表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/113

社務日誌10

久しぶりの神社長男、正歩回です。

いつもお寄りいただける方、ブクマしてくださっている方に感謝申し上げます。

どうぞよろしくお願いします。

夏休み。

8月は、神社は閑散期だ。職員達も交代でまとまった休みを取る。

宮司家族も、職員達の休みの合間に、出かけたり、旅行を計画したりする。

しかし、今年は一応、しないことになった。

長男、正歩の受験を控えているからだ。


たかだか2日、3日休んだところで何も変わることはない、と考えているのは、宮司一家そろっての感覚なのだが。実は、なんとなく空気に呑まれたところがある。正歩は学校で、クラスメート達が軒並み自粛する風を感じ、なんとなく申し訳ない気になった。正歩から、今年の夏は旅行はいいのじゃないか、と両親に提案したのだ。


「う~ん、じゃあ、合格祈願旅、で天満宮行くのは?」


宮司の正孝はお出かけが大好きだ。提案されてもめげずに食い下がる。


「うちで合格祈願すればいいじゃない。こないだ葵さんにだってやったんでしょ」

「そうか~じゃあ、鎌倉の八幡様は!?」

「・・・だから、なんでそこで他力本願なの?」


他力本願の使い方が・・・とも思うが、正歩は呆れて、突っ込んだ。

一応、理解はしている。父親が、受験という重い空気を祓うように、言ってくれてることも。


「しかしなあ、まさか正歩があ~んな進学校を志願するとは思わなかったから、こっちも構えちゃうよ」


これは本音だろう。正歩は思わず肩を竦める。

言い方はのんびりとした、父独自のものだが、心配してくれていることはヒシヒシと感じる。


正歩は神社推薦を受けて試験もできる、杜之学院高等部の受験をやめた。

推薦枠を外れて、一応、一般受験は滑り止めで受けるつもりでいる。

正歩が目指すのは県内でも数少ない公立の進学校だ。杜之学院よりはるかに偏差値も高い。

でも、目指す価値はある。

正歩は、医師を目指す、と両親に伝えた。そのための学力の高い進学校を受験校に選んだのだ。

もし、落ちたら、杜之学院の一般受験で入学し、高等部から、別の大学の医学部を目指したい、とそういう話もした。

推薦枠で高等部を受験すると、併願はできない。それゆえの一般受験のすべりどめだった。


「杜之だって、お父さんの頃は高等部なんてなかったのに。私は苦労して受験したんだけどなあ。それを正歩はすべり止めって言っちゃうんだもんなあ」


正孝が少し拗ねたように言うも、目元は楽しそうだ。そばでお茶を入れていた季子がクスクスと笑いだした。


「まさか医者になりたいなんて思わなかったわ」

「言っとくけど、神主の資格も取るからね。明階が難しくても、正階か直階は取るんだから」

「わかってるよ」


宮司夫妻は目を見合わせて、微笑みあった。


神職の資格は5段階ある。まず、長年勤めることで得られる、名誉階位の浄階、それから明階、正階、権正階、直階と続く。


明階は有名な大きい神社の宮司になれる資格を持つ階位だ。神職資格の取れる大学を出て、研修をこなし、数年神社に勤めれば、もらえる。東 嘉代が卒業した、京都の神職養成所も同じように明階がとれる。


それより下の階位は神社推薦を受けて、約1か月の講習を受ける形で取ることができる。

無論、大学卒業、短大卒業の資格は必要だが、直階に関すると、大学在学中に取得することが可能だ。

また、いきなり正階をとることはできず、その前の階位の取得が絶対条件となるため、神職資格の取れる大学を出ずに、できるだけの高位をもらおうとするならば、最低三回の講習を受けなければならないのだ。

そして、正階があれば、幸波神社などの民社であれば、宮司になる資格はある。


ちなみに、杜之学院の大学を出ている正孝は明階をもっており、季子には正階の資格がある。


「ま、医学を志すって言えば、反対はされないでしょ」

「あら、正歩がどんな道を選んでもお父さんもお母さんも推すつもりでいたけど?」


心外だ、と季子が言うと、正歩は笑った。


「勿論、それはそうだよ。周りがさ、神社の息子が・・・って言うじゃない。でも上を目指してたら、そんなに言われないかなって気はしたんだ。ま、医者になりたいのは本当だけどね」

「お前はまだいいよ、神社の息子ってだけで、天満宮の子息は苦労するらしいからなあ」

「・・・・あ」


正歩は学問成就の天満宮の家族に、思わず同情した。


「俺の1つ下にいたんだよ。天満宮の子が。五教科全種類違う家庭教師付けられて、失敗できないって。まあ、神社枠で受かって、杜之を卒業出来てよかったんだけどな」


それはなんというプレッシャーだろう。天満宮は、合格祈願をする神社だ。それは失敗を許されまい。五人の家庭教師など想像すれば、いかに正歩は恵まれているかわからない。


「ま、葵ちゃんも無事に編入試験に合格したことだし、正歩もあと少し、がんばってね」

「体だけは壊すなよ」


恵まれている、というのはこの両親に生まれた事が一番かもしれない。

それは口に出せないけれど、ちゃんと親孝行はしよう、正歩はきれいに微笑んで、頷いた




神職資格の取り方は昔とまた少し変わってます。今の宮司世代の方々はぎりぎり、大学出れば、明階取れる感じだった方が多いかな。大学卒業で、明階取れる資格をもって、神社で働いて、取るようになった方もいるかとは思うんですが。今回紹介したのは現況ですので、また変わっていくかもしれません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ