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38 遅ればせながらの夏休み

いつもお寄りいただける方、ブクマしてくださってる方、ありがとうございます。

細々地道にゆっくり更新で、まいります。

どうぞよろしくお願いします。

合格が決まり、9月からいよいよ杜之学院に通うことになった。

とはいえ、今はまだ、8月、夏休み。

学校行事から離れて生活してたから、今更「夏休み」という言葉をもらうと、なんとなく浮かれる。

7月初旬は夏の大祭で私的な予定は入れてなかったし、祭りが終わった後は、編入の手続きに追われてたけど、学校の予定に乗っかっていたわけではない。

それでも「休み」の二文字が輝かしい。


合格をもらってからは、神社でのバイトもなく、八百藤で手伝いするのがメインとなった。

8月は神社の閑散期、だ。嘉代さん、住谷さんたちも結構まとまった休みをもらって、好きな時間を過ごしたり、家族サービスをしたりしている。


八百藤に来る常連さんにもよく声をかけてもらえるようになり、接客も楽しい。

配達先でも他愛ない話をしながら、商品を渡したり、注文を受けたり。

土地柄なのか、幸波町の人たちは、温かくて、人懐っこい。


亜実さんのお腹は結構大きくなっており、動きにくいところもあるみたいだった。

午後は眠くなるらしいので、休憩を多めにとってもらって、私と奏史兄さんとで、店に出ている。

でも、よく働くんだよなあ。妊婦ってこんなに動くの?

産休って何か月から取るんだっけ?産休取る人って、その間仕事休むわけだよね・・・。

亜実さんは妊娠8か月だ。普通の勤めをしてる人は、産休に入ってるはず、なんだけど。

自営業の人って自分で産休ってとれない、だろうなあ・・・。

それも体の方が先に動く亜実さんの性分では、難しいことだろう。

奏史兄さんも心配して、休むように言ってるんだけど、亜実さんは聞かない。

こないだは亜実さんの実家のお母さんが、八百藤が気になって働いちゃうなら、しばらく実家に帰ってなさいってわざわざ忠告しに来てた。初出産だもの。親は心配するよね。

ま、亜実さんの場合、実家も神社近くで、すぐに帰れるし、行ったとしても、すぐに八百藤に働きに来てしまう気がするんだけど。


私は毎日日参するから、毎日、亜実さんの安産をお願いしている。

生まれたての赤ちゃん、というのを身近で感じられるチャンスだ。合格もできたし、お陰様を考えたら、亜実さんにもいっぱい助けてもらったから、一生懸命お願いして、亜実さんに喜んでもらえるように動きたい。そして、元気に赤ちゃんが生まれてきたら、できることをさせてもらおう。


「亜実は元気にしているみたいだな」


本殿で参拝していると、サキナミ様がいつものように顔を出した。


「お蔭様で」

「しかし、あいつは真面目だからなあ。働きすぎてないか心配なんだが」


神様は見抜き見通しだ。私は思わず、苦笑いした。


「葵も毎日お願いしているようだが、ちょっと気を付けてやってくれ。気を張りすぎてるから、それが体に出るかもしれない」

「・・・え?」

「神様からの勧告みたいなやつだな。あんまり無理してほしくないな、と強制的に休ませられるような事態になるかもしれないぞ」

「神様が、そんなことするんですか?」

「必要であれば、な。まあ、大事にはならないと思うが、一人で動いてるわけではない、ということを亜実が理解していないとな。お腹に子供がいる、という事、それから周りに頼れる人がいるってこと。それを感じて、感謝して動ければ、大丈夫だとは思うんだが。」


サキナミ様は後ろで結わえた髪をくいくい、ひっぱりながら、思案深げに私に語る。


「亜実もわかっているとは思うんだ。しかし、夢中になってそのことを置き忘れていると、体に出てくることもある」

「それって、病気なんかになって、神様に休ませられて、動けなくなるってことですか?」

「そういう可能性もあるってことだよ。大体、病気なんかは、神様のメッセージなんだ。気が付きなさい、止まって、今考えてごらんなさいっていう合図のことが多いんだ」

「へえええ」


私が参拝を済ませると、サキナミ様がひょい、と肩に乗ってきた。


「季子が帰りに寄ってくれ、と言ってたぞ。」

「一緒に行くんです?」

「名店の水ようかんを出すと言っていた。私も、行く」

「・・・・・」


サキナミ様は本当に人間臭い。甘いものが好き、とか。なんだか可愛らしい。


「そういえば、かまいたちはまた旅に出たんですか?」


ふと、実家から連れ帰った境界人を思い出して、私は尋ねた。


「ああ、風早か。ちょっとこの近辺・・・まあ関東一円くらいだがな、回っている。ここを基盤に動いてくれるようだから、また近いうちに会えると思う」

「そうですか」

「葵」


私の名を呼びかけて、サキナミ様はこてん、と頭を私の首元に寄せた。


「どうしました?」

「かまいたちと出会ったり、他の境界人にも巡り合えたわけだが・・・。これからも見えないものが見えたり感じたりすることが出てくるかもしれない。お前は、その昔、この地を訪れた旅芸人の踊り子、あさ、の生まれ変わりだ。」


初めて、サキナミ様が、あさ、の事を言及してきたので、私は大きく目を瞬かせた。


「昔の人間はそういうことが出来る者も多かったが、あさ、はとりわけ、周りより強い力をもっていた。お前も少し思い出しているだろうが、今後、あさの力に影響されて、葵自身が目覚めさせていく力も出てくるのじゃないかと思う。・・・・その、・・・お前は・・・大丈夫か」

「サキナミ様?」


何が大丈夫、と心配しているのだろう。前世のことも、事実なのだし、力の事も、私自身の問題なのだから、どうなるかわからない。私は、多分、ハテナだらけの顔で、サキナミ様を見ていたと思う。


「怖くは、ないか?」


心配してくれてるんだ。小さい体になると、童顔になり、大きな瞳になるサキナミ様。そのきらり、とした目に私は胸をわしづかみにされた。


「大丈夫ですよ、怖くないです。」


私が応えると、サキナミ様はその大きな瞳を優しく凪いで、再び、私の首元に頭を寄せた。


「心地よいな、葵の気配は。」

「そうですか?」


気持ちよさそうに、目を閉じるサキナミ様を肩にのせたまま、、私は祢宜さんの元へと向かった。

今日は神社の方では、紘香さんが、舞の稽古をしている。

CDの音と共に、紘香さんの声が聞こえる。二人の巫女さんが紘香さんに指導を受けているのだ。

こないだ寄ったときに見せてもらったけど、とても素敵だった。

巫女さんの一人は、一度会ったことのある宮園さん。

宮園さんは私が夏の大祭で舞った二人舞をばっちり見てたらしく、「あれ、かっこよかったよ~」って言ってくれた。・・・いや、思い出すと気恥ずかしいんですが。

秋の祭りの手伝いは頼まれてはいるけど、こないだみたいな事にはならなそうだから、少しほっとしている。

暑い日差しの照り付ける、境内。

蝉の声が一層それを熱くする。

ああ、水ようかん、私も楽しみになってきた。


ああ、年内にせめて秋祭りまで終わらしたかったんですが。むずいかな、むずいかもなあ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

夏の話ですが、今書いている私は師走を前の必要年賀状数を数える霜月にわが身を置いてます。



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