横顔に私は苦笑した。
「ええ」
「うさぎ、みたいな精霊?か」
私と由岐人さんは揃って宮司さんの頭にぴょこん、と乗る不思議な生き物を見つめていた。
宮司さんは気づいてないけど、どうも、あの場の道祖神様に一緒についていた土の精霊さんらしい、ウサギ型の子がついてきてしまっていた。
『まあ、害のない境界人だ、正孝は好かれる性質だし、季子も慣れてるから連れ帰っても大丈夫だろう。そのうち、道祖神のところに戻るかもしれないし』
サキナミ様が大丈夫だ、と教えてくれた。
いや、でも。なんか気になる。
宮司さんが、うん?何?と首をかしげると、一緒に頭の上でコテン、と、うさちゃんが同じく首をかしげてる。
それが、なんだか可笑しい。
由岐人さんはツボってしまって、笑いをこらえながら、手を強く握りしめて、その拳を震わせていた。
「どうした?二人とも、さっきから、なんか変だぞ。」
頼む!もうそれ以上うさちゃんとかぶるような仕草はやめてください、宮司さん!
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