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39 制服

いつもこちらにお寄りいただく方、ブクマしてくださっている方に感謝を込めて。

乱文でございますが、お付き合いください。

・・・結構課題が多いな。

八百藤の店番をしながら、私は先日学校から送られてきた荷物の中身を思い返していた。


合格を受けて、新学期に向けて、目下準備中な感じなのだけど。

合格の翌日、宅急便で送られてきた課題の山に、わあ、夏休みが!と今更私は焦りだした。

せっかくの夏休みを満喫しようかと思ってたけど、なかなか現実は厳しい。

浮かれていた気持ちの時間を返して。


ついでに送られてきた部活案内にも驚いた。

いや、でももう2年生だよ?すぐ引退じゃない。

と思ったけど、はた、と気づいた。大学と一貫してるから、他の大学の受験をしない場合は、アリなんだよな・・・・。

どうしよう。吹奏楽部に入ってしまおうか。それとも同好会みたいなので、何か楽しみを作ろうかな。

お金かかるとなると、少し考えてしまうけど。

どうしようかな。


「葵ちゃん、ちょっといいかな」


亜実さんがお腹を重たそうに支えながら、部屋から出てきた。昼休みをとってきたのだろう。まだ少し眠そうだ。


「大丈夫ですか?今、お客さん、そんなに来てないし、もう少し休んできたら?」

「ありがとう、大丈夫よ」


そう言って微笑む亜実さんは、なんだかすごく優しい顔で、「母親」って感じがする。全体的に少しふっくらとした感じになったけど、重ねて、すごく綺麗になった気がする。亜実さん、もうすぐ本当のお母さんになるんだもんなあ。楽しみ。


今日はもう8月の半ば。ちょうどお盆休みの始まりのあたりだ。そのせいか、ぐっと客足は減った。

八百藤は今日は開けているけど、明日から3日間、市場も休みなので、お店も休みになる。

ああ、本当に夏休みだ!・・・でも課題を思い出すとちょっと憂鬱。


「今日、配達あるのよね、神社に」

「ええ。いつものように夕方行こうと思ってますけど」

「今日は多分1組だけで、量も少ないと思うんだけど。ちょっと早めの配達にして、葵ちゃんを寄こしてくれないかって、祢宜さんから電話があったのよ」

「・・・?私に用なのかな」

「多分ね。こっちは今日は大丈夫だから、もう行ってあげて。なんだか、わとさんが来てるみたいだから、学校がらみの事じゃないかな」


わとさん・・・ああ、宮司さんの妹の先生だ!

まさか課題のチェックに来たんじゃないよねえ・・・。


「私、配達行っちゃって大丈夫ですか?」

「奏史さんもいるし、盆休みでこんなに人がこないなら、余裕でしょう」

「わかりました。じゃあ」


人があんまりこないので、奏史兄さんは、涼みに行く~と、車を洗いに裏の駐車場に今はいる。

私は、置いてあった、神社用の神饌物セットの袋を取ると、電動自転車で出かけることにした。


『葵?どうした』


頭の中にサキナミ様の声が響く。


『今日は日参も来たし、配達にも早いだろう』


私が近づいてきたのがわかったんだ。変に心配させちゃったかな。


「祢宜さんに早めに配達に来てって言われたんです。宮司さんの妹さんがいらっしゃるとかで」

『ああ、わと、か。そういえば、さっき参拝してったな』

「用事聞いたら、また伺いますね。」

『ああ、葵、今日は桐原も来てるぞ』


え?桐原さん・・・?

何故にそれをサキナミ様がふってくるのだろう。前世仲間だから?

・・・そういうこと、なんだろうな。サキナミ様的には。

名前を聞いて、少し気持ちがふわっとなった自分がいたことを打ち消すように、そんなことを考えてしまう。


でも、やっぱり、由岐人さんに会えるのは、嬉しい。

こんなこと、私が考えるようになるなんて、なんだか不思議だ。

あさ、だから、とか前世にとか、そういうのを意識したくないと思ってたけど。

私は私で、由岐人さんを意識してるんだと思う。

それが、あさのように、好き、という感情なのか、恋、というものなのかはまだわからないけれど。

仲間意識があるからかもしれないけど、やっぱり、由岐人さんのことを考えると気持ちが温かくなる。でも、それは同じく時を超えての付き合いになる、サキナミ様に対してもそうなわけで。

このことを考え始めると、前世つながりは、なかなか強いな、という結論に一旦落ち着くようになっている。

勿論、この先も考える必要があるんだろうな、とも思う。

由岐人さんの想いを聞かせてもらっているから、それに対して、自分の気持ちはどうなのか、と。


急な坂道を思い切って走りあがる。そして、ふっと力を抜いて、気持ちよい風を受けながら、今度は下っていくと、馴染みの石の鳥居が私を待っていた。

鳥居で一礼して、すぐに参集殿へと向かう。

インターホンを鳴らして、待つと、祢宜さんの声がした。


「葵ちゃん?上がって。客間の方でいいから」

「はい」

「野菜は玄関のところに置いといてね」


言われた通り、客間に行き、待っていると、祢宜さんと、わとさんが揃ってやってきた。


「一色さん、こんにちわ」


わと先生がにこにこと手を振る。


「ごめんね、急に呼び出して。早い方がいいかなってわとちゃんが言うから。今日、お店、忙しくなかった?」

「お盆のせいで、お客さんあまり来なくて。亜実さんが行って来いって」

「そっか。じゃ、ちょっと、これ、見てくれない?」


祢宜さんがそう言うと、わと先生に目配せした。わと先生がもっていた大きな紙袋からクリーニングの袋に入った服を取り出す。


「まだ制服、作ってないでしょ?これ、どうかな、と思って」

「え?え?もしかして杜之の制服ですか?」

「そうよ、サイズが合うといいんだけど」


実はまだ制服は作っていない。お盆明けに来てくださいと、指定の洋装店に言われたのだ。お盆明けに採寸して作れば、今は閑散期だから、2学期には間に合う、と。

聞けば、この制服は、わと先生が世話した、今年度の卒業生からもらったものだという。

よかったら使って欲しいという話で、いただけるのだそうだ。

夏服も冬服もある。それに体操着まで!

早速試着すると、少し大きめだけど、ゆったり着られる感じがするだけで、問題はなさそうだった。


「ちょうどいいじゃない、これ、いただいちゃいなさいよ」

「ほんとに、これ、いいんですか?」


嬉しくて口元がゆるんでしまう。

制服は結構お金がかかる。合格時に渡された制服の案内を見た時、頭痛を感じた。

神社で10日分くらい働かないと出せないお金が必要だった。

もうこの辺りも親には頼らないと決めていたとはいえ、少し先行きが不安になった。

幸い、制服ぐらいは用意させて、と奏史兄さんと亜実さんには言われていたのだけど、それでも頼り切るわけにもいかない。どうしようか、と思っていた矢先のこの幸運だ。

私は嬉しくて、制服を着た、そのまま、感謝の参拝を、と本殿に向かうことにした。

社務所を通り過ぎると、中に由岐人さんがいた。こちらを見て、一瞬驚いた表情をしたけれど、立ち上がって、窓を開けると、手を振ってきた。


「どうしたの、その恰好。杜之の制服じゃない」

「お疲れ様です、由岐人さん。宮司さんの妹さんが、教え子さんからいただいてきたものを下さったんです」

「・・・うん、可愛い」


そう言って、由岐人さんは口元を覆い、そっと私を見る。心なしか、照れてるような表情で、見てる私の方がなんだか気恥ずかしくなってしまう。


「その、嬉しいんで、お礼の参拝してこようか思って」

「本殿に行くのか?」

「はい!」

「・・・今日、俺一人なんだよ。正職員、軒並み休み取っててさ。俺が代行してるの。お参り済んだら、社務所少し寄ってきなよ」

「わかりました」


由岐人さんには、合格に至るまで、お世話になったし、なんかお礼しないといけないなあ。そんなことを考えつつ、本殿に着くと、サキナミ様が出迎えてくれた。


「新しい学校の制服だな。わとが用意してくれたのか」

「ええ。サキナミ様、本当にうれしくて。合格も嬉しかったけど、こんな風に事がうまく回るなんて神様のおかげのような気がして」

「それでお礼の参拝に来たのか」

「サキナミ様と、あとサキナミ様を通して私たちを見守ってくれている神様に・・・」

「うん。そうだな、嬉しいことにそうやって気が付けることが大事なんだ。自分の力だけじゃない、お蔭様で、支えられて、よいことが起きてくることに気が付けるなら、また神さまから思わぬところで、贈り物をいただけるよ」


私はサキナミ様の前で参拝した。

神様・・・ありがとうございます。サキナミ様、いつもありがとう。

こんなに良い風に見守り、事が回っていくなら、ちゃんとこちらも応えなくては。

きちんと勉強しよう。そして、支えてくれる八百藤に感謝して、ちゃんとお手伝いしていこう。

幸波神社に巫女として気持ちを新たに勤めて行こう。


「よい顔をしている」


サキナミ様がそっと私の髪に触れた。

私はすがすがしい気持ちで本殿を去ろうとした、とその時。


「うん?正孝が来るな」


宮司さんがこちらに向かっているのをサキナミ様が感じて、ふいっと社務所の方を見た。

やがて、玉砂利を蹴るようにして走ってくる宮司さんが現れた。


「宮司さん、こんにちわ!」

「やあ、葵ちゃん、似合ってるね、制服。わとにもらったんだろう?あれ、ね、私の妹。」


うん、それは知ってるよ。何気に得意そうに妹自慢?またそういう所が可愛らしいんだけど。


「葵ちゃん、あのさ、明日ね、1件だけ、地鎮祭があるの。このお盆に。急ぎの工事で、どうしても明日地鎮祭やらなきゃいけないんだ」


うん?なんか宮司さんの目がお願い、お願いの状態に入ってきてる?あれ?これは・・・。


「後から分かったんだけどね、結構大きな式みたいなんだよ。マンション建てる地鎮祭らしくて。

一人だけで行くのはあれなんで、桐原君連れて行こうかと思ったんだけどね。桐原君に典儀てんぎ(司会のこと)と副官してもらって、葵ちゃんに、玉串とか地鎮祭の道具を渡す役をやってもらおうかな~なんて」


・・・私が来てるって聞いて、今さっき、思いついたな、これは。


「三人で地鎮祭に行くってことですか?」

「社務所番は祢宜がいるし、大丈夫だよ、ね、いいでしょ?」


そこは、行ってくれないかって言って欲しいんだけど。なんでか、バイトにお願いする仕方が間違ってんだよなあ、この宮司さん。そこがまたいいんだけど。

で、もう決めちゃってるから、多分断れないんだよね。まあ八百藤も休みだから断る理由もないかな。私が、苦笑いしながら、頷くと、宮司さんは、じゃあ、祢宜に話してくるね、と嬉しそうに去っていった。


「相変わらずだな、正孝は」


サキナミ様が面白そうにそれを見送っていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。ああ、夏休みでまだもたつきますね。早く新学期に入らなければ。

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