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36 杜之学院高等部

こちらに来ていただいた方、ありがとうございます。いつも来てくださってる方には重ね重ね感謝を。

つたない文ですがよろしくお願いします。

なんか・・・妙に緊張する。

慣れ親しんだ隣の人間の顔をろくに見ることもできずに、私は視線を忙しく泳がしていた。


今、私は編入試験を受ける、杜之学院の高等部に向かっている。

編入試験の手続きをするためだ。


幸波町の最寄り駅から、電車で15分、更にバスで10分ほどの所に、それはある。

隣接して、杜之学院の大学1,2年生時に通う一般教養を学ぶキャンパスが建っている。

ちなみに杜之学院の大学自体は都心部にあり、幸波町の最寄り駅から電車で30分、歩いて10分ほどの所らしい。


で、その場所に馴染みのある人が案内がてら、連れて行ってくれることになったわけだけど。

そうだよね・・・そうなりますよね~。

もちろん、それは、桐原さん。・・・えと、由岐人さん。

隣で歩いている時はまだいい。なんとなくついていくのと、体が動いてるから、気にならない。

しかし、電車とバスの中の気まずさよ!

一緒に行くからそばにいるし。声も近くなんだよね。

意識してしまうから、本当に困る。緊張する。


実家から帰ってきたあの日、由岐人さんに抱きしめられて、なんだか、何かがおかしくなった。

意識しないように、と気持ちを聞いてから、友達としての関係を保つべく、平然といられたはずなんだけど。

私ったら、やっぱり、「あさ」なんだよね。幸実さんを想っていた、あさ、なんだ。

気持ちが重なってしまうというか。思いが募るような感覚と言うか。

あの後、体を離されて、寂しいと思ってしまって。そのこと自体にもう、え?って感じなのに。

前世のあさと幸実さんの逢瀬の姿が脳裏を走って、こちらまで気持ちが切なくなってしまう。

でもこれは私の気持ちなの?あさの気持ち?

・・・それとも、あさの気持ちって言い訳してない?

ああ、わからない。


でも、今そばにいるのは嬉しい。それは、多分私の気持ちなんだ。

近づくと、由岐人さんの熱がほんわり、とこちらにうつる感じがする。

触れなくても、由岐人さんを感じる。

それを、どこか、よし、としている私は、今のこの状態を喜んでいる。


・・・はずなんだけど。


やっぱり気恥ずかしいよ!目が合ったり、息がかかる。

その瞬間に、由岐人さんの気持ちを思い起こして、勝手に顔が熱くなる。

電車とバスの中では一方的に由岐人さんが話し、私はいっぱいいっぱいの頭で、簡単な返事を返すのが精一杯。

挙動不審に、窓や他の乗客に視線を流し、ひどく落ち着かなかった。

今、私たちはバスに乗っている。座る場所がなく、私はポールにつかまったまま、由岐人さんは吊革につかまったまま、並んで立っている状態だ。


「葵、大丈夫?」


名前を呼ばれても、ドキリ、とする。重傷だ。

自分の気持ちをはっきりさせられないけど、これは、もう意識してしまっている。


「あ、大丈夫です」


視線を合わせないまま、ぼそっと応えると、ふうっと大きく息を吐きだしたのが聞こえた。


「・・・緊張、してるの?」

「いや、そんなことは」


心配させてる、と思わず顔を上げると、ばっちり目があってしまった。

慌てて、下を向くと、にわかに、左手を握られた。


「初めての所だからね、緊張するのも無理ないよ。大丈夫、俺がいるから」


そう言いながら握った手をゆっくりと振ってくる。

いやいや、そのあなたがいるから、挙動不審なんですけどね!


「それとも・・・俺といて、少しは意識してくれてる、とか?」

「!!」


人が悪い!確信犯じゃない!何なのこの人!

・・・あ、いや、待て。こういうの慣れてる人だった。

動揺しちゃだめ、動揺しちゃだめ。

・・・でも、私、つながれてる手が、嫌じゃない。

だけど、馬鹿だ、私、ボキャブラ不足で何も返せない。

認めてるも一緒じゃない・・・・。


「ふふっ。困らせるつもりはなかったんだけど。まあ、そういう顔も俺は好きだよ?」

「・・・そういうこと、いろ~んな女の子に言ってきたんですよね?」


ようやく私にも反撃のチャンスが来た。と思ったんだけど、無駄なあがきだった。


「お?焼きもちも妬いてくれるようになった?これは期待してもいいのかな」


くだけた感じで言っておきながら、真摯なまなざしでこちらを見つめるから、私はもう何も言えなくなってしまった。何か言わなきゃ!と思ったその時、バスが学院前の停車場に停まった。

運がよかったのか、タイミングが良かったのか、話はそのままになる。

私たちは降り遅れないように、バスを降りた。


「ようこそ、杜之学院高等部へ」


由岐人さんがにこやかに私を誘う。

バス停からすぐのところに正門がある。石造りの塀と門、そして学校の建物全体を広く大きく包み込むように、濃い緑の木々が茂っている。校舎は普通のコンクリ仕様だが、全体を見ると、その茂った木々のせいで、緑色の印象がとても強い。

門を入ると、すぐ右手に小さな社があった。


「神社?」


ご丁寧に鳥居まである。わ、手水舎もある。


「一応、神道の学校だからね。大学の方にも、隣のキャンパスにもこんな感じの社はあるんだ」

「へえ」


見ると、三方をもった白衣姿の人が神社の前をウロウロしていた。


「え、あれ、神主さんですか?」

「いや、あれは神社の作法を学ぶサークルがあるんだけど、その生徒だよ。神饌物のお供えもお下がりもするんだけど、今、それの最中かな」


ふわ~なんか、驚き。神道の学校ってこんなんなんだ。

今はもう夏休み。じゃあ、そのサークル活動で来てる生徒なんだなあ。

まさかの制服が白衣袴ってことはないだろうけど・・・と、そんなことを考えながら、その白衣姿の生徒を目で追っていると、制服を着た生徒たちがやってきて、一緒に話始めた。

あ、制服は普通だ。

今は夏服、なんだけど・・・。

男子は白のワイシャツに緑のネクタイ、ズボンが濃いグレー地だ。女子は白ブラウスに、スカートが濃いグレーのチェック柄で、緑地のリボンをつけている。

一見地味な感じだけど、品があって、私は好きになれそうな制服だな、と思った。

冬はこれに黒のブレザーを着ていくみたい。由岐人さんが教えてくれた。


あ・・・受かったら制服買わなきゃいけないんだよなあ。結構かかるかもしれない。

・・・頑張って働こう。


「葵に似合いそうだね。楽しみだ」


由岐人さんがそんなことを言うので、私は低い声で言い返した。


「まだ、試験も受けてないですけどね」


そう、片岡先生にお墨付きもいただいたけど、受からなきゃダメなんだから。

私は事務室を探そうと、校舎の案内板を見つけて、目で1階から順に読んでいく。

読み始めた途端に、由岐人さんが察してくれて、事務室まで案内してくれた。

1階の入り口そば。カウンターが部屋の前についており、そこに小さな窓がついていた。

小さな狛犬がそのカウンターの両脇に飾られているのは御愛嬌だろう。

編入試験の手続きを済ますと、15分ほど待たされて、試験日が通達された。


8月10日。

今日から大体2週間後に編入試験の日が決められた。

よし、がんばる。

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