37 編入試験
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編入試験日はあっという間にやってきた。
お断りはしたんだけど、大学行く前に送っていくから、と由岐人さんに強めに言われて、今日も付き添いつきだ。今もまた、電車とバスを乗り継いでいく。
大学って、由岐人さんが行くのは、高等部の隣のキャンパスじゃなくて、都心部の方なんだけど。わざわざ回っていかなくても、とは思うんだけど。
試験開始は9時から。う~ん、何時限目から由岐人さんの授業あるんだろう?大学生って1時限目からない場合もあるんだろうけど。遅刻させたら申し訳ない。
そんなことを悶々と考えていると、由岐人さんがぐいっと顔を近づけてきた。
「なんか、気を使ってる?」
近い、近い。由岐人さんの目ってすごく印象的な強い感じがして、引き込まれる。
「俺の事は気にしないで。大体、今回のはサキナミ様と宮司命令も入ってるし」
「へ?」
え~と、サキナミ様ったら、ちゃんと今朝、「大丈夫だな」って送り出してくれたのに。
宮司さんってば、何命令してくれたんだろう。
「大学も十分間に合うから心配しないで。」
「そう、です・・・か」
まあ、ここまで言われたら、気にするも悪いよね。みんなが心配してくれて、想ってくれてるのかと思うと、嬉しいのとありがたいので胸がいっぱいになる。
実は、昨日はみんなで合格祈願をしてくれたんだ。
一応、幸波神社でも、合格守を扱っているから、それを求めたんだけど。
それを見てた嘉代さんが内線で、宮司さんを呼び出して。
にわかに、紘香さんがニコニコしながら、何か準備し始めたかな、と思ったら、住谷さんが「儀式殿に行って」と言い出して、え?え?と思ってる間に、祈祷の準備が出来てしまっていた。
斎主が宮司さんで、副官が住谷さん、紘香さんが巫女として立ち回る、幸波神社の贅沢メンバーによる祈祷だった。
通常の祈祷は、職員が足りないこともあって、住谷さんや他の神主さんが一人で行うことが多い。
巫女さんがつくのも余裕がある時や、土日の忙しい時だ。
それを、こんな贅沢な状態で、私の為に祈祷してくれるなんて。
私が求めた合格守を三方の上に載せて、嘉代さんが中央に据え置く。
と、いつの間にか、その三方の上にちょこん、とサキナミ様がのっていた。
サキナミ様がにっこりとこちらを見て笑ってるなあ、と思いながら、嘉代さんに促されて、儀式殿の胡床に座り、祈祷を受けることになったのだった。
多分、大丈夫だ、という自信はある。片岡先生も太鼓判を押してくれたんだし、学力もあがったという手ごたえがある。
それでも、こんなにみんなに気持ちを寄せてもらって、受からなかったら、駄目でしょう。
前の高校受験の時はこんな感じじゃなかったな。全然違う。
合格するのかどうかって不安もあるのに、どこかワクワクしている自分がいる。
「昨日はみんなに合格祈願してもらったんだって?」
「ええ」
「高校受験の時は祈祷したの?」
「いいえ、正月に絵馬を書いたぐらいで」
レベルも下げて受けた受験だったから、もう受かる気でいたし、形ばかりの神頼みをしたんだった。
なんだか情けない思い出だ。でもこないだ行ってきて、母校だな、と思えてよかったけど。
「幸波神社は合格祈願はあんまりしないよな。みんな合格祈願は天満宮とか八幡宮でするだろうから」
天満宮って、菅原道真だからだね。学者の御祭神だから、合格祈願ってみんな行くんだよね。
でも、八幡宮って?
「八幡宮は源氏の戦いの神さんだからね。勝利の祈願を、というんで、合格祈願しに行く人がいるんだよ」
うん?何も言ってないのに、由岐人さんたら、私の考え事が分かったのかな。
「葵はクルクル表情が変わるから、よくわかる。今、なんでわかった?って顔してたよ」
「え?そうなんですか」
恥ずかしくて、思わず頬を包むように顔を覆うと、耳元でくすくすと由岐人さんが笑ってる。
そこに、大きな手が私の頭の上にぽんぽん、優しく置かれた。
「可愛いなあ、葵は」
「・・・っ!」
何を今言うの!と思わず顔を上げると、由岐人さんの目と合った。
「ほら、着いたよ。高等部前、だ」
由岐人さんは校門まで私を送ってくれると、「じゃあね」と去っていった。
もう・・・。さっき頭に手を載せられた下りから、可愛い、に至るまでで、私の中は試験どころじゃなくなってしまったじゃない。
・・・・・。
ああ、そうか。
うん、緊張してないや。余計な気を回すこともない。
由岐人さんのお陰で、と言うのはちょっと何か許せないんだけど、でもお陰で気が紛れたんだ。
私は、よし、と自分に小さく聞かせるように言うと、事務室に向かった。
試験会場である教室に案内される。
いよいよ、試験が始まる。
五教科終わったら、面接もあるんだよね・・・。編入だから、そのくらいは当然か。
しかも面接をしているうちに、採点もされて、面接終了後に合否がわかる。
鞄につけた合格守を握る。合格の不安から、ではなくて、送り出してくれたみんなの心を受け取るように。
そして、大事な扇を取り出して、見つめた。当然、筆記具の近くに置くのは駄目だろうけど、休み時間に手にするのはありだろう。鞄の取りやすいところに入れると、そばにサキナミ様がいるように感じた。
シャーペンと消しゴムを出して。私はまっすぐ黒板の方を向く。
試験官がプリントを持ってきた。
私は大きく呼吸をした。
*****
「はい、一色 葵さん。これ。制服作るところの案内状です」
「・・・え?」
面接が終わり、合否判定が出るまで待つように言われて、10数分。
入ってきた女性職員がにこやかに一枚のパンフレットを渡してきた。
合否の前の制服案内?
怪訝な顔をしていたに違いない。
女性はあら?という顔になり、やがて、察したのか、コホンと咳ばらいをして、私に伝えてくれた。
「合格ですよ、一色さん。おめでとうございます」
「!本当ですか、ありがとうございます」
やった!これでこの学校に入れる!嬉しくて思わず立ち上がる。女性はそんな私に手を差し伸べてきた。
「二年生の国語担当、山内です。多分、担任にもなるかな、よろしく」
うん?山内?
「ごめんね~!うちって女子の数が圧倒的に少ないから、すっごく嬉しくて!先に制服の案内しちゃった!」
なんだかか明るい先生だな。親しみやすいけど、この親しみやすさ、どっかで同じ感じの人がいたよなあ。
「兄さんには内緒にしといてね!いい学校生活にしましょう!」
・・・兄さん?・・・そして、このさりげなくお願いが上手な感じ・・・山内・・・まさか・・・。
「えと、もしかして、山内宮司さんの妹さんなんですか?」
「あれ?聞いてなかった?」
先生なの?と思わず、聞きたくなる感じの可愛さで、首をかしげるこの女性に、私は宮司さんの面影を見て、ああ、と内心、納得した。
「山内 わと、よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
こうして、編入試験は無事合格。担任予定の教員はまさかの宮司さんの妹だった。
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